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stage1
「ユミ先~輩 私、結婚しまぁ~す。」
手に持った携帯を耳から思わず離してしまう程、何オクターブも高く、
テンションの高いカオリの第一声だった。
カオリは、会社の5つ下の後輩、可愛くって、甘え上手。
仕事で失敗を繰り返しても憎めない。誰もが手を貸してやらなきゃってつい思っちゃう。
世の男どもはどうして、こうもふわふわした綿菓子みたいな女の子を好むのだろう。
「ユミ先輩、聞いてます?」
「あ、うん、聞いてる。」
「結婚式場ね。なんと、あの時~み~んなで見学に行ったセントグレース大聖堂なんで~す。ユミ先輩、お祝いの言葉考えといてくださいね。あ、それから~…….」
カオリはいつものようにさんざん喋り捲って、携帯を切った。
二人掛けの白いソファに胡坐をかいて座っていた姿勢を崩し、体を横にした。
電気の点いていない天井を見あげている。月の灯りがうっすらと部屋を照らしていた。
やっぱりね。カオリが最初に結婚か。解ってはいたけれど…..。
会社の営業を兼ねていつものメンバーと参加した結婚パーティーを思い出していた。
2年も前のことなのに、今も鮮明に覚えている。
淡いピンク色のフリルいっぱいのウェデングドレス。栗色の髪は肩の所でくるくる巻いてあり、くりっとしたドングリ眼にはバサバサつけまつ毛をつけて。アヒル口にはshocking pinkのグロス。
若い10代の新婦さん。
その隣にいたのは―。
背が高くて、適度な筋肉がついた体型が好きだった。左の口角を上げて笑うあなたの顔が好きだった。なにより、スマートなしぐさが好きだった。
私は何時でも、大人のあなたに憧れていた。
そんなあなたに、私は合わせようと背伸びをして物わかりの良いかっこいい女を演じていた。
「君は、僕に一度も甘えてはくれなかった。僕なんていなくても君は生きていける女だ…..」
そう言って、他の女(ひと)に乗り換えていったのよね。それも次から次へとお盛んに。
その挙句に、10代のきぁぴきゃぴギャルと結婚だなんて。
いつから女の子の趣味が変わったのよ?
デレ~っとしちゃって、鼻の下相当伸びてたわ。
嫌なこと思い出しちゃった。今も相当引きずっちゃってるのに。
「はぁ~」
煤灯りの部屋にため息が零れた。
不意に、ドアのカギを開ける音がした。 集中力を両耳に向ける。
ドアが開いた。靴を脱ぐ音がする。鍵の、ジャラジャラという音が静かな部屋に響いた。
部屋の明かりが点くも一瞬眩しがったが私は、思わず寝たふりをした。
「またここで寝てるのか?まったく、どうしようもないやつ。」
テーブルに鍵を置いて近づいてくる気配がわかる。一歩、また一歩と。
足音が止まり、目を閉じた顔に近づく気配。
思わず顔に息がかかった瞬間に目を開けてしまった。10センチもない距離感に心臓が高まる?!
「お前、寝たふり?」
そう言った彼の少し日焼けした笑顔に白い歯が見えた。
「風邪ひくぞ。自分の部屋で寝なよ。」
彼の顔が離れた途端、我に返った。
体を起こして部屋に行きかけた。
「お休み…….」
「ねぇ、何かあった?」
「えっ?」
「お前って、ホント解りやすいから」
「何よ」
口をとがらせて横目で彼を見た。
「眠れないなら、来週友達の結婚式でさ。選曲頼まれたんだ。お前、専門だろ。手伝ってよ」
「いいけど」
彼と私はshareな関係。
この部屋をshareするきっかけになった二人の共通点。それがPAという仕事。
一般に言う音響さん。ブライダルや、ライブハウスのPAをしている私と違って彼は、大きな舞台を手掛けている。コンサート、ミュージカル、演劇、等々。
この業界の、アカシミキオと言ったら右に出る者はいない。彼のテクニックは神業なのだ。
私はそんな彼に憧れて弟子入りをした。
皮肉にも、あのセントグレース大聖堂に彼もまた老舗の和菓子屋のぼんぼん元彼の友人として出席していたのだ。 不思議な縁。
その時から、私たちのshareな関係は始まった。もう二年にもなる。彼は、かなりモテるんだろうなと思う。彼の服のセンス、持ち物、話し方、ふるまいどれひとつとっても、男の色気を感じる。向き合って食事をよくとる。何気なく上目づかいで見られると、思わず固まってしまう。また、同じ空間の中でTVを見たり、DVDを一緒に見たりする。隣で缶ビールを飲みながら、顔をくしゃくしゃにして大笑い。同い年だけれど、抱きしめたくなるくらい可愛いくて、私の胸は高まる。もっとやばいのは、シャワーを浴びて、髪が生乾きのまま上半身、は.だ.か.で出てこられた時。鍛えられた胸板の厚さには、鼻血が出そうな程興奮してしまう。けれど、私たちの間に、いまだ間違いは起こってはいない。師弟関係のままだ。 彼は、私を女として見ていないのだろう。だけど、彼女がいるようにも見えない。私がここで、shareしていること自体、恋人がいたら出来ない事でしょ。
