火付け役は誰だ!2
△七番、女房の焼くほど亭主もてもせず▼
「……神託って、あの神託ですか?」
「家買うときとかの?」
「そりゃ投資信託の信託だろ覆水。この人は古代ギリシャのお告げの人だ。」
「えっギリシャの住宅ローン破産?」
「いい加減住宅から離れなさい成金娘。頭の中にバブルでも残ってるのか。」
「頭の中がいい感じに弾けてる放火魔に言われたくないわね、人の部屋軽々しく爆発させないことよ。」
思わぬ反撃を食らい地に伏せる俺をよそに覆水は怪しげなおばあさんに近づいていく。
「わ、綺麗な水晶!!これで占うんですよね!!」
「いや、こりゃ売り物だよ。」
俺に引き続き覆水すらも盛大に地面にズッコケた。
覆水が少々大人しくなった所でデルフィの名を思い出す。
信託もとい神託のデルフィ、古代ギリシャの都市つまりポリスが精神的な拠り所としていた神託のとある名前。
曰くギリシャ神話の予言の神様の代理人として存在し、影響力は絶大だったらしい。
戦闘都市として有名なスパルタがペルシアと戦う際、デルフィの神託の内容により自国軍が壊滅寸前になるまで戦わなかったという説話もある位だ。
つまりは分かりやすい太古の宗教的な存在に近い。
思わぬ大物にわなわなする俺をさておき、状態異常ズッコケからいち早く回復し覆水は座ったおばあさんの前に立つ。
「こっちは古くはギリシャからある占いをやろうって言うんだい、そんじょそこらのぽっと出欧州占いとは違うんだよ。」
「な、成る程?」
「という訳でそこの坊や、手を出してみなされ。」
「へ、俺ですか?」
「他に誰がおる。」
「いや、男なら胸部装甲が薄い覆……」
ズガゴンッという音と共に右足小指の感覚が無くなった、……コードレッド、コードレッド、ただちに全身警戒体制に移って下さい。
隣を振り返っても下を見てもいけません、にじにじぐりぐりばきばきされるだけです。
迫真のボーカーフェイスに脂汗を添えながらおばあさんに手を出す。
「あれですか、手相でも見るんですか。」
「いや盟神探湯をとな。」
「ストップ、それただの拷問です、またの名を東洋版魔女狩り。」
「東洋アレンジ東洋アレンジ。」
「僕の骨格にアレンジが加わりそうなので止めましょう。既に小指がリミックスされそうですが今。」
「じゃあチャッカマンは太占ね。間接を幾つか増やしてみましょーっ!!」
「占いって字が入りゃいいってもんじゃない覆水、骨にヒビをいれる前提で占うものを、材料生きたままやる、これいかんアルよ。」
「それじゃあ禊の方が良いかね。」
「そう言いながら何故盟神探湯のぐらっぐらに煮えた湯を出してくるんですかおばあさん!!あっという間に丸煮え、三分もかけないクッキングになります!!本日は男子高校生の本格蒸し!?二人して何の恨みが?!」
アクロバティック回避火口、大衆の前で極み熟女占い屋さんに熱湯を掛けられ喜ぶ趣味は御座いませんことよ。
「本題!!デルフィさん呼び止めた本題よろしくお願いします!!これ以上のアクロバティックは先ほど新ジャンル危険系女子覆水に部位破壊された小指に響きます!!」
「えーと、止め刺せって?是非もないわね。」
「完璧に聞いてないね覆水さんや、待ちたまえ。相手の小指を潰してじわじわ殺すなんてのはブシドー的に」
「武士の情けという名目での止めなら良いのね?」
「ストップストップ、藪つついたらピュトン出てきた。」
「あえて太めの蛇を出したところに女性への悪意を感じるし、さよならね。」
「グッバイ現世また会アゴファッ」
「物理的に現世から解脱せしめたるわゴラオラ」
「ご、ご乱心!公道で御座るぞ!!慎まれい!!」
「セップクヒキマワシノウエウチクビゴクモン?」
「ジャパニーズ拷問ハッピーセットを羅列しないでくれそれいっぺんには出来ないから!!」
「なら洋モノが好みかしらウフフ。」
「もはやキレすぎてキャラが崩壊しておられましたか?!何度も言うけどもアイアンメイデンはいつの時代も違法です!!」
「大丈夫よ、一撃だからウフフ。ウフフフフフ。……ローストチキン。」
「ファイヤーだなッ!!グリル式地中海風!!本日のメニューは本日男子高校生の丸焼きとなりますッ!!材料は各自ご用意を!!」
「待ってね食材、耳に香草差し込んでからこんがり焼いてあげましてよウフフ。」
「マウントを取られて耳に草、案外絶体絶命!!どう転がっても黒こげかきつね色じゃん!?」
などと割りと元気に跳ね回る覆水と俺を見てデルフィさんは肩をすくめながら話にはいる。
ちなみにピュトンとはギリシャ神話でも随一の大蛇である(胴太め)
「バトルロワイヤルに参加しおる妖精とバディに上からの通達があってな、曰く一組のバディと妖精が違反を起こしたそうじゃ。」
「……へ、それがどうかしたんですか?」
俺の腹上に馬乗りになった覆水が無邪気に問い返す、何よりも先に退いてもらいたい、色々意識してしまって辛い。
ただ覆水の疑問も正しい、違反している一組に心当たりはないし、そもそも覆水は既に脱落組だ。
違反しているとしても違反者には直接伝えれば良いし当然俺自身も心当たりがない。
「それが違反が違反での、どこに居るか分からんのじゃ。」
「つまりそれって」
「そう、本拠地不明じゃな。住居が決まっておらんような動きをしておる。」
上下で覆水と顔を見合わせる。
このバトルロワイヤル、勝ち残るには妖精かバディかの撃破、または本拠地の破壊が必要だ。
少ない勝利条件を更に減らされてはたまらない。
……しかし何故デルフィさんがこれを俺達に伝える必要があるのか。
「嫌な予感がするんですがもしかして俺達にそれを伝えたのって……そいつら二人が一番近いのが俺達だからだったりします?」
「当たりじゃな、目撃された中で一番近いのがこの町だわさ。」
うへぇ、としか言いようがない。
「という訳で捕まらん奴にペナルティよりも次に戦いそうな奴にアドバンテージをというのが上の意向という訳じゃな。一応捕らえる為に一柱ほど来よるようじゃがやる気は無さげ、諦める事が手っ取り早かろう。」
俺が知った事ではないがその追っ手はわざわざ違反者に接触していながら、こちらの妖精の安全を理由に取り逃してやったらしい。
いつの間になにやってるんだあの凸凹(胸囲)妖精コンビは。
「という訳でアドバンテージ、デルフィの神託じゃ、良かったの若人。」
「分かりやすく、簡潔にお願いしますよ。」
「まぁお主らが戦うであろう次の奴らについて直接は言えぬがな、有利すぎてしまう。」
「……では一体何を?」
「ヒントじゃヒント。煙に撒く言い方は好きではないがそれを止めては占い師が儲からぬ。」
「双子に気を付けよ。相手の戦術、これつまりはカストルとポルックスじゃ。」
謎めいた言葉を残しデルフィさんは水晶と机をしまい路地に去った。
まるで占いを信じるかは任せるかのように、とり残されたバディに相手は着実に迫ってきている。
七番、幕引き