Wish プロローグ2
「じゃ、私はここで失礼します。雛月先輩、冬姫先輩、さようならです」
「うん、また明日ね~。ばいばい~」
「おう、気をつけて帰れよ~」
「はいです~。ありがとうございます」
まどかちゃんは、ペコリとお辞儀して俺たちと別れて家路につくのだった。
「しかしホント、まどかちゃんは、礼儀正しいよな。明日香にも見習わしてやりたいぜ」
「えぇ?何で?明日香ちゃんすごくしっかりしてるよ~」
「いやまぁ、しっかりしてるのは認めるがな、さすがにアレはやめて欲しいぜ」
「??ねぇねぇ、アレって何ぃ?」
しまった。
抜かったぜ…俺としたことがなんという失言を。
「ん?あぁ…それは…まぁいいじゃないか。そんな細かいことは…」
「えぇ~、別に細かいことじゃないし、それに気になるよ~。ねぇ、教えてよ~」
珍しく目をキラキラと輝かせ、興味津々な心むき出しの冬姫。
そんな冬姫を見て俺は、困った挙句こんな声を洩らしていた。
「お…」
「お~??」
「お…男の子にはいろいろあるんだよ」
「何よ~それ~意味不明だよ」
「いやちょっと待てッ!さっきお前が俺と全く同じこと言ったんじゃねーかよ!忘れたとは言わさんぞ」
「あぁ、そういえばそうだったね~。すっかり忘れてたよ」
…おいおい頼むぜ。しっかりしてるんだか抜けてるのか、まったく。
「まぁ、教えてやらんこともないが…」
「ホント!?」
「ただし、条件がある」
「条件?……何かな?」
何やら不安げな表情を浮かべる冬姫。
かと思うと、なぜかぽっと顔が赤らめる冬姫。
って、なんで赤くなる!?
俺の疑問を察したのか冬姫が、
「ハ…ハルちゃん…。こんなトコじゃ…私…恥ずかしいよ~ふにゅ…」
「ってなんちゅー想像してるんだお前はッ!?いくら俺でもそんな条件は出さん」
「ふぇ?違うの?…何だハルちゃんのことだからそう言うのかと思ったよ」
一体、こいつの頭の中では俺はどう認識されてるんだ?
というか冬姫のヤツ、間違った想像とはいえ俺に何かされることに嫌がってなかったな。
恥ずかしいと言っただけで嫌とは言わなかった。
もしかして…ホントにその条件をしても…。
って、何考えてんだ俺は…。
「じゃあ何だろう~??」
「まぁ大したことはないんだが、さっき、まどかちゃんと話してたことを教えてくれ。そしたら俺のことも教えてやる。どうだ?交換条件だ?」
「えぇ~ダメだよダメダメ!ぜ~ったいダメ~!それは教えられないよ」
顔を真っ赤にし、手をブンブンと振るわせ全力で拒否する冬姫。
ちょっと面白い。…ついでに可愛い。
「そんな堅いこと言うなよ~。俺と冬姫の仲じゃないか~」
「あぁ!そうだ~私お使い頼まれてたんだった~。あはは、忘れてたよ~。あぁ、もう家に着いちゃったね~。じゃね~ハルちゃん」
冬姫は、いかにもわざとらしい演技をしながら自分の家に走り去っていく。
(逃げたな…)
ホントわかりやすい奴だな。まぁ、そのおかげで俺も事なきを得たんだがな。
あんなのがあいつ…いや、みんなに知れたら、またからかわれちまうからな。
俺はそんなのはごめんだからな。
まぁ、そんなことは今はもういいや。さっきからいい具合に疲労感と眠気が…。
今日は朝早かったし、朝からハードな通学だったし、今日はいろいろ疲れたぜ。
帰ったら軽く仮眠でもとらなきゃな。と言いつつ結局本眠だろうけど。
そして、俺は回れ右して自分の家に帰っていくのだった。
「うぅ…うっう…ぐす…うぅ」
泣き声が聞こえる……。
一人の女の子が公園のベンチで泣いていた。
周りの子供たちは楽しそうに遊んでいるのに、女の子の周りには誰もいない。
ただ、泣き声がしないよう声を押し殺して泣いているだけであった。
女の子は今にも溢れそうな涙をぐっと堪えて、肩で泣いているのだった。
その女の子の泣いている姿はなんかつらかった……。
……何でそんな寂しそうな顔で…、何で泣いているのだろう?
「どうしたんだ?何で泣いるんだよ?」
「え……?」
不意に声が聞こえたので、女の子は、一瞬、泣き止んだ。
女の子が、ふと顔を上げるとそこには一人の少年の姿があった。
「なぁ、どうしたんだ?」
「……誰?」
「ん、ただ、君が泣いていたから気になってさ。んで、どうしたんだ?具合でも悪いのか??まさか、誰かにいじめられたのか??そんだったらこの俺がやっつけてやる、任せろ」
「うぅ…うっ。ううん、違うの。そうじゃなくて…え、えっと、えっとね…。パパとママもお仕事でどっか遠いトコ行くことになっちゃって…ぐす…私…独りぼっちに…なっちゃったの。寂しいよぉ~うぇえええん」
女の子の瞳から再び涙が零れ落ちた。
そして、堪えきれなくなった女の子は、堰を切ったように泣き出してしまった。
とめどなく頬を伝う涙……。
次から次へと涙が溢れ出る。それはまるで、水道の蛇口を捻って流れ出す水のようであった。
「…そっか。そりゃ寂しいな。お母さんもお父さんもいなくなっちまうなんてさ。ってことは、君以外に家には誰もいないの??近くにそれか友達とかさ」
「えぅ…うぅ…家にはお手伝いさんと私……ぐす……しかいないよ。それに……ぐす……私には…お友達なんか…いないの。うぅう…」
「そうなんだ」
「うぅう…えぅっ…ぐすっ…寂しいよぉ…うぇへぇぇえんんん」
女の子は、今にも寂しさに押し潰されそうで、その華奢な体は今にも壊れてしまいそうだった。だから俺は、この娘を守ってあげたかった……。
「えぅっ…ぐす……。ふぇ…?」
少年は、女の子を頭をやさしく撫でていた。
「大丈夫……君は、独りぼっちじゃないさ。寂しい時、つらい時…、俺が一緒にいてやるからさ。約束する。だから、大丈夫…寂しくないだろ??」
「ぐすっ……ほ…ほんとう?」
「あぁ。だって俺と君はもう友達、いや仲間なんだからさ」
「お友達……。私とお友達になってくれるの?ほんとう?」
「ほんとうだ。だから、もう寂しくないだろ?」
「う…うん!寂しくない。えへへ」
「あはは。やっと笑ったな」
「………!」
「あはは。君、笑ってる方がいいぜ。笑った顔可愛いし、辛い顔ばっかじゃ辛くなるだけだしな。んなら笑っていこうぜ!!」
「あ…ありがとう…。えへへ☆」
女の子は、ホッとしたのか笑みを浮かべ、それと同時に頬を赤らめていた。
「ねぇ、お兄ちゃんのなまえは何ていうの?」
「俺か??俺は、春斗。雛月春斗っていうんだ」
次回へ続く
作品名:Wish プロローグ2 作家名:秋月かのん