Lady go !― 幸せがクルマで♪ ―
___20000km 〜 彼
それじゃぁ ワタシと彼が出会った頃のことから聞いて貰おうかしら
ワタシはこのご主人様のことを「彼」ってよんでいたわ。なぜって、まだ若い彼にしてみれば「ご主人様」って呼ばれるよりは、彼って呼ばれるほうがシックリくるんじゃないかって思ったからよ。ワタシだってそのほうが片意地はらないでいいわけだし、それに親しみやすいしね。
その彼がワタシのパートナーになったのは いつからだったかなぁ。
その前に…、実はワタシは生まれて初めて外の世界に連れ出してくれたオーナーのことは覚えてはいないの。オーナーの顔も性別も性格も、嬉しくって思いっきり走ったことも たくさんの思い出も、すっかり忘れてしまったわ。だって、お出かけかなと思って気持ちを弾ませて走って来たらこのお店に到着しちゃってさ、それからは置いてきぼりで、そのオーナーとはもうそれっきりで、とうとうお迎えには来てくれなかった。その日は何がなんだか分らなくって、数日間はパニクっちゃった。ホントにずいぶんとメソメソしていたのよ。きっとワタシのことなんて飽きちゃったのね…。だからワタシ、あの人のことは忘れることにしたの。
それからしばらくたったある日。ワタシがお店で綺麗におめかしして 他のコたちと並んで、来る日も来る日も流れる雲をぼんやり眺めて過ごしていた頃のこと。
その青年が店にあらわれたの。
そして、キョロキョロと廻りのコを見ながら店の中を行ったり来たりしていた。すると雲に覆われていた空が晴れてきて お日様がワタシたちを照らし始めたわ。自分でも嬉しくなるほどにピカピカのボディ。するとウロウロしていた青年の足がワタシの前でピタッ(ドキッ) 青年が足を止めた位置はワタシが一番素敵に見える自慢の角度だったから、ついついポーズをキメてすっごくお澄まし♪
でも、その日の青年はワタシをジックリと眺めただけで帰っていっちゃった。不思議な話なんだけど、すぐにその青年がワタシのことを迎えに来るっていう予感がしちゃって、数週間後にはやっぱりその通りになったの。いわゆる女の第六感ってヤツなのかな。その青年が初めてワタシのボディラインを見た時の顔ったら今でも忘れられないわ(ヤッタネ♪)
あの時にビビビッ☆って感じた瞬間がワタシと青年とのメモリーの始まり♪
それからのワタシたちは夜中にドライブしたり、素敵な音楽を流してハイウェイを飛ばしたり、いつだって一緒だった。
季節が巡っても ワタシをいつも大事にしてくれた。陽射しでボディが熱くなっても その青年の鼻の頭が赤くなるほど寒い日でも変わらず一緒に居てくれたし、ワタシもその青年が快適に過ごしてくれるように願ってた。
ワタシはすぐにその青年が気に入り、「彼」って呼ぶことにしたの。
作品名:Lady go !― 幸せがクルマで♪ ― 作家名:甜茶