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しらとりあきたか
しらとりあきたか
novelistID. 50348
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両親へのプレゼント

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出会い


  あの話は、今から13年前の7月中旬にさかのぼる。


  夕方近くに、見た目、高校生らしき女の子が少し不安そうな顔をしてフロントへやって来た。


  最初、私は彼女がどこか修学旅行生の中の一人かと思ったのだ。


  しかし、実際はそうではなかった。


  「フロントの責任者の方にお会いしたいのですが....」


  と、その女の子が私に言った。


  その日、宿泊の責任者である松浜課長が休みであったため、


  「私が今の責任者ですが、もし、私でよければお伺いしましょうか?」


  と言って、フロントカウンターの近くにあるインフォメーションデスクへ彼女を案内し、椅子に座ってもらった。


  私も彼女の前に座ることにした。 少し沈黙があった。


  「今度、両親をこちらのホテルへ宿泊をさせてあげたいのですが、どのようにすればいいのか分からなかったので、直接ここへ来ました」と彼女が言った。


  「あなたのご住所はどちらで、今日は何でいらっしゃたのですか?」と私が尋ねた。

  
  その理由は、彼女が未成年だと思ったことと、何か不可思議に私自身が感じたからだった。


  「家は彦根(滋賀県)で両親と三人で住んでいます。ここまではJRと地下鉄で来ました」
  と、彼女は正直に話してくれた。


  「でも、彦根からわざわざそのために来られたのですか?」
  と私が驚いた様子で聞くと、


  「いえ、実は叔母の家が京都にあり、今日はそちらに泊まるのです。夏休み期間中で、そのことは当然、両親も知っています」


  「でも、ご両親のためにそのようなプレゼントをするなんて感心しますね」
  と私が言った。



      両親の結婚記念日
 

  「ありがとうございます。実は、数ヶ月前に、テレビで関西のホテルの特集番組をたまたま家族で見ていて、一度でいいからこんなところに泊まってみたいねと、父が母に話していたのを聞いていたからなのです。そのホテルが、ここ京都クイーンズホテルだったのです。ただ、恥ずかしい話ですが、こちらの宿泊料金のことも調べずに来てしまいました。先ほど、ここのパンフレットに書かれている料金を調べたら、3万円からとなっていたため、ほんとうのところは、諦めようかと思っています」

  彼女が少し悲しそうに言った。 

 「ご宿泊の希望日は、いつなのですか?」と私が尋ねると、


 「来月の16日です。その日は、両親の結婚記念日で、ちょうど20年目になるのです」と彼女は明るく言うと、

 
 「8月16日ですか?」
  と私は念のため彼女に確認をした。


  彼女に確認をした理由は、8月16日とは、京都では有名な『大文字の送り火』がある日で、その日は、すでに数ヶ月前から満室になっていることを私は知っていたためだ。


  彼女は小さく頷くと、

  「部屋はとれないでしょうか?」と彼女が不安そうに言った。


  「その日は、あいにく全館満室なのです」
  と私は正直に満室になっている理由も彼女に説明した。


  「わかりました。では、他のところをあたってみます」
  と彼女は言って、席を立とうとした。

  「他の市内のホテルに空き状況を確認をしますから、あと15分ほど待ってもらえますか?」
  と伝えた私は、フロント事務所へ戻り、市内にある約10件のシティホテルへ電話を入れ確認をした。しかしながら、良い結果は得られなかった。


  彼女にその結果を報告すると、


  「いろいろと調べていただいてありがとうございました。来年はできるだけ早く予約を入れるようにします」と彼女は言うと、彼女は席を立ち、私に礼をした。


  そして、彼女が玄関へ向かおうとしていた、その数十秒の間に私の頭の中では(彼女のために何とかできないのか? このホテルも他のホテルも満室で厳しい状況だ。でも、なんとかなるかもしれない!)と私が思った瞬間、

  「お客様!」と私は彼女を呼び止めていた。


  彼女がこちらへ振り返ると、私は彼女のほうへ歩み寄った。


  「あと、5分だけ待っていただけませんか?」
  と私が聞くと、彼女はまったく不審がらずに微笑み、玄関にほど近いロビーで待っていてくれた。



オーバーブッキング

  
私はすぐに予約のサブ責任者である長谷川に、
  「8月16日、あと一部屋何とかならないか?」


  無理だとは分かっていたが、私は念のため確認をした。


  「冗談はよしてくださいよ。マイナス7ルーム(オーバーブッキング)から、まったく
  動きはないのですから」と長谷川が答えた。


  「マジかよ」と私は少し荒い口調で言った。


  私の心の中でマイナス7ルームくらいなら何とかなりそうだと確信をした。


  私は彼女のところへ戻ると、

  「お待たせしました。お部屋をご用意させていただきすよ」と言ったのだ。

  「でも、さっき満室とお聞きしましたけど...」
  と彼女が不安そうに言ったため、


  「先ほど、予約事務所に行って確認をしたら、1件キャンセルをしていないのがあったので、大丈夫ですよ」と咄嗟に嘘をついた。


  「ありがとうございます。本来なら嬉しいのですが....」と彼女が言うと、


  「どうかされましたか?」と私は聞いた。


  「実は、こちらのホテルがそんなに料金がかかると思っていなかったもので、恥ずかしい話ですが、私自身の全てのお金が25,000円少々しかないのです。今回は他のホテルも満室のようなので諦めます。次回はお金を貯めてから来たいと思います。今までいろいろと調べて頂き、ありがとうございました」と彼女は礼を言い、立ち去ろうとした。


  「お客様、お待ち下さい。確かにパンフレットに提示している料金が3万円からというのは本当です。しかし、今回だけ特別に2名様、25,000円で結構です。もちろん、税金も含まれていますのでご安心下さい。その日は、あなたのご両親の結婚記念日ですから」
  と私は上司に相談をせずに即答をしてしまったのだ。

  
  彼女は信じられないような顔をして、

  「ほんとうにありがとうございます」
  と言って、頭を深く下げた。


  その時に初めて、私はまだ彼女の名前、連絡先を聞いていなかったことに気付き、その場で確認をした。


  彼女の名前は、小池梨奈、高校1年生である。


  そして、予約時の名前は父親の小池洋と聞き、私はポケットに入れていたメモ帳に名前と彼女の自宅の電話番号を控えた。


  
  私は翌日、宿泊課長である松浜に報告をしなければならないことが2点あった。


  一つ目は、満室の日(8月16日)に予約をとってしまったこと。


  二つ目は、誰にも相談をせずに、私が勝手に料金を下げたことである。


  
  その日、私が夜勤で出社してすぐに、昨日の予約の件で松浜課長に全てを打ち明けた。当然、私が勝手に判断したことに対して、強く叱られた。


  話の最後に、松浜課長から