僕と彼女と神隠し
そんな何気ない会話ができてることがどこか、すごく嬉しかった。
「明日から夏休みだからあしたは、朝からお見舞いに来るね」「いいよそんなに無理しなくても」「無理なんてしてないもん。私が来たいから良いの」笑いながらトワが言うので「わかった」そう返事をして、僕は、眠りについた。「ごめんね健太、こんなことになって」
トワが、涙を流しながらそう何度も僕に言っていた事を僕は、知らなかった。
「二日目」
今日から、夏休みなので、朝からトワが会いに来てくれている。
「退院は、いつごろ出来そう。」「良くは、なってきてるけど万が一をとって先生がもう少しかかりそうだって」「わかった」「夏休みなんだから、早く退院してどこか遊びに行こうよ」「うん、退院したら
遊びに行こう」
けれど、僕は、自分の体の様子がおかしいことにこの時気づいて察していた。でもトワを心配させないように僕は、「そうだね、退院したらトワは、海以外でどこに行きたい」「海以外は、今は、いきたいところ無いから、考えとく」「分かった」そう答えて二人で笑いあった。トワが帰った後僕は、何度も吐いたことを、何度も発作を起した事をトワは、知らなかった。
その夜目を覚ますとそこには、一人の少女が泣きながら何かを言っている。その少女をトワだと認識するのにさほど時間は、いらなかった。でも何か口にしなければ、トワを慰めなければいけない。そう思っているのに言葉が出ない。そして意識がまた夢に落ちていった。
「三日目」
私が、目を覚ますと頭を誰かが撫でている気がした、目を開けると笑顔で、私の頭を撫でる健太の姿があった。それを見て私の頬に涙が溢れる。そして、健太に飛びつき「心配したんだから。」「ごめん」そんな会話をしたあと先生から、今の健太の体のことを知らされる「今、健太君は、かなり悪い状態です。もうしばらく入院して治療を、受けて貰わないといけません」その言葉を聞き私は、口を滑らせる「私のせいだ」「え、」「私が車にひかれそうになったから
健太がこんなことに」「それは、違う」「トワは、何も悪くない。
だから、泣かないで、絶対にすぐ退院するから」その言葉を聞いた瞬間にまた、私の頬を涙が溢れる。
その日のトワは、凄く僕に世話を焼いてくれた。「何か食べたいものある、リンゴ剥いてあげるね」その言葉に僕はびっくりした。
トワとは、幼なじみで長い付き合いだけどここまでしてくれるトワは、初めて見た。僕が、驚いているのに気がついたのか「このくらい私だってできるわよ」少し顔を赤く染めたトワが恥かしながら言うので僕も少し照れくさくなった。そして少しの間眠ることにした。
目が覚めた。僕の額には、濡れたタオルが置かれていて、となりを見るとトワが笑いながらこちらを見ていた。「目が覚めた?」「うん」
「今日は、トワなんにも予定ないの」「無いから一日いるつもりだよ」「へ~」「嬉しくないの?」「嬉しいけど、無理してないかなって」「大丈夫、無理してないよ」その時だった、急に目眩がして目の前が真っ暗になり、暗闇の中に落ちていった。暗闇の中で誰かが話しかけてきた。「ねえ、海に行こうよ」声は、とても細く綺麗な声だった。
「こんな体じゃ無理だよ」僕は、その声の主にそう答えた。「なら、未来を変えれば良いよ」「そんなこと出来るわけないよ」僕は、声の主がなんのことを言ってるのか分からなかった。未来を変える、それは、突拍子もなくでたらめな話だ。「そんなことが可能なら僕は、
とっくにやり直してる」声の主に告げる。「可能だよ」「そんなの・・・」言いかけた瞬間に闇が光に照らし出される。「そろそろ時間だね。君とは、また会える気がする」声の主がそう告げると僕は、光の中に吸い込まれていった。
目が覚めると、部屋は、とても暗く夜になっていることに気がつくのに時間がかかった。隣を見るとトワが、椅子に座ってベットに頭を置いて寝ていた。その周りは、微かに濡れていて彼女の目から涙がこぼれていた。「また僕は、トワを泣かしてしまった」そう呟くとトワが目を覚まし、僕が起きていることに気づいたのか、また涙目になって僕に抱きついてきた。「本当に心配したんだから。いきなり倒れるから。このまま起きなかったらどうしようって」彼女の言葉を僕は、ただ聞くことしか出来なかった。「ごめん」そう言うしかなかった。
今夜は、僕のことが心配だからトワが病院へ泊まると言い出した。
僕にとってそれは、嬉しくてとても不安だった。なぜなら、
病室で夜中ひとりきりだった僕にとって夜誰かがそばにいてくれることは、久しぶりで嬉しいのだが、夜中に僕の体調が崩れてしまえばきっとまたトワを心配させてしまう。そんなことを考えていると「健太が夜倒れないか心配だから止まるんだよ」そんな言葉が聞こえてきた。どうやらトワには、僕が何を心配しているかバレバレらしい。そう思うと気持ちが楽になり「分かった」そう答えた。
「神隠し」
健太が入院してから四日目になる。健太は、私が心配しても大丈夫すぐに治るからといつも笑顔で返事をしてくれる。でも、その度に私は、胸が痛くなった。今日は、昨日病院に泊まったから一日中健太の面倒を見ようと思っていたのに、朝おきたら「昨日からずっと面倒見てもらってるから」と言って健太に今日は、一日休むようにと健太に家に帰らされるはめになった。ひとりで病院から家に帰っていると、自分の目から涙が頬につたっていた。「どうして私泣いてるんだろう」独り言のように呟いた。理由は、充分に分かっていた。それは、健太がこのままいなくなってしまうような気がしたから。それに、健太が今病院にいる理由が私のせいだから。「それは、違う」健太の声を思い出す「私のせいだよ」そう叫んだ。誰もいない道でただ叫び泣き続けた。気がつくと私は、家の前まで帰っていた。人間いざとなったら意識しなくても家にたどり着くのは、本当らしい。家に着くまでの記憶が泣き出してからほとんど覚えてない。
それでも、家に入り「ただいま」誰もいない家にそうつげ、自分の部屋に入り泣き崩れた。泣いていた私は、泣きつかれてそのまま疲れがたまっていたのか寝てしまった。目が覚めたのは、一本の電話のせいだった。「プルルル・プルルル」電話の音が家に鳴り響いた。
慌てて起きた私は、電話の受話器を取り「もしもし鈴姫です」「あ・鈴姫 トワさんいらっしゃいますか」どこかで聞いたことのある喋り方だった。「鈴姫 トワは、私ですが」何故か電話を話しているうちに、話ている相手が誰か分かった。それは、病院の先生だった