ログダム
1章〜特別な日〜
チャイムが俺に、苦行は過ぎたから帰っていいぞと教えてくれる。
「ん……」
大きなあくびをして、目をこすりながら周りに目をやると、生徒たちがそそくさと帰っていくのがわかる。
「俺も帰るか。今日も一日しんどかった」
ここは私立西ケ峰高等学校。通称「ニシコー」である。
西がつく学校なんて数多あると思いがちだが、ここ、鶴海市にはこのニシコーひとつしかない。
人口約500人というとても小さな市だが、緑も豊かで市の人々は活気に満ち溢れている。
交通の便は比較的いいほうだが、緑以外何もないこの市に訪れる物好きな観光客なんて滅多にいない。
「そういや裕子のやつはどこ行った?まあ……」
どうせまたいつものところだろうと足を運ぶ。行き先は学食だ。裕子がこの時間にいる場所なんて他に考えられない。
学食の扉を開けると、その姿はあった。
ツインテールで髪は茶髪。ニシコー2年の制服を身に纏い、他の生徒とは一線を置くような顔立ちをしている。
その生徒は俺に気付くと、
「あ!遅ーい!また教室で寝てたでしょ!?いつまでたっても来ないんだもん、お腹減っちゃたよ〜」
そういう彼女のテーブルにはガッツリしたものが並んでいた。
俺は向かいの椅子に座った。
「食べるのはいいけどな、ほどほどにしないと太るぞ?裕子」
こいつが留目裕子。俺の幼なじみである。
「だって美味しいんだもん。研ちゃんもどう?」
「遠慮しときます。そんなことより早く帰ろうぜ」
「あー、研ちゃんひどーい。待たせた側なのにー」
ぶーぶー文句を言う裕子を連れて学食から出る。
すると、目の前を紫色の髪の女子生徒が横切った。
なんとなく気を取られていると裕子が、
「あれ、一年の咲ちゃんだよ。銅島咲。一年で成績トップなんだって。すごいねー」
「ふーん……」
軽く流した俺であったが、一つ気になることがあった。
「彼女、すごく思いつめたような顔してなかったか?それにあの方向は校舎の裏だろ?」
「あれ?研ちゃんも気付いてたの?私、咲ちゃんと同じ部活なんだけど、あんな顔は初めて見たなー。……追っちゃう?」
正直ストーカー的な行為はしたくなかったが、この時ばかりは興味の方が勝ってしまっていた。
「追うか」
「でも、提案しといてなんだけど、研ちゃん今日お稽古だよね?」
研二の家は代々伝わる剣道の道場である。そこの師範は櫻谷 剛二郎。研二の父親である。当然のように研二は2代目の後継にあたる。
「一日くらい遅れたって平気だろ。どうせすぐ終わる」
そう言って研二は彼女の後を追った。