ゾディアック 7
しかし聡明な目的意識は、前世と変わっていなかった。
彼女は少女達に、愛と平和に生きる女神の信仰心を教えていた。
ひときわ熱心に目を輝かせて聞いていた金髪の少女
彼女は・・ 前世のミクだった。
十代の少女が憧れるように、ミクも自分の理想と夢をこの女教師に重ね憧れを抱いていた。
彼女の髪型を真似たお気に入りの人形を抱えていた。
女教師の弾くパイプオルガンの響きが大好きだった。
突然、煌びやかな城の情景は 掻き消えた。
宮廷の華やかな結婚式の宴が、殺し合いの惨劇に化していた。
対立する宗教間の貴族同士が憎悪をむき出し血みどろに殺し合った。
女も子供も皆殺しにされ 沢山の死体の山に 阿鼻叫喚がこだましていた。
その炎の中に、金髪の少女は座って震えていた。
祝福の美しい宴を家族と共に過ごしている最中、惨劇は起こった。
彼女の身体には、親族の死体が寄りかかっていた。
宗教が起こした血みどろの惨劇によって
少女の心は破たんし、永遠の業火に囚われていった。
その時から彼女の中で、愛と平和に生きる女神の信仰心を教えた
憧れの女教師は、悪魔に変わった。
ココロヲ ダシテハイケナイ
ココロヲ ダシテハイケナイ
ナカヲ ミテハイケナイ・・
ナカヲ ミテハイケナイ・・
暗闇の中で 蠢くミクの背中があった
その側に、月光の翼を広げ ヤツは立っていた。
不安や恐れ それ自体には意味はない
それを抱く「心」 に意味がある
病み続ける・・
病んでいない者がいるだろうか?
病んでいない者がいるだろうか?
「 大丈夫 心がちょっと捻挫してるだけ、すぐ治る
おまえの状態としての光へ・・ 」
ヤツはミクの手を取った。
~ 53 ~
人は何故、最期の断末魔に縛られるのだろう・・
人生の大半を 愛と希望に溢れて過ごしながら
たった一瞬の絶望と死の苦しみに囚われて逝く
それ程までに、肉体と意識に焼き付けられたマインドは
時を超え・・ 来世に持ち越される カルマとなる
意識は分からないを嫌う
前世を知らない 今の自我が、本来の美しい魂の自分に出逢う為には
最期にそれを葬り去った 恐怖のマインドと
もう一度、対峙しなければならない。
ここは意識の闇の世界
眠っている墓を暴く者は・・ 私だ。
もう一度、本当のおまえと出逢う為に
おまえの闇につきあう・・
ダルマとして
我が名は ルシフェル
光をもたらす者
人は私を悪魔と呼ぶ。
駅前通りに、ガラス張りのラムカの店があった。
軒先に揺れる緑色のテントには シャロンと書いてあった。
月に一度、ここでラムカと タロット&タッチセラピーのイベントをやっていた。
ガラス戸を開けて中へ入ると、
薄暗い部屋の正面の壁に、ケランスの塔の絵画が飾られていた。
その絵を見る度、キーン・・ いつも小さな耳鳴りがして来た。
古びた大きな箪笥の上には 美しい飾り細工のランプが置いてあり、
薄暗い部屋の中でひときわ目立っていた。
部屋はつい立で仕切られ 丸いテーブルと椅子が置かれてあった。
奥にもう一つの扉があり、広い土間から居住スペースへと続いていた。
扉の横には 窓が付いて、店側からは鏡になって 中の土間は見えないが
土間からは 店の様子が伺えた。
昔は土間でパンを焼き、この鏡窓から客の動向を見て、焼き立てのパンを店へ運んだそうだ。
つい立に仕切られた隣部屋の鏡窓の前に、私は運んで来たベットを広げた。
鏡窓の奥から気配がし、扉が開いて ラムカが現れた。
「 おはようございます・・ 」
透けるように青ざめたラムカの白い顔に 深く鋭い眼光が光っていた。
あまり眠れなかったのか・・ ラムカは 今日の予約と人数を私に教えた。
「 今日はチャクラワークセラピーをしょうと思うの。 専用の音楽も録って来たよ 」私は言った。
「 チャクラワーク? 」ラムカは聞いた
「 チャクラは、車輪て意味の人間の身体の中にあるエネルギー磁場の事さ 」
私はストーンの準備をしながら、ラムカに言った。
「 肉体を含めた、目に見えない七つのエネルギー体で、
光が色に分かれて生まれて来た 私達のサトルボディだ。
色も音も同じ周波数を持っていて、私たちの肉体・マインド・スピリットに影響を与えてい るからね。
この音楽をかけながら、ボディにホットストーンをする事で そのチャクラを活性化するのさ 」
「まあ、 身体の中に車輪があるなんて・・凄いですね 」
「 私たちはいつも車輪を回してるんだよ。どの瞬間もね・・ 」私はニヤリとして言った。
最初の客は、小さな身体のきゃしゃな女性だった。
ドンドコドンドン! ドンドコドンドン!!
ドンドコドンドン! ドンドコドンドン!!
地響きのするような太鼓の音楽が、シャロンに鳴り響いた。
第一チャクラは、低い音程の物質界 肉体レベルの周波数だ。
血が沸き肉が躍る・・
遠い昔の 遺伝子に眠る記憶を呼び覚ます。
恍惚感が腹の底から湧き上がって来るのを感じた。
魂の記憶
遥か何千年もの昔 宇宙と繋がっていた ミスラトの時代
自分たちも地球の一部として生かされ 自然界の精霊の一つである事を知っていた。
神と人間との間で執り行われたイニシエーション・・
原初のホットストーンセラピーだ
横たわる きゃしゃな女性の太ももから 腰にかけて、熱い石で流していった。
キーーーン・・
眉間に光る菱形が現れ、アルマ アマルの重く深い香りと共に
クルクル回りながら後頭部に突きぬけて行くのを感じた。
小さな身体から、大きく渦巻く宇宙が現れた。
この光景は、前にも遭った事がある・・ ミルラの身体を触った時だ。
その途端フラッシュバックが起こり、古代幻視が現れた。
激しい太鼓の音と共に、炎の光に照らし出され大きな石像が左右に2体浮かんで見えた。
頭は猫の形で 大きな翼を持ち、手足は長く人間の姿をした
半身半獣の巨大な石像が立っていた。
「 これは・・ミルラの前世 」
しかし、数十メートルもある その巨大な聖獣像は、今私が触っている
この小さな女性の 身体から発されるエネルギー体とも同じだった。
人々は 陰と陽2対の聖獣像を祀り そのポータルから豊かな宇宙エネルギーを受け取っていた。
一体がミルラで・・ もう一体はこの客だった。
かつて人間は、信仰心を持ち 常に見えない存在を崇めた。
太陽が真っ赤燃えギラギラ輝いた ある暑い日、
戦いが起こり沢山の人間が殺された。
全ては破壊し尽くされ・・ 人々が崇め祈って来た 聖獣像も一体が完全に破壊された。
私が宿っていた 受容を司る陰の聖獣像が・・ この客の前世だった。
「 私はこの客の前世に100年宿っていた・・ 天使サラクエルと共に 」
宇宙の次元と次元を繋ぐポータル。
文明が滅んだ時、ポータルは閉じられ 人間界は状態で存在した次元から、相対で存在する自我を選んだ。
人が最初に選択した意識の転生の始まり。
カルマ -----
ドドン!!
・・ヴォーーン ヴォーーン
ボーディ・・ ボーディ・・ ボーディ・・
ボーディ・・ ボーディ・・ ボーディ・・