ゾディアック 2
確かに、現実と呼ぶ 目に見えるこの世界で起こる出来事より
自分の中に 変性意識の感覚を通して起こる出来事は、時間と空間を感じさせない。
まるで「 永遠の今 」に閉じ込められてしまったようだった。
「 あの平行して伸びていく二つの雲のみたいに・・ 」私は言った。
「 私達がいる 現実と呼ぶこの世界と、感覚を使ってしか解らないけど
超リアルな見えない世界と、二つの平行する次元が 同時に存在してるね 」
「 うん、二つの平行して伸びて行く次元は 今という時間で 私達に繋がってるんだね 」ナアナが言った途端
二つの雲の間を 垂直に降りる飛行機雲が一本伸びて行った。
「 キの形だね 」私は笑った。
「 本当だ!キだ。平行する二つの次元に交わった 私達がいる場所。永遠の今! 」ナアナが言った。
ナアナの車のミラーには、硝子のサンキャッチャーがぶら下がり
朝陽を浴びて煌めいて 車内いっぱいに虹を散りばめて眩しく輝いていた。
会場に着くと 中は沢山の人でごった返していた。
ナアナが仕事で取材した関係者も何人かいて 挨拶をしていた。。
フリーライターをしているナアナは 月食以来、スピリチュアルな仕事ばかり舞い込んで来るらしかった
その関係の知り合いも増えていた。
各ブロックはブースに分かれて、時間ごとに様々なセッションが行われていた。
「 マリオンどれにする?UFOと交信する人・・ 前世魔女だった人・・ 過去世が見える人・・ 一杯あるね 」
「 どれも面白そう、順番に全部回って見ようよ 」私は言った。
UFOと交信出来るという外国から来たおじさんは、人のエネルギーは皆 星の故郷が決まっていると言った。
「 じゃあ、私達は皆 地球にやって来た宇宙人てこと? 」
「 そういう事だね、遊びにやって来たんだよ 」ナアナが笑った「 星のエネルギーが人間に入って経験したかったんだね 」
おじさんは私達の星のエネルギーをみてくれた。
「 ナアナはプレアデス・・ 私はシリウス・・ 」
「 プレアデスは温厚な調和のエネルギーだって。 シリウスは無邪気で智慧のエネルギーだって 」
解説を見ながらナアナが教えてくれた。
「 何となく・・当たってるね。ナアナは争い事が嫌いで温厚だもんね 」
「 うん、頭で分かんなくても 自分のエネルギーを いつもここで感じてればいいんだよね? 」
お腹のみぞおちの辺りを 手で摩りながらナアナが言った。
「 そうだね、私達はエネルギーの車輪、星のチャクラを いつもここで 回してるんだからね 」
私は言った。
人は皆、星から生まれて来た。
空に、何億光年も離れた 遠い銀河の輝きを見る時
自分の中に眠る 小さな星を覗いて笑ってるんだ。
次は、過去世に出逢えるという集団催眠のブースに入った。
「 本当に集団でそれぞれの過去世が見えるのかね? 」ナアナが小声で言った
「 そんな事出来たら凄いよね!ワクワクする・・ 」私も囁いた。
十人くらいはいただろうか・・照明の落とされた 心地良いヒーリング音楽の流れる部屋で
並べられた椅子に皆腰かけた。
モジャモジャ頭の小太りの女性が現れ、誘導催眠の声をかけた。
「 目を閉じて 静かに深く呼吸をして下さい・・ 何も不安はありません。あなたは守られています・・ 」
「 何処かで聞いたセリフだ・・ そうかメリエスのセッションでも同じような事言ってたな・・ 」
私の概念は次々 色んな事を考え始め・・ 言われた通りの事をしてなかった。
「 ナアナもそう思ってるのかな・・ 」うす目を開け 隣のナアナをちらっと見た
ナアナは真剣そうな面持ちで目を閉じていた。
「 真面目にやってるよ・・私も集中しなきゃ・・ 」私の頭の中はうるさかった。
「 階段を降りて、目の前にある扉を開いて下さい・・ 」女性が言うと
いきなり目の前に階段と扉がフラッシュバックして現れた。
それは女神島で観音寺院にあった闇の戒壇とそっくりだった・・ 後ろを見ると
階段の上には 逆光に眩しく輝く白い三十三観音がいた。
闇の戒壇の入り口にいた あの観音だ
私は目を閉じているはずなのに・・ その光景は目を開けている時よりもずっと鮮明に見えた。
「 何!?この感覚・・ 」私は 久しぶりに起こった異常な感覚に戸惑い緊張した。
私の頭の中は黙り・・ 眉間が熱くなって 胸の奥から風が吹いて来るのを感じた
扉を開けると、一瞬真っ白になって何も見えなかった。
暫くすると、足元に黄色い砂がかかっているのが見えた。
その足は確かに自分の足なのに・・見覚えの無い 褐色の素足にサンダルを履いていた。
私は目を擦った「 誰この足!?私の? 」
白い布を巻いた服を着た 私らしい人物は、大きな切出し石の階段の上に立っていた。
何処かの神殿らしい大きな丸い柱が見えた・・ 下を行き交う人々は皆、布を頭から巻き裸足で歩いている者もいた。
この光景は・・見たことがある・・ エジプトだ。私は驚愕した。
それもかなり昔の・・ 私は思い出した。
今、女神イシスの神殿から出てきた所だ。数十メートルはある巨大なイシス像に祈りを捧げて来た。
私は・・ 王家に仕える神官の家に生まれた。将来は父と同じ神官になるはずだ。
思い出した途端、急に胸が苦しくなった。私は悲しみでいっぱいだった・・
何故なら・・ いつも一緒だった幼馴染みの大切な人が、遠くへ行ってしまうから・・
私は感情を抑えながら・・涙を流した。決して自分の気持ちは出してはならない。
足元を砂が吹き抜けて行く。
突然、場面が変わり・・ 夜の星空に大きな丸い月が出ているのが見えた。
月は 今よりも遥かに大きく妖艶な強い光を放っていた。
私は石のベランダに立ち、肩には大きな鷹を留まらせていた。私の友達だった。
私は・・泣いていた。月をイシスと呼び、語りかけていた。私は孤独だった。
まるで映画のワンシーンを観ているような気分だった・・ 私は16、7歳の少年の姿をしていた。
私の心を覗くと・・ 1人の少女の姿が現れた。
彼女も同じ位の年で・・ 年齢に合わない 威厳に満ちたオーラをしていた。
全身にキラキラ輝く黄金の塗料を塗り 大きな石の椅子に腰かけ・・
酔ったように揺れながら 長いパイプを吸っていた。
彼女の周りには 白い煙が立ちこめ・・ フランキンセンスのような土臭い香りのアロマの匂いが漂っていた。
私は 彼女との別れを悲しんでいた。彼女はもうすぐ遠い国に嫁いで行ってしまう・・王女だった。
彼女は・・知らない顔だったが、それがナアナだと私には解った。
私達は 何千年も遠い時間の果てから 一緒に旅をして来たソウルメイトだった。
「 はい、目を覚ましてください。現代に戻って来ました! 」パチンと指を鳴らした音と共に声がして、私は目を開けた。
時計を見て驚いた、いつの間にか催眠に入っていて その間は僅か15分くらいなのに
何時間も何日も・・違う世界にいたような気がした。まるで浦島太郎になったようだった。
「 ナアナ、見えた? 」私が聞くと、
「 うん、マリオンは神官だったんだね・・ 私達ずっと一緒だった 」と言った。