ゾディアック
「 この客の心臓の音・・?血管を流れる血流の音・・?私が今触れているのは、
皮膚・・ 肉・・ 血・・ 骨・・ いいえ、もっと下のもっと深い場所・・
私が 今触れているのは・・ この客が本当に存在する場所だ! 」私は目を開けた。
ギャーーーーーー!!劈き裂けそうな甲高い耳鳴りと
ドックン!ドックン!ドックン!!!脈打つ鼓動の音が大きく響き合い
揺れている私の振動と一つになっていった。
朦朧と薄れていく意識の中で、声が聞こえた
ワタシガワルインジャナイ ゼンブアノオンナノセイヨ
ユルセナイ アノオンナ・・
ゼッタイ ユルサナイ!
ベットの下に蹲る女は、この客の霊体だった。
月食を見た日から 私の身体は揺れだし・・
世界は全て変わってしまった。
~ 1 ~
私は 魅惑するために力を与える
受容性を指揮しながら
輝きという 倍音の音とともに
私は 永遠の出力を確信し
スピリットの力に導かれる
(※マヤンカレンダー・キン引用)
また夢を見ていた
空を飛ぶ夢。13歳のあの朝に感じた至高感が ・・
残り香のように蘇り 身体に絡みついたまま、
うっとりとした微睡みが 目覚めた後もまだ残っていた。
「 そうだ、今日は病院に行く日だった 」私は ベットから起き上がりシャワーを浴びた。
狭いブースに入ると小さな椅子があった。座って耳にヘッドホンをつけると 心地よい静寂に包まれた。
「 ピーと聞こえたらボタンを押してください 」いきなり看護師の声がした
また暫く静寂が続き ・・ピー・・ 微かに音が聞こえて来る。私はボタンを押した
短く長く 音が流れ、その度にボタンを押す。そしてまた静寂に包まれた。
「 ここで眠れるわ 」微睡みかけた時 ・・ボー・・ 今度は低い音がした。
私はボタンを押した。
「 異常はありませんね 」医者は言った。「 検査では聴力レベルに全く問題ありません 」
「 でも先生、仕事中に人の声がアヒルみたいな間延びした声や 音楽も伸びたテープのように聞こえるんです 」私が訴えると
医者は「 じゃあ、眼圧を変えるお薬を出しときましょうね 」あっさり答えた。
「 眼圧を変える薬?そんなの適当に飲んでも大丈夫なのかしら・・ 」原因も解らないまま薬を与える医者に
戸惑い不信感を抱いたが、これ以上言っても無駄だと思い諦めた。
「 聴力検査に異常は無かったんだし、まあいっか・・ 」思い直し
帰って袋を開けると薬は真っ赤な紙に包まれていた。明らかに劇薬っぽい・・
「 大丈夫なの?これ‥ 」恐る恐る赤い包みを開き 中の粉を水と一緒に喉に流し込んだ。
「オエーッ!!」頭が割れる程ガンガン痛くなり 私は何度も吐いた
洗面で流しながら「うわ・・殺されるとこだった。だから医者と弁護士と坊主は嫌いなんだよ!」
プンプンしながら何度も悪態をついた。
店でミオナが聞いて来た「 マリオンさん、病院はどうでした? 」
「 ああ、それが酷い目にあったよ。聴力検査で異常は無かったんだけどね・・ 」私は昨日遭った一部始終をミオナに話した。
「 まあ、それは大変でしたね。解らないのに薬を飲ませるなんて、危ないですよね 」
「 そう!だから私は、医者と弁護士と坊主は・・ 」
「 でも、検査で異常が無くて安心しました 」ミオナは私の言葉をさえぎると
「 きっと疲れてたんですね。マリオンさんあまり無理しないで下さいね 」と微笑んで客に入っていった。
「 でも あんたの声はまだアヒル声だけどね・・ 」私は心の中でつぶやいた。
しかし、それからはもう 誰かに今揺れてる?とか音が変よね?とか聞くのをやめた。
どうせ言っても 誰にも解ってもらえない、自分で解決するしかなかった。
店に新しい子が入って来た「 コミュウです。よろしくお願いします 」
女神島からやって来た彼女は、マイペースで人に媚びない子だった。
もちろんミオナとは合わなかった。
「 ちょっとコミュウ!皆と同じようにちゃんとやってもらわないと困るわ! 」
「 別に同じじゃなくてもいいんじゃないですか?私ちゃんとやってるし! 」2人がぶつかると
周りの子達は 散り散りに逃げ出し、ハーレムの輪が乱れた。
ミオナの嫌う規律の乱れ・・ 2人は犬猿の仲になった
コミュウはいつもぽつんと1人、皆から離れていたが
私にだけは話しかけてきた。ある時 受付に座っているとコミュウが側にやって来た
「 コミュウは 女神島から来たんだよね。あそこは・・ 」言いかけた途端、激しい耳鳴りに襲われた
キーーーーン!全てが金属音の中にいるように響き渡り、今までに無い不可解な現象が起きた。
私は深いトランス状態に入っていった・・
「 あそこは、観音の宿る島・・ 神話や寓話的な話を真実の話として聞く・・来い・・て言ってる・・ 」
ギャーーーー!!高音の激しい耳鳴りの中で確かに聞こえた。
コミュウはあっけにとられていた「 え?観音ですか?知らないけど・・ 今度父に聞いてみます 」と言った。
やっと耳鳴りが治まり・・・ 私は息を荒げながら
「 この訳の解らない現象から解放される答えは・・ きっと女神島にあるに違いない! 」と思った。
いつも夜眠る時間になるとドキドキした。
暗闇の静けさの中でベットに横になると、起きている昼間よりもさらに振動を強く感じるからだ。
それでも 身体は 次第に振動に慣れてきて、最近ではもうそれが普通になって来ていた。
キーン・・小さな金属音がした
「 微かに揺れてる・・でもこれくらいなら大丈夫か 」私は目を閉じ 微睡みの中に入っていった。
突然 目が開いた!「 え!?何? 」明らかに誰かに起こされた。
面喰ってると同時に 携帯の着信が光った!「 何で?電源は切ってたはず・・ 」
見ると、ナアナからだ。夜中の3時に!?
「 マリオン!助けて!アリエルてのが話しかけてくる! 」
「 え?アリエル? 」あんた夜中に何なのよ?と思う私の口から・・「 大丈夫!アリエルは現象界の天使だよ 」と答えていた。
これは夢?私は寝ぼけているのか・・ ギャーーー!激しい耳鳴りの中 倒れこむように私は再び眠りに落ちて行った。
目覚めると、朝日の木漏れ日が顔に当たり 眩しかった。鳥が鳴いている・・
「 昨日は・・ そうだ、ナアナが電話して来たんだ 」私は急いで携帯を開いた。
確かに、夜中の3時に着信がある。あれは夢じゃなかった!
私はナアナに電話をかけた「 ナアナ、大丈夫?一体どうしたの? 」
「 マリオンごめん。私おかしいの・・ 」泣きそうな声でナアナが言った
「 少し前から・・振動がし出して、有り得ないものが見えたり聞こえたりするの 」
私は驚いた「 え、あんたも?私もなのよ! 」私たちには同じ現象が起こっていた。
私は嬉しくなった「 病院に行っても無駄だよ。誰も解ってくれない。私達だけでこれを突き止めよう! 」
「 ありがとう!私もマリオンを信じるよ 」
「 私もだよ。ナアナを信じる!今私達に起こっている事は真実だよ! 」
ナアナには アリエルという天使がついていて 語りかけて来る。