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愛を抱いて 1

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           愛 を 抱 い て

 
                    ゆうとの 著



           【目次】


        1. 中野放浪事件
        2. 手料理
        3. 中野ファミリー
        4. 柴山泥酔事件〔その1〕
        5. 塩入りウィスキー事件
        6. 三栄荘の刺激
        7. フェリス女学院ダンス・パーティー
        8. アジサイ寺
        9. 赤石美容室
        10. ディスコ三栄荘 ~風を変えて~
        11. 赤い靴事件 ~柳沢泥酔事件~
        12. 日曜の風景
        13. 前期終了コンパ
        14. 横浜花火大会 ~処女の香り~
        15. 同窓会の夜
        16. 中野の怪
        17. 御対面事件
        18. 同棲週間
        19. 隅田川花火大会
        20. 世樹子の夢
        21. 朝のハンバーグ
        22. 金縛りについて
        23. 素敵な街〔前編〕
        24. 素敵な街〔後編〕 ~母の哀しみ~
        25. 夏合宿〔前編〕
        26. 夏合宿〔後編〕 ~突然の誤算~
        27. 夏の終わりに
        28. 秋の気配
        29. 欠員の補充
        30. 戸板女子短期大学合コン
        31. 深夜のドライブ
        32. 木曜日のデート
        33. 口付けはお早うの後に
        34. アジサイ寺再び
        35. 柳沢誕生日パーティー
        36. 共立女子大学合コン
        37. 黒いスカートの女
        38. 柴山泥酔事件〔その2〕
        39. トレーナー発表会
        40. サン・プラの前から ~淋しさ風の様に~
        41. 雨の夜
        42. 映画観賞会
        43. Gの響き
        44. 朝の光眩しく
        45. 豊島園遊園地〔前編〕
        46. 豊島園遊園地〔中編〕
        47. 豊島園遊園地〔後編〕 ~メリー・ゴーランド~
        48. 素直に見つめて
        49. 心のままに
        50. 東京観光専門学校合コン
        51. 六本木エレファントマン事件
        52. こたつの中
        53. 冬が来る前に
        54. 香織の失策
        55. 学祭
        56. コンサート
        57. 待ち合わせまで
        58. 児童公園事件
        59. ホワイト・クリスマス
        60. 東京タワー
        61. 親子丼とミステリー
        62. 復讐
        63. 鉄兵の様に ~中野ファミリー解散~
        64. 愛を抱いて










1.中野放浪事件


 1981年4月5日、私は東京にやって来た。
その夜は、一足先に上京していた水登のアパートに泊まった。

 翌日は、大学でガイダンスのある日だった。
大学では4月1日に入学式が行われたが、その日、私は広島の街を女と歩いていた。

 ガイダンスの後、私は秋葉原へ行き、16型のカラーテレビとラジカセとクリーナーを買った。
高田馬場で西武新宿線に乗り換え、沼袋で降りた。
家具屋を見つけて、カーテンとカーペットとビニール・ロッカーと本棚を1つずつ買い、「西友」で毛布と掛け布団と敷布団を2つずつ買った。
最後に酒屋でオールドを1本買い、それを持って自分のアパートへ向かった。

 三栄荘は、古色蒼然、旧態依然とした木造2階建ての建造物で、東京大空襲の中を焼け残ったと思われるアパートである。
サッシの窓の部分だけが、浮かび上がって見えた。
階段を上って、六畳一間の部屋へ入った。
部屋は、張り替えられたばかりの畳の匂いがして、修繕された天井と壁が、外観が凄まじいだけに、結構小綺麗に見えた。
階段を挟んだ隣の部屋に人のいる気配がしたので、私は先程買ったオールドを持って、その部屋のドアをノックした。
ドアが開き、銀縁の眼鏡をかけた神経質そうな男が出て来た。
期待するのは間違っていたが、やはり男だった。
「今度、隣に越して来た者ですが、これ、どうぞ…。」
「あ、どうも…。」
「柳沢」と名乗ったその男は、私と同じ大学生になったばかりの新入居者であった。
その夜も、水登のアパートに泊まった。

 群馬では、公立高校は男子校と女子校に分かれていて、私立校が共学という、普通と逆の様子である。
柳沢は、伊勢崎東高校に通った。
そして、彼と中学が同じだった久保田香織は、伊勢崎女子高校に通っていた。
東高と伊女は同じ伊勢崎市内にあって、交流が盛んであったらしい。
柳沢には高校時代、太田女子高校に通う1つ年下の彼女がいたが、彼と久保田香織は、恋人ではないが友達以上の関係だった。
卒業後、彼女は東京の専門学校に進み、偶然彼と同じ中野に住む事になった。
新居が落ち着いてから、二人は久しぶりに逢う約束をした。

 再会の夜、柳沢は彼女と三栄荘に寄り、私を一緒の食事に誘った。

 久保田香織は、カーリー・ヘアーをした色白の痩せた女だった。
踏切のそばにある「さだひろ」という店へ行き、三人で食事をした。
食事の後、珈琲を飲みながら喋っている間に遅い時間となり、柳沢は彼女をアパートまで送る意を述べた。
「でもあの辺って、路が迷路みたいなのよ。
あなた方向音痴でしょ。」
「確かに、送ってから三栄荘まで一人で帰れる自信はないな。
じゃあ、鉄兵に一緒に行ってもらうよ。」
「そんなの悪いわ。」
「良いだろ? 
鉄兵。」
柳沢は、私の方を見てから続けた。
「君が、俺には送って欲しくないと云うのなら、別だけど…。」
「そうじゃないわよ。」

 彼女のアパートは、「さだひろ」から歩いて15分ぐらいの所にあった。
話の通り、狭い路が非常に入り組んでいる場所だった。
彼女に「おやすみ」を告げて、私と柳沢は深夜に差しかかろうとしている住宅街を、今歩いて来た路を思い出しながら三栄荘へ向かった。
「なかなか、可愛い娘じゃない。」
歩きながら、私は云った。
「そうかい…? 
どうしても、彼女が気になるんだよね。
彼女に、いつも関わっていたいんだ。」
「付き合ってしまえば、いいのさ。」
「うん、…。」
彼は、それ以上話さなかった。
作品名:愛を抱いて 1 作家名:ゆうとの