ゾディアック 4
ガラガラと硝子の戸が開き・・「 どうぞ・・ 」ラムカの声がした。
少し青ざめたラムカの白い顔が、陽の照り返しを受け いっそう白く
陶器のように光って見えた。
ラムカの深い眼は、闇を隠して水面を揺らす鏡の反射のように見えた。
人の瞳の奥に宿る光は、どんなに転生を繰り返しても 変わらないのだ。私は思った。
中に入ると、ひんやりと湿った空気に包まれた。
「 ここに来る時、信号が全部 青でした 」私はテーブルに着きながら言った。
「 それはすごいですね。マリオンさん・・ 」ラムカの紅茶を注ぐ手は 少し震えていた。
「 ・・私は怖いんです。特に夜、部屋で一人暗がりの中にいると
何かの気配を感じ・・ 闇に押し潰されそうで、今にも息が詰まりそうになります 」ラムカは両手で頭を抱えた。
かなり追い詰められた様子だった。
意識は分からないを嫌う・・
前世を知らない 今の自我が、本来の美しい魂の自分に出逢う為には
最期にそれを葬り去った マインドの恐怖と
もう一度、対面しなければならない。
ここは意識の闇の世界
眠っている墓を暴く者は・・ 誰だ。
もう一度、本当のおまえと出逢う為に
おまえの闇につきあう
ダルマとして
我が名は ルシフェル
光をもたらす者
人は私を悪魔と呼ぶ。
「 マリオンさん、私はどうすればいいんでしょう? 」ラムカが言った。
「 この前、ホットストーンをした時・・ ラムカの前世が見えました。最期の時だった 」
ラムカは頭を抱えたまま、下を向いていた「 ・・・ 」
「 暗く狭い場所が 苦手じゃないですか? 」私は続けた。
「 そうです・・ 何故分かるんですか? 」ラムカは顔を上げた
「 最期の夜、狭い納戸のような場所に押し込められて 極限の恐怖を味わったからです 」
ラムカは震えながら言った「 私は 子供の頃から、長くは生きれないという恐怖に苛まれて来ました。
それも その時の記憶のせいだったのでしょうか? 」
「 人はたった一瞬の絶望と死の苦しみに囚われて逝き、次の転生に持ち越してしまう。
前世の 人生の大半を 愛と希望に溢れて過ごしながら・・ 何故か 最期の断末魔に縛られてしまいます」
「 昨夜 マリオンさんが言った・・ おまえの大いなる魂が 出ようとしているのか?それとも入ろうとしているのか?とは、一体どういう意味ですか? 」
「 これはチャンスなんです。 最期に自分を葬り去った マインドの恐怖ともう一度 対面し、本当のあなた自身を取り戻す為に。
前世、あなたは いつも星空を見上げていました 」
「 それは、今でもします。この家から見える空は小さいですけど、いつもオリオン座やシリウスを見ています 」
「 あなたの、真摯で純粋な心は深く 前世いつも空に祈っていました。そしてその願いは天使界に届きました 」
「 天使界? 」ラムカが言った。
「 そう、あなたは誓約を交わしたのです。喩え この身が消え去ろうとも、心と魂は永遠に。その真実の聖霊と共に在らん事を・・と、
前世、あなたは秘密結社でした 」私は言った。
「 今世はその続きです。あなたが生きた・・ 本当の自分の光を取り戻す為に 」
「 本当の私の・・ 光? 」
「 前世と同じ生き方をすればいいのです。沢山の人を相手に・・
その人の心が望む物を手に入れる手助けをした・・ あなたはコンシェルジュでした 」
「 コンシェルジュ?でも、一体どうやって・・ 」
「 もう分かっているはず。シャロンで人を相手にタロッシュをすればいい。前世と同じように・・ 」
「 タロッシュ?そんな・・私には自信がありません 」ラムカはまた頭を抱えた。
「 ホットストーンをした日、私に17番 星のカードを出しましたよね。あれはメッセージでした・・ 希望の光。
信じるのは あなたや私を?違う、人なんか信じちゃダメだ。人は皆 一生懸命その時点で最善の自分を生きてるだけだからね 」
「 じゃあ、何を信じればいいんですか!? 」ラムカは叫んだ。
「 ヤツらです・・ 」私は上を指さし ニヤリと笑った
~ 28 ~
状態の光 相対の闇
私を取り巻く現実は 全て幻で
体現的に実現しているに過ぎないとしたら
私はいつ 恐怖を捨て去るのだろう・・
今 という永遠の時の中で
暫く沈黙が続き
カチカチカチ・・ 薄暗い部屋に 時計の音だけが鳴り響いた。
ラムカはタロッシュを取り出した。
「 どうぞ・・ 」私に差し出した。
私は何回か それを繰った。
ラムカと私の姿が 背後の暗い鏡窓に映っていた。
私は十字の形に、6枚のカードを引いた。
ⅩⅦ 希望、ⅩⅢ 死、ⅩⅥ 塔、Ⅱ 女教皇、風の2、風のクイーン
ラムカは食い入るようにカードを見つめて言った。
「 過去に・・ 希望がありました。現在・・ 何かが終わり 生まれ変わろうとしています。近い将来・・ 崩壊が・・ 」
ラムカが言葉に詰まり震えた。
「 続けて 」私は言った。
「 崩壊が起こる・・ 2つのせめぎあう極に均衡が生まれようとして、悲しみの喪失感を味わう・・ 」ラムカが止まった。
「続けて」私は言った。
「 こ・・これに対するメッセージは・・ 隠されたイシス、2本の柱、神秘の秘密を授かる 」
私は驚いた「 待って、今 イシスと言った? 」見ると 書物を抱えた女が椅子に座り、三日月を足に敷いている絵が描かれていた。
この絵は、私の夢に出て来る砂漠に座る女 そしてカヨがケランスの写真に撮った女神像・・ それとそっくりな絵がタロッシュに描かれていた。
「 女教皇のカードです。月の女神イシスの神秘を伝える、物事の隠された側面が現れる。というメッセージが送られています 」ラムカが言った。
「 そうか・・ 分かったよ!闇を相手にするのは、光の印しでしかないんだ 」私は言った。
「 ??? 」
「 つまり、私達の意識が 分からないという 自分の闇を相手にするには、その概念自体が 印しってことさ 」
「 ???? 」
「 このカード、最初に出したⅩⅦ 希望は、愛と希望に溢れて生きたあなたの過去世です。
二番目に出したⅩⅢ 死は、葬られた過去世を思い出し 今蘇る 現在のカード。そして近い将来のⅩⅥ 塔は、相対的な概念にとっては 崩壊を意味する・・ 」
私の言葉にラムカの表情が恐怖に歪んだ ・・
「 本質的な状態の光にとっては、その考え方をする概念自体が崩壊を迎える。
・・ 今 ラムカさんがこのカードを見て思った事、そのネガティブな価値観自体が、印しってことです 」
「 負のイメージを示す このカードがですか? 」ラムカは怯えながら言った。
「 負とは、この世界が恐れる 有るが故の喪失。だろ? そもそも失うなんてものは 存在してないのさ 」急に私の言葉は乱暴に変わった。
「 失うが・・存在しない? 」ラムカが繰り返した。
「 そうだ。あんたは 過去殺され、その喪失体験に今も苦しめられてる 」
「 はい・・ 闇が・・ 怖いんです 」
「 あんたは、確かに失った・・ と思った。でも今、私の前に座って話してる。概念が味わった 喪失体験を、印しとしてね 」