ゾディアック
振動と耳鳴りは更に高く鳴り響き、頭が割れそうになって来た。
Let me go・・ Let me go・・
「 行かせて・・ 行かせて・・ 」誰かが叫んでいた
バァロロォォー!!私は アクセルを強く踏み、振動や耳鳴りを振り切るかのように
轟音と共に車のスピードを上げていった。
「 最近は耳鳴りも治まってたのに・・目は 」バックミラーを覗き込んだ。
瞳の色は 赤銅色から深い緑色の炎のように渦巻いて見えた。
「 何なのこれは!? 」激しさを増していく振動と耳鳴りに 耐え切れず悲鳴を上げた。
ギャーーーーー!!悲鳴のような耳鳴りに 私はさらにアクセルを踏み込んで 速度は100kmを超えた・・
もうだめかもしれないと思った。
全てを後悔した「 あの月食を見なければよかった・・ 女神島など行かなければよかった・・
何も起こってなどいなかった!私は何も見てはいなかった!何も聞こえてはいなかったのだ!!! 」
グルグルグルグル・・私の中のまともな意識は消え入りそうで、マインドの闇に自分を閉じ込めてしまおうとした。
気が遠くなりかけた時、黒い影が車の窓を横切った。
見ると一羽のカラスが 私の前を飛んでいた。 黒いカラスは時速100kmの車の前を悠然と飛んでいた。
朦朧とする意識の中で・・ カラスの後をついて行った。
私はもう・・ そのカラスしか見えていなかった。
割れそうな耳鳴りと振動に身体も オンボロ車も、バラバラに空中分解して飛び散ってしまいそうだった。
突然 目の前に赤信号が飛び込んで、私は急ブレーキを踏んだ。
ハンドルに頭をうっぷせて肩で息をした。 暫くして顔を上げて見ると、信号にカラスがとまっていた。
「 さっきのカラス・・?」呟くと、カラスが「12、12・・ 」と鳴いた。
私は耳を疑った「 カラスが12? カラスはカーでしょ!? 」とうとう頭がオカシクなってしまった。
もう 振動も耳鳴りも 感じているのかいないのか解らない、私は限界だった。
もう自分の感覚など どうでもよかった。
涙が溢れ・・ 何故泣いているのかも解らなかった。
カラスは何処かに飛んで行ってしまった。
気が付くとアロマショップの前に着いていた。私はフラフラと車を降り、注文したオイルを買いに店の中に入って行った。
「 いらっしゃいませ。マリオンさん、オイル出来てますよ 」馴染みの店員がにこやかに声をかけてきた。
棚の奥から青い瓶を取り出しながら
「 ご注文の サンダルウッド、フランキンセンス、サイプレス、ローズゼラニウム、グレープフルーツ・・ 特製のオイルです。
新鮮な木の香りと深く甘い土の香りが、まるで陽の当たる森林を歩いてるような気持ちにさせ リフレッシュしてくれそうですね 」
店員は息も吐かず喋り続けた
「 身体の むくみやリンパを刺激して体内の老廃物も排出し皮脂のバランスを整え、
心を落ち着かせる鎮静効果も高いでしょう。マッサージオイルとしては最高の仕上がりです 」店員の声は私の頭にキンキン響いた。
「 あら、マリオンさん顔色が悪いですね。大丈夫ですか? 」店員はやっと黙った。
「 ええ、大丈夫。ありがとう 」私は支払いを済ませ商品を受け取り店を出ようとした
「 マリオンさん、そのオイルの名前は何ですか? 」後ろから店員が声をかけた。
名前?名前なんか考えてない・・そう思った瞬間、私の口から「 クマラ 」と言った。
何で?私が言ったの?・・クマラって?
私は店を飛び出すと車に駆け込んだ。運転席に座ると胸がドキドキした。
「 クマラって・・何? 」袋を開けて オイルの入った青い瓶を取り出し 蓋を開け香りを嗅いでみた・・
「 おかえり・・ 」
「 瓶が喋った!?お帰りって言ったの? 」
私は瓶を落としそうになりながら 窓の光に瓶をかざして見つめた。
「 12番目のアセンデット 12の月を廻り1つのサイクルが終わる・・ 」アリエルの声がした。
「 12番目のアセンデット・・アセンデットて上昇するって意味?12の月を廻る・・1年12ヶ月の事? 」
私の意識は同時通訳するかのように グルグルと概念で追っかけた。
傍から見るときっと精神分裂病の患者のように見えただろう・・
私は泣きながら笑った。
何故泣いているのか、何故笑っているのか・・傍からどう見えようが、もうどうでもいい。
私は、こうするしかなかった。
息も出来ない程胸が苦しくなって涙が溢れた。心臓の音と高音の耳鳴りで頭は割れそうに痛い・・
私の精神は限界を超えていた
「 あああ!! 」まるで断末魔の苦しみのような悶え声が漏れた。
Let me go・・ Let me go・・
「 行かせて・・ 行かせて・・ 」私の中で誰かが叫んでいた