彼のミキシングを扱う指先のしなやかさが好き。真剣なその横顔から目が離せない。
私はいつからか………。
「なに、見とれてんだよ。俺に」
「師匠、いつみても鮮やかな手さばきで。その手法頂きます!!!」
「ふっ、ばーか」
このshareな関係は何時まで続けられるだろう………。
1時間程でひと通りの選曲をしてアレンジし終えた。
「ありがとうな。お蔭で早く終わった」
あ、ほらまた 反則な笑顔で私に笑いかけるんだから。
私、微笑み返すも上げた口角が引き攣ってないか心配。
彼は、冷蔵庫から缶ビールを取り出し私に差し出した。
「ほら」
「あ、ありがとう」
ふたりは、ソファに並んで座った。二人掛けのソファは彼との距離が近い。
今にも肩が触れそうだ。彼からいい香りがする。
「少しは気持ちが晴れた?」ビールを口にしながら彼が言った。
「えっ?」私は彼を見た。
「お前さっ、ソファに横になってる時って大抵、落ち込んでる時が多いから」
「そ、そうかな」
「辛いなら、肩、貸してやろうか?」
「…………」
「何ならこの胸、shareさせてもいいんだけど」
「はははははっ…..」こういう時になんで、意味なく笑ったりしてしまうんだろう。
「お前、誰かに甘えたりするの苦手だろう?」
「そんなことないですよ」
「男って、頼られたりされるとさっ守らなきゃって自然に思うんだよ。その人が好きだったらなおさらね」
そんなまっすぐな瞳で、そんなこと言うなんてずるい。
そして、
「俺、お前の事が好きだよ。」そう言って彼の唇が私の唇に触れた。
少しビールの苦い味がした。胸がどきんどきんと高まる。
「まだ、酔うには早いんじゃない?」彼から体を離した。
心が弱まった時にそんな言葉を聞いてKissされた女はどうなるかってわかる?
まして向きかけてる私の心………。
「ねぇ、この続き、どうする? Shareする?」
それでも迫りくる彼。
私の体は、後ずさりするも答えは。
Share・・・・・・・・・します。
stage2
新宿の駅―。
午後22時の改札口は人で混雑していた。ここは何時の時間でも人で溢れているのだけれど。
「ユミ先~輩 私、結婚しまぁ~す。」
手に持った携帯を耳から思わず離してしまう程、何オクターブも高く、
テンションの高いカオリの第一声だった。
カオリは、会社の5つ下の後輩、可愛くって、甘え上手。
仕事で失敗を繰り返しても憎めない。誰もが手を貸してやらなきゃってつい思っちゃう。
世の男どもはどうして、こうもふわふわした綿菓子みたいな女の子を好むのだろう。
「ユミ先輩、聞いてます?」
「あ、うん、聞いてる。」
「結婚式場ね。なんと、あの時~み~んなで見学に行ったセントグレース大聖堂なんで~す。ユミ先輩、お祝いの言葉考えといてくださいね。あ、それから~…….」
カオリはいつものようにさんざん喋り捲って、携帯を切った。
二人掛けの白いソファに胡坐をかいて座っていた姿勢を崩し、体を横にした。
電気の点いていない天井を見あげている。月の灯りがうっすらと部屋を照らしていた。
やっぱりね。カオリが最初に結婚か。解ってはいたけれど…..。
会社の営業を兼ねていつものメンバーと参加した結婚パーティーを思い出していた。
2年も前のことなのに、今も鮮明に覚えている。
淡いピンク色のフリルいっぱいのウェデングドレス。栗色の髪は肩の所でくるくる巻いてあり、くりっとしたドングリ眼にはバサバサつけまつ毛をつけて。アヒル口にはshocking pinkのグロス。
若い10代の新婦さん。
その隣にいたのは―。
背が高くて、適度な筋肉がついた体型が好きだった。左の口角を上げて笑うあなたの顔が好きだった。なにより、スマートなしぐさが好きだった。
私は何時でも、大人のあなたに憧れていた。
そんなあなたに、私は合わせようと背伸びをして物わかりの良いかっこいい女を演じていた。
「君は、僕に一度も甘えてはくれなかった。僕なんていなくても君は生きていける女だ…..」
そう言って、他の女(ひと)に乗り換えていったのよね。それも次から次へとお盛んに。
その挙句に、10代のきぁぴきゃぴギャルと結婚だなんて。
いつから女の子の趣味が変わったのよ?
