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しらとりあきたか
しらとりあきたか
novelistID. 50348
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両親へのプレゼント

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  京都のホテルは高さ制限があり、東京や大阪のように高層のホテルを建てることができないのだ。


  私は梨奈の家族が宿泊する二日前に、その部屋番号を押さえることに決めていた。


  今回は3名で宿泊するため、本来ならエキストラベッド代が必要であるが、


  私はその代金をいただくつもりは、まったくなかった。


  予定通りに19時のバスに家族で大文字の送り火へ行かれ、21時30分頃に帰って来られた。


  私はその日、部屋がなんとかオーバーすることなく、満室になったことで安心をしていた。


  
深夜0時過ぎのことであった。


  本日のナイトスタッフの仲田が、


  「小池様という若い女性が呼んでいますよ」と言った。


  私はすぐにフロントカウンターへ出ると、


  「どうかされましたか? こんな遅い時間に...」と私が言うと、


  「今日はありがとうございました。両親も非常に喜んでくれて、さっきまで久しぶりに家族と部屋でおしゃべりをしていました。最高の思い出になりました」
  と梨奈が言うので、


  「それは良かったですね。私もすごく嬉しいです」


  「おやすみなさい」と彼女は言って、部屋へ戻った。


  その時、彼女は嬉しいはずなのに、私には彼女が少し悲しげに見えたことが気にかかっていた。




両親へのプレゼント

  
翌日の10時頃、梨奈と彼女の両親がチェックアウトに来られた。


  「おはようございます。昨日はごゆっくりお休みになられましたでしょうか?」と尋ねると、


  「おかげさまで、ゆっくりとできました。お花までいただき、ありがとうございました。ほんとうにお世話になりました」と梨奈の母親が頭を深々と下げた。


  「今回はご宿泊いただきありがとうございました。また、来年もぜひお待ちしております。それから、もしよろしければ、お二人のご結婚記念日が8月16日ということで、この816号室のカードキーをお持ち帰りください」と私が言うと、


  「ありがとうございます。そこまで考えていただいたなんて、私達誰も気付いていなかったです」と梨奈の母親が言った。


  「来年もぜひ、みんなでここに来たいね」と父の洋が言うと、


  「そうだね、また、家族で来ようね」と梨奈は少しうつむき加減で言った。


  私には梨奈が涙目になっているのを、父に勘付かれないようにしているように見えた。




  夏も終わろうとしていた9月下旬に、梨奈から手紙が送られてきた。


  手紙の内容は、満室にもかかわらず泊めてもらったというお礼と、そして、残念ながら父の洋が、9月20日に亡くなってしまったこと....


  梨奈の父が8月1日に再入院した時、医者から悪性の癌のため、あと長くて2ヶ月と言われていたのだ。


  しかし、最後に三人で思い出を作りたかったので、父の洋には内緒で母と相談をして、このホテルに宿泊をしようと決めていたとのことであった。


  洋は亡くなる直前に、


  「また、この前のホテルに行こうな」という言葉を残したそうだ。


  そして、最後に父は苦しかったはずなのに、亡くなった時の顔は微笑んでいるように見えたと書かれていた。


  梨奈は父親の遺言どおりに、毎年、8月16日に(大文字の送り火)梨奈と母親が父に逢うためにこのホテルに宿泊をされている。


  もちろん、部屋番号は816号室である。




                                
おわり