音が響きわたる場所 【旧版】
フェニックスでは、カメラと脳とを接続させる実験も同時進行されていたが、その映像は不鮮明であり、軍事利用に耐え得るものではなかったらしい。
国防総省の機関であり、軍用技術の研究を行っている国防高等研究計画局は、光による影響を受けない反響定位に、何らかの可能性を見出したらしい。
一通りの説明は受けたのだが、俺には難しすぎて分からなかった。
地平線から走ってきた無人のフォードGPWは、ソニアの真横にピタリと停車した。
ソノラ砂漠では、視界が良好であれば八十マイル先まで見通せるのだが、どこかの学者によれば、地平線までは僅か三マイルしかないらしい。
驚きのあまりに声を失っているソニアを、背後から一気に抱きかかえて助手席に座らせる。それでもソニアは未だに信じられないらしく、口が開いたままになっていた。
このフォードGPWは、俺が一番最初に遠隔操作を行った無人兵器だ。
俺の頭と同じように、超音波振動子と受振機が搭載されている。電波で送られてくる情報を受信することで、眼孔の擬似眼球に映し出すことが可能だ。
電波の送受信には、中継アンテナを使っているが、馬鹿正直にそんなものを設置したりはしていない。
中継アンテナは、ソノラ砂漠のシンボルであるサワロ・サボテンに偽装した状態で、砂漠全域を網羅するように設置されている。
夜間に車を近くに置いていないのは、この場所が突き止められるのを防ぐためだ。
洞穴の入口を隠しても、車が止めてあれば、付近にいると言っているようなものだ。
「さぁソニア、朝食の希望はあるかな?」
食事を楽しもうという気になったのは、随分と久しぶりだ。
俺は自分でも気付かないうちに、ソニアに心を開いていたらしい。
作品名:音が響きわたる場所 【旧版】 作家名:村崎右近