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愛を抱いて 2

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いい雰囲気になってると思ったら、もう二人だけの暗号造ってるのね。
いいわよ。
私、病気なんて持ってませんからね。」
ニュートラは口を尖らせた。
ヨーロピアンが、声を上げて笑い出した。

 コンパは終わりに近づき、二次会は皆でディスコへ繰り出す事が決まった直後に、事件は起きた。
西沢が「柴山がいなくなった。」と云うのである。
柴山は私から一番遠い席にいたのだが、あちらでは「一気」のかけ声が盛んにあがっていた。
我々は事前のミーティングで、まだ酒を飲み慣れていない者もメンバーにいるため、今回は一気飲みで盛り上げる事はしない約束だった。
しかし、どうも柴山の受け持ちの女が、物凄い酒豪であったらしい。
西沢の話によると、柴山はその女とウィスキーのストレートをグラスに5杯、下手をするとそれ以上一気したという事だった。
女の方は、全く平気な様子であった。
「酔っ払って、外へ出ちまったのかな?」
「確かトイレに行くって云って、席を立ったきり帰ってないわよ。」
西沢の隣の女が云った。
「トイレへは行かずに、あちらの辺で一人でテレビゲームをしてたわ。」
酒豪の女が云った。
(そいつは、いけないな…。)と私は思った。
私と西沢はトイレへ行ってみた。
柴山の姿はなかった。
「この中じゃねえか?」
西沢が一つだけ閉まっている扉を叩きながら云った。
「柴山!」
呼んでみたが返事はなかった。
扉は鍵が掛かっていて開かなかった。
ただ、鍵が掛かっているという事は、中へ人が入って掛けたわけであり、店の中で姿が見えないのは、柴山だけだった。
私は背が高いので、上へよじ登って中を見た。
柴山は便器の中に片足を突っ込んで寝ていた。
彼の服には、彼の胃の中にあった物がべっとりと付いていた。
「柴山! 
起きろよ!」
彼は「うぅん…」と小さく唸っただけで、全く起き上がる気配を見せなかった。
取り合えず、私と西沢は彼をそこから引き摺り出した。
布巾を借りて来て、水に濡らし絞ってから、彼の口もとや服を拭いてやった。
しかしその時、トイレの入口へ店にいる者全員が集まって、こちらを見ていた。
酒豪の女は一言謝ったが気分を害した様子で、「もう帰る。」と云い出した。
他の女達も大体同じ意見で、我々は何とか引き止めようと骨を折ったが、彼女達の気分は戻らなかった。
誰かが「最低よ。」と云ったのを聴いて、我々は諦めた。
ただ、ヨーロピアンの女は、残念そうな表情を見せた、が、大勢には逆らえない様だった。

 女達が帰って行った後、我々はトイレを掃除し、柴山を抱えて店を出た。
店の外で柴山が目を覚すのを待ったが、彼は 「…俺…、…好いよ…、…寝るよ…、…ここ…、」 と呟くだけで、動こうとしなかった。
我々は、一人が全員の荷物を持ち、三人が柴山の頭と背中と脚を抱えて、駅へ向かった。

 新宿で降りて、歌舞伎町にある「ニューヨーク・ニューヨーク」というディスコへ行った。
柴山はまだほとんど意識がなかったが、私と淳一が常連だったので全員中へ入れてくれた。
柴山を暗がりになった奥のボックスへ寝かせておいて、我々はやけくそで踊った。
くたくたに踊り疲れて、フロアを出ようとした時、
「ヘェイ、何だよ! 
もう休むのかよ。
もっと踊ろうぜ!」
と、背後から威勢のいい声がした。
我々は振り返った。
いつの間にか、柴山が元気に踊っていた。

 中野ファミリーの最初の行事は、5月20日の三栄荘における夕食会だった。
メニューはカレーであった。
作り始める前に、香織とフー子が「カレーライス」と「ライスカレー」で揉めていた。
香織がどちらも同じだと云うと、フー子は「カレーライス」は御飯とカレーが同じ皿の上に盛ってある物で「ライス・カレー」は御飯とカレーが別々に出て来る物だと云って、互いに譲らなかった。
「どっちでも好いじゃない。
胃の中に入れば同じさ。
それより、お腹が空いたよ…。」
柳沢が云った。
世樹子が支度を始めたので、香織とフー子も決着の着かぬまま、それに取りかかった。
「あれ? 
ルーがないじゃない。」
彼女達が袋の中から材料を取り出すのを見ながら、私は云った。
「あなたもしかして、ルーがなきゃカレーは作れないと思ってるんでしょ?」
香織が云った。
彼女達は、カレー粉から作るのが本当のカレーだと云った。
「時間が随分かかるから、二人でどこかへ行って遊んで来れば…?」
香織は、私と柳沢に云った。
カレーを作ると聴いて、割りとすぐできるだろうと考えていた私は、少し驚いた。
「じゃあ、風呂へ行って来よう。」
石鹸が小さくなっていたので、私は新しいのを出して来て、小さくなった石鹸をゴミ箱へ捨てた。
「ああ! 
鉄兵君、勿体ない。」
世樹子が云った。
「どうして捨てちゃうの?」
「だって、小さくなると使い辛いもの。」
「あら、新しい石鹸の上に重ねて使えば好いのよ。
それに今捨てたの、そんなに薄くなってなかったじゃない。
勿体ないわ。」
私はゴミ箱の中から捨てた石鹸を拾い上げ、新しいのと一緒に石鹸箱に入れた。
しかし容積が足りなくて、蓋が閉まらなくなった。
私はそのまま洗面器の中に石鹸箱を置き、柳沢と二人で銭湯へ出かけた。

 脱衣場で服を脱いだ後、洗面器の中を見ると、やはり二つの石鹸は、箱から別々に転がり出ていた。


                         〈四、柴山泥酔事件(その一)〉

作品名:愛を抱いて 2 作家名:ゆうとの