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東の国の王子と西の国の王女

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 何百年後、大きな王国の広場で、民たちが一人の男を囲んでいた。
 「おばあちゃん、何が始まるの?あの男の人は誰?」
 ふわふわした茶色い髪をおさげにした小さな女の子は、祖母の手を引いて輪の中央にいる男を指差した。
 祖母は丸々とした子ども特有の頬を愛情をこめてたたき、対照的な皺だらけの頬を緩めた。
 「あの男は吟遊詩人だよ。いろんな物語を語って聞かせるのさ」
 何の変哲もない男が面白いことをするわけでもなくいるのに退屈して、ふーんと返事をすると祖母の手を離して女の子は飛び跳ねた。
 男はざわつく観衆に囲まれて、ゆったりと小さな木のイスに腰掛けていた。辺りを見回せばさまざまな顔がこちらに向けられている。足元に置いた商売道具を取り上げて、弦をそっと弾く。
 辺りは静まり返り、男の一挙一動を見守っている。
 音を調節すると吟遊詩人は深く息を吸い込んだ。ギターよりも小さく、ウクレレよりも深みのある楽器の調べに乗せて語り始めた。

 昔、二つの隣り合う王国があった。東の王子と西の王女は愛し合い、民は国を行き来して交流を深めていた。しかし王国は戦を始め、国同士のいさかいに引き裂かれた東の王子と西の王女は心を痛めていた。戦は続き、大地を赤い川が流れた。ある時二人の密会を知り激怒した東の王は、王子を戦へ向かわせた。出征の前の夜、月が照らす丘の上で二人は誓いを立てた。王子は、生きて帰り、必ず王女と民が幸せに暮らせる国を創ると、王女は王子を信じて待っている、と。その後、戦は三ヶ月続きようやく国はひとつになった。
 そこで吟遊詩人は語りを止めて、王宮の塔に立てられた旗を見あげた。男の語りに引き込まれた観衆は男の目線を追い、皆が一点に目を凝らした。その中には先ほどはしゃいでいた少女も含まれ、今は祖母の傍で大人びた表情を天に向けている。 
 おとこは再び調べを奏でた。
 戦が終わると西の国は滅び、東の国も滅んだ。二つは一つになり、すべてはゼロになった。
 語りを終えた男の声は風に乗ってどこまでも運ばれていった。
 かつて東の国の紋章であった太陽と、西の国の紋章であった月を思い起こさせる、二つが重なり合った金環日食の紋章の旗が、いつまでも風にはためいていた。