その鳴くや哀し
Ⅰ
菅原勇造はいつものホームセンターで必要な買い物を済ませると、買い込んだ資材や衣料を自分の軽トラックに積み込んだ。これでしばらくはここに買い物に来る必要なはいはずだ。
勇造は軽トラに乗り込むとエンジンをかけ、走り出した。
駐車場から国道に出て数キロ走ったところで右折して県道に入る。そのまましばらく走ったところで県道は街中を離れ、山に入る。やがて県道は完全な山道となり、道路の右手は鬱蒼と木が茂った山の斜面が迫り、左手には急な斜面が数十メートル下の田圃まで続く。
春の午後の陽射しが、木々を通して県道の路面のところどころに陽だまりを落としこんでいる。窓を全開にして走っていると、柔らかな春風が車内に吹き込んでくる。勇造は快適なドライブに心が和んでくるのを感じていた。
道路は空いていた。勇造はアクセルを踏みながら、緩やかなカーブが続く県道に沿ってゆっくりとハンドルを回した。前方には赤い軽自動車が走っている。後部座席に小さな子供が乗っているようで、リアウインド越しに小さな人影が動いているのが見える。
その人影を見ていた勇造は、今年で30歳になる自分の娘のことを思い出した。娘は妊娠6ヶ月で、梅雨が終わる頃には家に戻って来て出産に備える予定だ。生まれて来るのは、勇造にとって初孫になる。男でも女でも良いから、元気な子供が生まれてくれば良いと思っていた。初孫を心待ちにしていた妻の良子も楽しみにしている。
自分が孫を抱いてあやしている姿を想像して、思わず勇造の頬が緩む。
異変が起こったのは、そのときだった。
作品名:その鳴くや哀し 作家名:sirius2014