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音が響きわたる場所 【旧版】

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 初弾は照準からは外れていたが、門を破壊するという目的は果たした。
 破壊した門をくぐって敷地内に入った俺の頭上を、次弾が高速で通過する。三発目までは爆薬が詰まった対物弾が発射され、建造物を破壊する。
 三発目のグレネード弾は、見事に正面玄関を吹き飛ばした。
 続く四発目と五発目は、射角を変えて煙幕弾を発射する。頭上を煙幕で覆い隠し、上階からの狙撃を防ぐためのものだ。
 六発目は音響閃光弾。煙幕に消えた姿を捉えようと目を凝らす相手を嘲笑う一発。
 その後は順番に一発ずつ。時折、同じ弾が二発続くように装弾してあって、残弾数が分かるようになっている。
 音と光と煙。その三つを効果的に使って視覚と聴覚を奪うことで、一方的な制圧を可能としている。煙の中で、音に頼って気配を探ろうにも、音響弾対策で自ら耳を塞いでしまっているのだ。見通せる者などいない。

 正面玄関を入ってすぐのエントランスホールで、六人に鉛弾を打ち込んだ。二階に上がる階段では三人。二階廊下で更に二人。その全員が銃器を手にしていた。
 鉄と血と火薬の匂いが、ゆっくりと確実に俺の鼻腔を侵食し、眼孔に収められた擬似眼球が、ここにあるはずのないものを映し出す。
 ここに、爆弾を抱えて笑う少年がいるはずなどないのに。
 引き鉄に置かれた指以外の全身が、金縛りにあったかのように動かなくなる。
 指は、自分を動かせと主張を繰り返す。助けたいと願って差し伸べた左手を無視してまで、自身が確実に生き延びるために引き鉄を引こうとしたあの指は、脳の中の引き鉄を引こうとしている。
「勝手に動くんじゃねぇよ!」
 俺は塗り替えたいのだ! ファルージャでの忌まわしい記憶を!
 俺は我に返る。そうして、目の前にいるのは箱を抱えた少年ではなく、銃を構えた麻薬組織の男だという現状を把握する。
「チィ」
 俺の舌打ちは、ほぼ同時に起こった三発の銃声に掻き消された。
 左肩に激痛が走る。弾は貫通しているが左腕は使えそうにない。右側へ倒れこむように回避行動を取っていなければ、胸のど真ん中に風穴が開いていたところだ。
 不意に、グレネード弾の砲撃が止む。
 撃たれた影響で、ブレイン・マシン・インターフェイスによる遠隔操作ができなくなってしまったらしい。
「システム起動」
 コンディションレッド。システム起動エラー。
 起動を試みたが、上手く行かない。
 脳波に異常が認められた際は、強制的にチャンネルを切断する安全装置が働く。夢にうなされたり、錯乱状態に陥った場合の暴走を防ぐためだ。
 夢。そうだな、これは夢だ。
 あの瞬間、迷わず引き鉄を引いていれば、子供の姿に惑わされなければ。そう考える俺が思い描く理想の姿だ。俺は、姿に惑わされることなく、冷酷に引き鉄を引ける。
 俺は弾を撃ち尽くしたベレッタを捨て、倒れた相手の銃を奪う。銘柄は分からない。国外の拳銃なのだろう。
 背後を駆け抜ける足音が三人分。気を抜くと反響定位もままならないようだ。
 俺は銃を構えて備えたが、足音はそのまま階段を降りて行った。
 いまのは親玉が二人の護衛を連れて逃げたのだろうが、捕まえることに興味はない。

「アントニオ!」
 俺は声を張った。
 煙幕も途切れたいま、奴らが残っていれば声に反応して仕掛けてくるはずだ。
「トープか?」
 アントニオの声だった。二階廊下の突き当たりにある部屋から聞こえている。
「トープ! 早く開けてくれ!」
 アントニオは部屋に閉じ込められているらしい。
「いま開ける、離れていろ」
 扉のノブ部分を撃ち抜く。
 引き戸の扉を開く。部屋から伝わってきた音波の反響は、銃を構えた一人の人間が、銃口を俺に向けていることを示していた。
 ここには箱を抱えた少年などいない。俺は迷わず引き鉄を引く。
 アントニオは、決して俺を「トープ」とは呼ばない。俺を名前で呼ぶときは、トープと呼ばれる以前の名前である「ミッキー」と呼ぶ。
「アントニオ、無事か?」
 アントニオは、以前ソニアがやったように、俺に注意を促すためにいつもと違う呼び方をしたのだ。
「なんとか」
 部屋の中にもう一つの気配を感じた俺は、咄嗟に銃口を向ける。すると、両手が上げられる気配が伝わってきた。
「息子だ」
 二人仲良く捕まっていたらしい。