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東の国の王子と西の国の王女

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 「愛しているよ、ジュリエッタ」
 彼女の耳元に囁いた。
 広い大地には何の影響も与えない小さな囁きは、ジュリエッタの心にしっかりと届いた。もっと近づきたくてジュリエッタは身もだえした。
 その動きを勘違いしたジェイムズは苦しいのだろうと腕を緩めた。
 ジュリエッタは彼の胸にしがみついて、顔を見上げ囁き返した。
 「私も愛してるの、ジェイムズ」
 ジェイムズは手のひらをジュリエッタの頬に当てて、親指で柔らかい頬をなでた。
 その手に自分の手を重ねてジュリエッタは言った。
 「貴方の一部が欲しいの。離れていても貴方を感じられるものが」
 ジュリエッタは左手の人差し指から月の紋章が入った指輪を抜いてジェイムズに差し出した。
 「これを私だと思って」
 ジェイムズは指輪を受け取ったが、自分のを渡すのは躊躇した。
 「駄目だ。もし持っているのを見つかれば、罰せられるだろう」
 「貴方も同じ危険を伴うわ。私はどうしても欲しいの、お願いよ」
 ジェイムズはしぶしぶ指輪を引き抜いた。東の国の紋章が月明かりに煌めく。西の国の王女の手にそれを乗せると、彼女は太陽の紋章をなぞり大切そうにポケットにしまった。
 「ありがとう」
 にっこりとしたジュリエッタの顔を見ながら月の偉大さを思い知った。
 この静かな二人だけの世界を照らす月は彼女を愛していた。ジュリエッタには華やかなドレスも高価な宝石も必要ない。彼女自身が光物のように輝いていた。
 ゆっくりと顔を近づけると、ジュリエッタは待ち構えるように顔を仰向けた。
 ついに唇が出会うと、彼女は小さな声を漏らし彼に擦り寄った。月には小さな雲がかかり、二人を森に潜む生き物たちの目から隠そうとするかのように、丘にかすかな影を落とした。
 短い触れ合いを惜しむようにゆっくりとジェイムズが顔を上げると、ジュリエッタは彼から目を離さずに赤い唇をなめた。
 ジェイムズはジュリエッタの舌の動きを目で追った。擦れた声でジェイムズは自分に言い聞かせるように言った。
 「夜も更けた。送っていこう」
 ジュリエッタは名残惜しげにジェイムズの引き締まった口元に目をやってから頷いた。
 二人の行く道を雲を追いやった月がそっと照らした。