今日もポラリスを見つめて
プロローグ
あ、やべぇもっと早く家を出れば良かった。
力学の計算に追われ、レポートをまとめていた時には朝方になっていて5時ちょっと過ぎだったことは覚えている。
後は表紙を書くだけだ。濃いめのコーヒーでも飲むかとお湯を沸かし、一口飲み身体を温めたことが間違いだった。
徹夜からここまで来てうたた寝をしてしまったのだ。
ふと、我に返ると8時を過ぎている…。
焦って準備すればいいものの何故か笑っている自分がいた。
原付でほぼ一本道を通学している俺は、信号に嫌われなければ15分で着く自信があった。しかし、昨日の天気予報は80%の確率で雪。外は真っ白なはずだ。原付なんてスッ転んで終わりだ。かといって電車で行けば30分。2駅で着くのに、大学までは上り坂が立ちはだかる。競歩で行けたとしても20分。
ほら、どっちにしろ間に合わない。
授業は8時20分から。教授が来る前に教壇に提出しないと未提出扱い。どんなに眠い中頑張ったレポートも『寝坊』の一言でただの紙切れとなる。空しい話だ。
せっかく教授のつまらない話をノートにまとめたのにな。
俺は、教授の授業が独りよがりの自慢話にしか聞こえない。
私は、こんな研究をしてるんだ。外国にも行くんだ。東京の上の方の大学で講義もするぞ!凄いだろ!私みたいになりたかったら、私を信じて講義を聞きたまえ!とでも言っているかのように聞こえる。黙々とノートを取る生徒よりも一段高い教壇に立つあいつらを俺は認めたく無かった。
勿論、教授と言う立場で偉いことは知っている。
偉いことだけはね。
さて、レポートの話に戻ろう。
救われるとすれば、怪我でもして言い訳を作ることだな。
医者に行って診断書を貰う。
診断書とは神から許された救世の道なのだ。
ただ、残念ながら体調は万全なのでインフルエンザでも無さそうだ。体調不良での診断書は頂けそうにない。
8時20分か。
タイムアウト。俺の背中には『未提出』の札が付けられた。
作品名:今日もポラリスを見つめて 作家名:伊沢 毛呂