最後の夜
「僕が戻って来たら…結婚してくれるか?」
彼女は何も言わず、ただ目から涙をこぼしながら僕の首に腕を回ししっかりと抱きついてきた。
わずかに頷いた彼女の柔らかい金色の髪をいとおしく撫でた。
雪交じりの雨の日だった。
空港へは彼女が僕のSUVを運転していった。
僕たちの間に交わす言葉はなかった。
手続きを済ませ、出発ゲートに向かう。
最後にもう一度抱擁を交わし、口付けを交わす。
泣くまいと思っていたのに、僕の目からも涙がこぼれてきた。
「愛してるよ」
そういって、もう一度軽く唇を合わせ、ゲートをくぐった。
「マイケル!!」
彼女の呼び声に振り返る。
両手を組んで、口の前に持ってきている。
震えているのだろうか。
小柄な彼女が、一回り更に小さく見えた。
大丈夫。きっと生きて帰ってくるよ。
そういう気持ちをこめて、僕は彼女に投げキスを送った。