その鳴くや哀し
Ⅴ
4日目の救助活動が始まった。既に2人が生き埋めになってから65時間が経過していた。タイムリミットまであと7時間だ。なんとしても今日中に発見しなければ、2人の生存は期し難い状況だった。
この日も行方不明の2人の家族が現場に来ていた。また、報道関係者の数も多くなっていた。
しかし、徒に時間が経過して行くだけで、軽自動車は発見できなかった。現場の誰もが焦燥感にかられていた。
そして、間もなくタイムリミットの72時間目に入る頃、報道関係者にも協力を依頼し、この日の何度目かのサイレントタイムが設けられた。
一切が静寂に包まれた中、隆正は自分が担当しているエリアに掘った穴で見つけた岩と岩の隙間に耳を近づけた。目を閉じて全ての感覚を耳に集中する。体の存在すら忘れ、自分が1個の巨大な耳になった感覚で耳を澄ませる。すると、隆正の耳が微かな声を捉えた。隆正はさらに集中を高め、頭を隙間に埋め込むようにして耳を傾けた。確かに声が聴こえた。話の内容は聴き取れないが、2人の声だった。
隆正は周囲にいたレスキュー隊員や消防団員を読んだ。全員で隆正が指示した場所で声に耳を澄ませる。
全員が声を聴いた。特に聴力の良いレスキュー隊員が、男の子と大人の女性の声だと断言した。
救助隊は色めきたった。
全メンバーをその場所に集中してすることになった。今までの疲労が吹っ飛んだように、全員で力を合わせて掘り進み、邪魔な岩を排除して行く。
掘り進みながら、大声で被災者を励ます。
「いま、助けるからな!!」
「がんばれ!!」
深く掘り進むにつれ、2人の声が大きく聞こえるようになった。確かに、男の子とその母親と思われる女性の話し声で、言葉はよく聞き取れないが、母親が子供を励ましているようだった。子供の笑い声まで聞こえるようになった。
「2人とも無事だぞ。みんな頑張れ!」
隊長がメンバーを励ます。
そして、2時間後、ついに赤い車体を発見した。2人が乗った軽自動車は、地滑りに巻き込まれて県道から10メートル近く山の斜面を押し流され、さらに2メートルほどの土砂と岩の下に埋まっていた。
土砂と岩を取り除いていくと、左後部の窓が現れた。レスキュー隊員が覗き込んだが、内側から曇っていて明瞭にはわからない。それでも後部座席で動く人影があるのが認められた。
人間は酸素が無ければ5分ともたない。おそらく、どこかの窓ガラスが割れ、その周りの岩と岩の間に隙間ができて、その隙間が地上まで繋がっていて、そこから酸素が供給されていたのだろう。幸運と言うしかない。
作品名:その鳴くや哀し 作家名:sirius2014