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シンデレラ

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「あ、ごめんなさい。ぼく、ダンス下手で。というか、全体的にいろいろ下手で。なにをやっても呪われたように下手で。こないだも絵を描いたんですけど、乳母さんが『上手な千手観音ですね』って。ぼく、クモを描いたつもりだったんですけどね。そんな複雑なものを描いたつもりはないんですけど。やることなすことそんな感じなんです」

 王子は自信のない目で、そう言います。下ばかり向いて、シンデレラのほうを見ることもできません。

「ほんとうはぼくが王子なんて、ふさわしくないんですけどね。実際、陰ではそう言われてますし。あなたも、がっかりしたでしょ。王子がこんな人で。はは、期待はずれで、すいません」
「しゃんと、立つ!!」

 シンデレラが突然大声を出したので、会場の注目が二人に集まりました。

「あ、あの…?」
「相手の目を見る。そのまま離さない」
「は、はい」
「声が小さい!」
「は、はいっ!」

 シンデレラは王子があまりに情けないので、猫っかぶりをやめてしまいました。王子にこんな口の利き方はもちろん御法度ですが、シンデレラのあまりの勢いにまわりもつい止めるの忘れています。

「足取りしっかり。堂々として」
「はい」

 さっきよりはましなダンスになりましたが、今度はほかの組にぶつかってしまいました。

「ご、ごめんなさい」
「謝らない!」
「え、でも…」
「いいの!よそ見しない!」

 その後もシンデレラは「もっと体を引き寄せて」「表情やわらかく」と助言を続けます。気づくと二人はホールの真ん中で踊っていました。

「こんな真ん中で踊るの、上手くもないのに」
「下手でもいいの」

 シンデレラは王子の目を見て言います。

「下手でも、堂々としていいの。真ん中に立って、笑ってくる人は、笑い返してやればいいの」
「あ…」
「むかしお母さんがね、そう教えてくれたの。うふふ、あの人パパの前では純情ぶってたけど、ほんとはわたしと似てるんだ。一緒なの」
「きみの…名前は?」
「シンデレラ。シンデレラよ」

 時計を見ると、もう十二時十五分前です。十二時になると、白馬の主人が厩舎を見回りにきます。そのときまでに馬が戻っていないと馬丁は大目玉をくらいます。パン屋の主人も、明日のパンの仕込みがあります。信頼して協力してくれた二人のために、シンデレラは戻らなくてはなりません。

「ごめんなさい。わたし、行かなきゃ」
「待って、シンデレラ。次はいつきみに会える」
「わからない。でも覚えといて、王子さま。下手な絵でも気にしない。不器用なダンスも堂々と。真ん中で、しゃんと立つこと。忘れないで」

 シンデレラはていねいにおじぎをすると、急いで大広間を出て行きました。慌てた拍子にガラスのくつが階段にひっかかって、ガラスのくつがぬげてしまいました。しかし取りに戻る時間はありません。シンデレラはパン屋の主人と一緒に白馬のうしろに飛び乗ると、急いで馬を返し、みんなにお礼を言ってから家へ帰りました。

 王子はシンデレラのあとを追い、階段でガラスのくつを見つけました。

「シンデレラ。もう一度、会いたい」

 次の日から、お城の使いが国中を駆け回り、手がかりのガラスのくつが足にぴったり合う女の人を探しはじめました。しかしシンデレラのくつのサイズは23cm。これは全国の成人女性の一番平均的なサイズです。明らかに探し方が間違っていました。次々に「わたしがシンデレラだ」「いや、我ぞ真のシンデレラ」と自称シンデレラを主張するものがあらわれました。

 これではラチがあきません。そこで町内の年頃の娘を広場に集め、王子が直接見定めることにしました。どんな身分のものも参加させるようにとのお達しだったので、シンデレラもお姉さんたちと一緒に行くことになりました。

 しかしシンデレラは気が乗りませんでした。舞踏会の夜、遅く帰ってきたことで彼女は継母から疑われていました。継母はシンデレラが王子に選ばれるくらいならお父さんと別れると言いました。お父さんはとても寂しがりやです。お母さんに先立たれたときもお父さんは何も食べれず、何も話せず、涙を流すことしかできませんでした。継母に見捨てられたらお父さんは今度こそ死んでしまうかもしれません。それを思うと、シンデレラは自分が選ばれるわけにはいきません。

 そんなシンデレラの心境をよそに、年頃の娘たちの品評会は進んでいきます。参加者数は二、三百人にものぼったため、王室の人が審査してから王子に会わせることになりました。二人のお姉さんたちは今度こそ最後のチャンスと意気込み、気合いを入れてのぞみました。もともとお姉さんたちもそこそこにきれいな女の人です。妹は目元が大島優子に似ていますし、姉は口元が指原莉乃に似ています。

 しかし彼女たちはシンデレラのとなりに立っています。審査員がシンデレラと二人を交互に見比べます。堀北真希と目元だけ大島優子とのあいだには超えられない大きな壁がありました。堀北真希と口元だけ指原莉乃とのあいだには広大な海が広がっていました。お姉さんたちは予選落ち、シンデレラは王子に直接見定められることになりました。

 王子の前に呼ばれた娘は二人だけでした。シンデレラともう一人はパン屋の主人の娘でした。パン屋の主人はとても複雑な目で二人を見ています。

「お二人。どちらがシンデレラか、正直に申し出よ」

 王子の付き人の問いかけに、パン屋の主人の娘が答えます。

「はーい、ぶっちゃけ私でーす!なんかー、王子さまとはさいしょっからめっちゃ相性よくってー、もうすぐに『大好きぃ☆』ってなっちゃいましたー!ちなみにぃ、EXILEの中では、アツシが大好きでーす!」

 ギャル誌のモデルのようなしゃべり方に、王室関係者は頭を抱えました。近くで見守っていたパン屋の主人も頭を抱えています。

「…王子、彼女の言うことは本当ですか」
「うーん、悪くないよ。悪くない」

 王子は質問に答えていませんでした。それもそのはずです。王子は娘の顔しか見ていなかったのですから。パン屋の娘は頭はアレですが、顔は北川景子そっくりでした。これになびかない男はぶっちゃけいません。男は面食いです。それはもう、天地がひっくりかえってもそうです。王子もこの道理にはあらがえませんでした。

 これにはシンデレラも腹が立ちました。「顔だけやないかい」と思いましたが、これがうっかり口にも出ていました。

「なにをぶつぶつ言っている。きみはどうなんだね」
「えっ、私は…」

 そのとき、シンデレラには父親のことが頭をよぎりました。

「…わたしは、シンデレラではありません。人違いです」
「ぼくの目を見て言ってくれ」

 突然、王子がシンデレラに向かって言いました。しかしシンデレラは顔を見られるわけにはいきません。ずきんを深くかぶり、下を向いてしまいました。

「おい、きみ。王子が顔を見たいと言って…」
「もう結構です。ここにシンデレラはいません」

 王子はきっぱりと言いました。みんなが困惑する中、王子がシンデレラを見て言います。

「ぼくの知っているシンデレラは『しゃんと立て』と言いました。そのシンデレラはここにはいません」
「…」
作品名:シンデレラ 作家名:tiktak