欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~
何と言うことだ! こいつには全てお見通しだったんだ。
「なぜそこまで知っていて、わざわざ今日まで見逃していたんですか?」
「誰か知らんが、ハッカーはセキュリティの穴をご丁寧にも教えてくれた。そして愛里くんとのメールだが、これは全くこちらに害はない。なぜかって? 君たちが会うためにドアが開くことは永遠に無あああい!」
俺は黙るしかなかった。
「何より一番の理由はね、君が『ADAM』だったからなんだよ。言い換えれば君はここの『キング』なんだ。君より優秀な遺伝子を持ったものなど最近まで存在しなかった。極端な言い方をすれば、A‐ブロックは『東条君のためだけのブロック』だったのだよ。他は薄すぎて使い物にならんのだ。まあ、突発的に凄いモノが生まれるかもしれないから、交配は続けなければならないけどね」
メインコンソールの椅子にふんぞり返り薄ら笑いを浮かべる。
「……突然変異の可能性のために集めたってことか」
「そう、一応ね。第一君一人だけだってんじゃ僕もここに潜り込めないからね。だいたい颯太くんのプログラムは、遺伝子で資格者を選ぶ方法じゃなかった。老若男女を平等にこの施設に入れるはずだったんだ。まさに『Noahの方舟』のように。しかし、未来のために誰が老人なんて必要としてるんだ? 病人だってしかり。そんな矛盾を僕が解決してあげたんだよね」
細面の顔に浮かぶ表情は冷たいが、眼だけは暗く傲慢に輝いている。この人は話し方も気持ち悪いが、何よりも怖い。が……。
「あなたは間違っている。みんな平等にチャンスがあるべきだ。だいいち子供はどうなるんだ! この施設に子供は居ないじゃないか!」
狂気を含んだその目を見ていると頭がおかしくなりそうで、俺は必要以上に大きい声で叫んだ。
「その質問にはすぐに答えよう。ついてきたまえ」
コツコツコツと廊下に二人の足音だけが響く。竜崎の持つマーカーの前では、全てのセキュリティが自ら望むように扉を開けていく。
最後の扉が開いて中に入った。
「ウソだろ? そんなバカな……」
身体中の力が抜け、俺はその場で膝を着いてしまった。
作品名:欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~ 作家名:かざぐるま