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魔王城まで何マイル?

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勇者決起編その2



「・・・魔王なんて居なかった」

呆然とつぶやくのは意気揚々と町を出てきた暫定勇者のルイスである。

「魔王なんて居なかったんだよコノヤロウ!家に帰らせろ!」

元がニートで引きこもりなので家の外に長時間居ることが耐えられないのである。なんとも悲痛な叫びだが場所は既にユレイクスの町から少し離れた所にあるチェルフィーニオという町に着いていた。

「よ、ようこそ。ここはチェルフィーニオの港町よ」

町の入口で案内をしてくれる女性もルイスの叫びに顔が引きつっている。
こんな姿で勇者などと触れ回っては勇者のネームバリューにも関わる。ルイスは慌ててきりっとした表情を取り繕うと案内役の女性に向かっていった。

「ハローワー・・・じゃねえや。ギルドはどこにありますか?」

「ギルド?冒険者の方ね。この町のギルドは教会の隣で酒場と一緒になっているわ」

「ありがとう、お姉さん」

うっかり求職者時代の呼び名が出てしまいそうになったが、求職者の言うハローワークというのは冒険者たちのギルドという職業別の人材派遣組合だ。
ルイスは今暫定ではあるが勇者という職業に就いているためギルドへは魔王討伐パーティを組むための人材を紹介してもらいに行くのである。

「おや、君か」

「げっ!てめえは俺んちでいっつもタダ飯食ってくハゲ!」

ギルドのカウンターでそれっぽくコップを拭いていたのはなんとルイスの家でしばしばタダ飯ぐらいをしていく男だった。立派な本名があったのだが母親共々ハゲだのなんだのと呼ぶので正確な名前はルイスにも思い出せない。
この男はルイスと同じ町の出身なのだが仕事を探しに各地を転々としていたらしい。そのせいで自分の家が勝手に貸家にされていたというなんとも間抜けな男だ。

男はコップをカウンターへ置くとにやりと笑った。

「ハゲではない、ファッションガーデンなのだよ」

「よくわかんねえ言い方で頭の惨状ぼかすんじゃねえ!とっとと人材紹介しろハゲ!」

「そんな口を聞いていいのかなルイス君。おっとこんなところに遊び人の大量雇用計画書が」

「職権乱用!」

「まあ安心したまえ。私はただの臨時雇用だ。というか寧ろ私を連れて行かないか?もちろん正規雇用で」

「連れて行かない」

「そこをなんとか」

「無給でも?」

「遊び人3人紹介入りまーす!」

「待て待て待て待て!何ふざけたこと言ってんだこのハゲ!」

「ハゲではない。私の頭はファッションガーデンなのだと何度言ったら」

「わけわからん造語作ってねえで仕事しろ。今すぐ僧侶と魔道士と賢者連れてきな。できるなら経験者で」

「私のおすすめは武闘家と騎士と盗賊だよ」

「悉く呪文使えねえメンバー編成推してくるんじゃねえよ!」

「やれやれ・・・困った坊やだ」

「その言葉をバットでそのまま打ち返してやりたい」

ギャーギャー騒ぐのでいつの間にかルイスは周りの注目を集めていたがそれどころではなかった。このオヤジはやるときはやるのである。
魔王討伐パーティは少なくても多くても危険である。最も適した人数は4人だ。遊び人3人を連れて魔王討伐できるほど旅は楽ではないし何しろルイスは今でこそ勇者なんて立派な肩書き付きだが数時間前までニートだったのである。体力的にも無理だ。

「では紹介しよう。僧侶と魔道士、それに遊び人だ。バッチリ経験者も居るから安心したまえ」

「オイコラハゲェェ!」

ルイスのストレートがオヤジの腹に決まった。大げさな吐血をしながらオヤジは説明する。

「はじめから賢者なんて職業の冒険者がこんな町に居ると思うのかね?ハハッ、愚問だ」

「なんだろうこのイライラは」

「安心したまえ。この先ずっと冒険が進めば転職できる施設が整ったギルドがあるはずだ」

「・・・ほかの紹介は?」

ルイスは自分の顔がひきつるのがわかった。
元々ルイスの計画では、僧侶にバックアップを任せて、自分と賢者で接近戦をして魔道士に呪文攻撃を任せるつもりでいたのだ。賢者といえば武勇と英知を極めた者であるのでどのみち冒険には手馴れている者が多い。
まだまだ初心者のルイスと組むには絶好の相手だと思ったからだ。

「それはほかの職業?」

「ああ」

「残念なことに海の向こうの王国の有志で今全員出払っていてね。今ギルドに登録しているメンバーがこれで最後なのだよ」

「マジかよ・・・」

それがなんだ。賢者の代わりに遊び人がやってきたではないか。装備品がまだ初期のままなので誰がどの職業が全くわからないが。
ただ、経験者がこの中に居ればある程度はやっていけそうである。それにパーティが3人しかいないよりは戦力はひとりでも多い方がいい。転職できるギルドに着くまでの辛抱だしなんとかやってみよう、そう決意したルイスであった。

「それじゃあこのメンバーで頼む」

「わかった。そして紹介料だが・・・まあいつも君には世話になっているから特別にサービスしてやろう」

「なんだろうこの見下されてる感じは」

そんなこんなで晴れてルイスは魔王討伐の一部隊のリーダーとなったのであった。
改めて顔ぶれを確認してみる。3人のうち、女がひとり、男がふたり。女はこの辺ではあまり見ない顔立ちをしていた。

だが大人しそうで年齢も一番近そうである。もしかしたら彼女も冒険初心者かも、冒険してる間にあんな展開こんな展開になっちゃったり・・・そんな淡い期待を寄せてルイスは彼女に声をかけた。

「よう!今日からよろしくな!俺、ルイスって言うんだ。18歳」

「はじめまして。よろしくお願いしますね、ルイス。私はアキラ・リーと言います。漢字ではアキラは瑛と書きます。年は17です」

「カンジ?」

「あ、私の国の言葉です。東の大陸の倭国という国の生まれで・・・」

「ワノクニ?」

残念なことにまだ知識が豊かではないルイスには、瑛の言うことが全く理解できない。
倭国という国の生まれらしく、黒い髪と黒い目、白い肌のコントラストがまぶしく見えた。

「ええと・・・うーん、海の向こうの国の生まれです」

困ったように首を傾げた瑛はちらりと隣の男を見上げた。男は仏頂面で瑛を睨みつけ、そのあとルイスを睨みつけた。

「バージルだ」

「よ、よろしく」

ルイスよりも長身のバージルはやけに威圧的にルイスを睨みつけたかと思うとふいっと顔をそらしてしまった。

「・・・?」

首を傾げるルイスに馬鹿に朗らかな声が飛んできた。声の主は考えるまでもなく、名乗りをあげていない最後の冒険者である。

「ハアイ!お兄さんを呼んだ?」

「呼んでない帰れ」

「ちょっ、それ酷い!俺一応初対面だよ?君と初対面!ねえ!」

「いや・・・それはわかるんだが、なんだかアンタにはそういうアタリをしなきゃいけない使命感にかられて・・・」

「なんだいそれは!」

なんとなく、なんとなくだがこいつが遊び人だろうという予測はできた。
ルイスはジト目になるのをなんとかこらえて自分の名前を言おうと口を開きかけた。

「俺はルイ・・・」

「ああ知ってる知ってる。横で聞いてたよ」

「食い気味に言うことかそれ!」

「俺はアレン。世界を股にかける遊び人さ!」
作品名:魔王城まで何マイル? 作家名:中川環