小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

愛を抱いて 5

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

「だってさ、物は投げるし、人の背中はブン殴るし…。」
「あれは鉄兵君が悪いんでしょう? 
私は初めから、心優しき乙女よ。」
「心優しきフー子ちゃんに、俺達の貧しい食生活を救ってもらいたいな。」
柳沢が云った。
「三栄荘でよく食事会をやってるじゃない?」
「いや、手料理という物は、できれば毎晩食べたい物なのです。」
「じゃあ、柳沢君にだけ作ってあげようかしら。」
「あれ? 
どうしてさ?」
私は訊いた。
「鉄兵君は香織に作ってもらえばいいでしょう。」
「そうだ。
彼女の云う通りだ。」
柳沢が云った。
「フー子ちゃんて優しい女だったんだね…。」
私は云った。

 7月4日の夜、私は三色のセロハン紙とモールを買って、三栄荘へ帰った。
私の部屋では、柳沢とヒロシがテレビを視ていた。
私は、柳沢の部屋にある電気スタンドを持って来ると、セロハン紙を切り始めた。
「鉄兵ちゃん、何やってるの?」
ヒロシが訊いた。
「今夜の準備さ。」
私は、切ったセロハンを電気スタンドに被せて貼り付け、壁の棚にそれを取り付けた。
そして、部屋の電燈にもセロハンを貼り付けてから、電燈から壁に向けてモールを飾り着けた。
「ディスコ大会やるって、本当だったの?」
ヒロシが云った。
「勿論。
今どき、土曜の夜にディスコへ行く奴は馬鹿さ。
踊る場所なんてないんだぜ。」
「だから自分の部屋で踊るわけか…。」
電燈の色が変わると、私の部屋は違う部屋に思えた。
「近所から、苦情が出ないかな?」
ヒロシが云った。
「宴会の時は、一度も苦情は来なかったな。」
柳沢が云った。
「平気さ。
俺達が、この街の主役だ。
俺達で、住宅街の夜の色を変えるのさ。
俺達の色に、中野の風を変えるんだ…。」
私は云った。

 外でガヤガヤと女の声がして、香織と世樹子とフー子の三人が上がって来た。
「わあ…。
素敵ね。」
世樹子が云った。
「よくやるわね。」
香織が云った。

 乾杯をしてしばらく酒をたしなんんだ後、我々は全員立ち上がった。
ラジカセのボリュームを最大に廻して、ディスコ大会は始まった。
カーペットが滑ってステップが切りにくいので、靴下を脱いで裸足になった。
我々は翔ぶ様に踊った。

 土曜日のディスコは、ほとんどどこも満員であった。
人気のあるディスコでは、テーブルに座れない人間で通路まで一杯だった。
ミラーボールも、点滅するフロアもなかったが、トイレの入口の壁にすがっているよりは、ましに思えた。
ヒロシが歓声をあげた。
部屋の窓は、一杯に開け放たれていた。
我々はいつまでも、自由に踊り続けていたかった。
窓の向うに、いつもと同じ静かな夜の住宅街が見えた。


                          〈一〇、ディスコ三栄荘〉


作品名:愛を抱いて 5 作家名:ゆうとの