デレ~っとしちゃって、鼻の下相当伸びてたわ。
嫌なこと思い出しちゃった。今も相当引きずっちゃってるのに。
「はぁ~」
煤灯りの部屋にため息が零れた。
不意に、ドアのカギを開ける音がした。 集中力を両耳に向ける。
ドアが開いた。靴を脱ぐ音がする。鍵の、ジャラジャラという音が静かな部屋に響いた。
部屋の明かりが点くも一瞬眩しがったが私は、思わず寝たふりをした。
「またここで寝てるのか?まったく、どうしようもないやつ。」
テーブルに鍵を置いて近づいてくる気配がわかる。一歩、また一歩と。
足音が止まり、目を閉じた顔に近づく気配。
思わず顔に息がかかった瞬間に目を開けてしまった。10センチもない距離感に心臓が高まる?!
「お前、寝たふり?」
そう言った彼の少し日焼けした笑顔に白い歯が見えた。
「風邪ひくぞ。自分の部屋で寝なよ。」
彼の顔が離れた途端、我に返った。
体を起こして部屋に行きかけた。
「お休み…….」
「ねぇ、何かあった?」
「えっ?」
「お前って、ホント解りやすいから」
「何よ」
口をとがらせて横目で彼を見た。
「眠れないなら、来週友達の結婚式でさ。選曲頼まれたんだ。お前、専門だろ。手伝ってよ」
「いいけど」
彼と私はshareな関係。
この部屋をshareするきっかけになった二人の共通点。それがPAという仕事。
一般に言う音響さん。ブライダルや、ライブハウスのPAをしている私と違って彼は、大きな舞台を手掛けている。コンサート、ミュージカル、演劇、等々。
この業界の、アカシミキオと言ったら右に出る者はいない。彼のテクニックは神業なのだ。
私はそんな彼に憧れて弟子入りをした。
皮肉にも、あのセントグレース大聖堂に彼もまた老舗の和菓子屋のぼんぼん元彼の友人として出席していたのだ。 不思議な縁。
その時から、私たちのshareな関係は始まった。もう二年にもなる。彼は、かなりモテるんだろうなと思う。彼の服のセンス、持ち物、話し方、ふるまいどれひとつとっても、男の色気を感じる。向き合って食事をよくとる。何気なく上目づかいで見られると、思わず固まってしまう。また、同じ空間の中でTVを見たり、DVDを一緒に見たりする。隣で缶ビールを飲みながら、顔をくしゃくしゃにして大笑い。同い年だけれど、抱きしめたくなるくらい可愛いくて、私の胸は高まる。もっとやばいのは、シャワーを浴びて、髪が生乾きのまま上半身、は.だ.か.で出てこられた時。鍛えられた胸板の厚さには、鼻血が出そうな程興奮してしまう。けれど、私たちの間に、いまだ間違いは起こってはいない。師弟関係のままだ。 彼は、私を女として見ていないのだろう。だけど、彼女がいるようにも見えない。私がここで、shareしていること自体、恋人がいたら出来ない事でしょ。
彼のミキシングを扱う指先のしなやかさが好き。真剣なその横顔から目が離せない。
私はいつからか………。
「なに、見とれてんだよ。俺に」
「師匠、いつみても鮮やかな手さばきで。その手法頂きます!!!」
「ふっ、ばーか」
このshareな関係は何時まで続けられるだろう………。
1時間程でひと通りの選曲をしてアレンジし終えた。
「ありがとうな。お蔭で早く終わった」
あ、ほらまた 反則な笑顔で私に笑いかけるんだから。
私、微笑み返すも上げた口角が引き攣ってないか心配。
彼は、冷蔵庫から缶ビールを取り出し私に差し出した。
「ほら」
「あ、ありがとう」
ふたりは、ソファに並んで座った。二人掛けのソファは彼との距離が近い。
今にも肩が触れそうだ。彼からいい香りがする。
「少しは気持ちが晴れた?」ビールを口にしながら彼が言った。
「えっ?」私は彼を見た。
「お前さっ、ソファに横になってる時って大抵、落ち込んでる時が多いから」
「そ、そうかな」
「辛いなら、肩、貸してやろうか?」
「…………」
「何ならこの胸、shareさせてもいいんだけど」
「はははははっ…..」こういう時になんで、意味なく笑ったりしてしまうんだろう。
「お前、誰かに甘えたりするの苦手だろう?」
「そんなことないですよ」
「男って、頼られたりされるとさっ守らなきゃって自然に思うんだよ。その人が好きだったらなおさらね」
そんなまっすぐな瞳で、そんなこと言うなんてずるい。
そして、
「俺、お前の事が好きだよ。」そう言って彼の唇が私の唇に触れた。
少しビールの苦い味がした。胸がどきんどきんと高まる。
「まだ、酔うには早いんじゃない?」彼から体を離した。
心が弱まった時にそんな言葉を聞いてKissされた女はどうなるかってわかる?
まして向きかけてる私の心………。
「ねぇ、この続き、どうする? Shareする?」
それでも迫りくる彼。
私の体は、後ずさりするも答えは。
Share・・・・・・・・・します。
stage2
新宿の駅―。
午後22時の改札口は人で混雑していた。ここは何時の時間でも人で溢れているのだけれど。