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犬を愛した女

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犬を愛した女

 奇妙な夢を見た。
 マンションの一室で半裸の男女が戯れている。バスタオル姿で逃げ回っているのはA子である。パンツ一枚で犬のように追いかけているのはKのようであり、別の男のようでもある。キャキャと嬌声を上げるA子、ワンワンと吠える男、部屋はソファといい調度品といいKの部屋である。タオルを剥がれたA子がベッドに飛び込むと、ウォ~雄叫びとともに男が襲いかかった。アア~喜悦を漏らす女、男が狼さながら食らいついている。次の瞬間、二人はシーツに覆われ隠れてしまった。白いシーツの激しい動き、イイイイ!悶絶する声。登り詰めたのだろうか、悶絶と動きが止まった。しばらくしてシーツから一匹のポインターが飛び出した。??狐につままれたようなK。
 そこで目覚めた。後味の悪い夢であった。
 A子と交わった男が犬に変身する。それは何を意味するのだろう。なぜそんな夢を見たのだろう。先日、KはA子の家を探訪したのである。



 Kは緑地公園に隣接するマンションに住んでいる。
 豊かな雑木林を保存した緑地公園は近在の人々の散策や行楽で賑わい、休日はアウトドアやスポーツに興じる人も多い。木枯らしが吹き始めたある日、Kは久しぶりに公園のランニングに出かけた。遊歩道の狭まるところで、ジャージ姿の女が犬を抱えているのは見えていた。ウォークマンしていたからだろう、そのまま走りすぎようとした。その時、ワウォ!背後から襲われ足首に衝撃が走った。振り返るとポインターが牙をむき、ジャージ女が必死で首輪をつかんでいる。走ろうとしたが足首に力がはいらない。??ズボンを捲(まく)ると血が滲んでいた。
 「噛まれてますよ!」
 鉄柵にリードを括ると女が慌ててやって来た。
 「血が出てる、ズボンもやられた。ほら!」
 スイマセン!自分が噛まれたように顔をしかめた。
 「注意して下さいよ!医者に診てもらいますから、貴女の連絡先を教えて下さい。」
 「申し訳ありません。必ず電話しますから・・」
 ジャージ女はKの名前と電話番号をひかえると、自分の名前、電話番号を書いた紙切れを渡した。その女がA子であった。

 何とか帰宅したが、出血は治まっていた。噛み傷はひどくなさそうだが、足首が疼いて力が入らない。近所の外科で診てもらうと、「噛み傷は消毒すれば埋まるだろう。アキレス腱が損傷していてギブスしなければならない。2週間はかかるだろう。抗生物質と鎮痛剤を処方しておく。風呂とアルコールは禁止」とのことであった。簡易杖でギブスを引き摺りながら思わず叫んだものである。クソッ!年末のかき入れ時に2週間もかよ~
 昼間はさほどでなかったが、夜が更けるにつれズキズキ痛み出した。ギブスじゃズボンがはけない、会社に行けない。あのポインターめ!
 それにしても電話がかかってこない。すぐに連絡するといったくせに。待ちきれず女に電話したが繋がらなかった。風呂に入れず酒も飲めずイライラしていると電話が鳴った。
 「もしもしKさんですか、申し訳ありません。大丈夫でしょうか?」
 「大丈夫じゃないですよ、アキレス腱損傷でギブスしています。よりによって年末の忙しい時で困ってます。」
 「ス、スミマセン」
 「スミマセンじゃ済みませんよ。ギブスじゃ、ズボンもはけない、会社も行けない。最低2週間はかかるといわれた。治療費がいるし、生活費がいるし、どうしてくれるんですか!」
 「そ、それは何とかします。」                 
 「当然でしょう。じゃ、あのポインターはどうするんですか。これは傷害事件ですよ。子供が噛まれたら死ぬかもしれない。どうするつもりですか?!」
 「どうするって・・」
 「噛みつく犬を放置しておけないでしょうが!処分する気がないのなら警察に訴えます。」
 「ま、待って下さい。それだけは勘弁して下さい。相談に伺いますから。」
 「今、何時だと思ってるんですか、今日はもうイイ。明日にして下さい!」
 犬の件でやって来るという女に腹立たしい思いであった。

  翌朝早く、痛みが引いてまどろんでいるとチャイムが鳴った。
 寝ぼけ眼でドアを開けるとジャージ女である。髪を引っ詰め青ざめている。
 「・・心配で眠れなかったんです。」Kを心配したのかと思ったが、何のことは無い、犬のことであった。
 「ワンちゃんのこと、警察に届けないで下さい。お願いです。」
 切れ長な眼が真剣である。ギブスの足を差し出した。
 「痛むんですよ、ズボンがはけないし、会社に行けない。」
 「ワンちゃんのことは届けないで下さい、お願いします。それを頼みに来たんです。」
 それを頼みに来た?この女、何を考えているんだと腹が立った。
 「謝罪しに来たのと違いますの!ほら、この足、貴女のせいですよ!2週間もかかる大怪我なんだ。」
 「そ、そうです。私のせいです。私が悪いのです。ワンちゃんを処分したくないんです。」
 「子供だったら死んでますよ。警察に届けるのは市民の義務でしょう!」。
 出勤するサラリーマンが玄関で争う二人を見やっていく。
 「犬の心配ばかりで話にならない!頭を冷やして出直して下さい。玄関でゴタゴタして迷惑です、帰って下さい!」強引に扉を閉めようとした。
 「ま、待って下さい。」女が閉めさせまいと揉みあいになった。Kの手がジャージの胸に当たった。アッ!女がひるみ、ガシャン!Kは扉を閉めた。
 「お願い、いわないで、警察にいわないで、お願い~」扉を叩いて懇願する女の声が聞こえていた。



 会社に事情を伝え休むと申し出ると、肩の荷が降りたようで心置きなく眠り込んだ。
 どれくらい眠っただろう。目覚めると、足早な冬の日差しが傾いていた。無窮の空があかね色に染まっていく。市街地の明かりが漁り火のようにともりだした。車のテールランプが川のように流れている。
 身体が伸びやかで生き返ったようである。痛みが引いて怪我してることに気付かなかった。時間はタップリある、さて何をしようか。ボンヤリ天井を眺めていると、ピンポ~ン!チャイムが鳴った。
 宅配、集金、それともセールス?渋々扉を開けるとアレッ!毛皮を羽織った女がいる。艶(あで)やかな顔立ち、豪華な毛皮、ロングブーツ、誰だろう?あっけにとられていると口を開いた。
 「あの~ワンちゃんのことでお願いに来ました。」
 「??も、もしかして今朝の方?」
 「ご迷惑をかけているA子です。申し訳ありません。」深々と頭を下げた。
 「A、A子さんでしたね。ど、どうぞどうぞ・・」
 慌てて室内に招き入れるK。毛皮女の美しさに舞い上がっている。いわれるままソファに腰かける女。長い睫(まつ)毛(げ)、濡れた唇、ミニスカから伸びる生足が悩ましい。
 「何という艶(あで)やかさ!今朝は失礼しました。」
 女は姿勢を正して見つめた。
 「警察に届けるのはヤメテ下さい!お願いします。」
 相変わらず犬のことである。まずは謝罪しろよと思ったが我慢した。
 「余程ポインターが心配なんだ。」
作品名:犬を愛した女 作家名:カンノ