小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

INDEX|62ページ/96ページ|

次のページ前のページ
 

「日本国・首相官邸危機管理室』 クリスマス 十二時一分


 S・E・W(shared early warning)から警報が発令された。これは早期警戒衛星(宇宙配備赤外線システム)などがとらえた、敵対国などによるミサイル発射情報である。
「S・E・Wから入電です! 北朝鮮から発射炎を探知! ミサイルは四基と思われます」BMD統合任務部隊指揮官は、ただちに防衛大臣に連絡をする。
「なに? 二基ではないのか?」
 驚いた様子で防衛大臣が聞き直す。
「いえ、そのうち三基は日本に向かっています。着弾地点はまだ不明です」
 内閣総理大臣の承認により、防衛大臣は自衛隊法第七十六条『弾道ミサイル等に対する破壊措置命令』を発令した。
 SM‐3搭載のイージス護衛艦二隻『こんごう』および『ちょうかい』は、入電後ただちに迎撃準備に入った。アメリカからはタイコンデロガ級巡洋艦二隻と、アーレイ・バーク級駆逐艦二隻が沖縄と太平洋側の警戒を担当していた。
 弾道ミサイル迎撃には基本的に三つの方法がある。
 1‐発射直後のブースト状態の時に破壊する。
 2‐発射後大気圏外で慣性飛行している段階で破壊する。
 3‐着弾前の再突入段階で破壊する。
 今回1は実用的ではない。なぜなら発射台自体が移動するので発射地点の事前特定が困難だからだ。すでに発射されたミサイルは、現在大気圏を突破している最中であった。
 まず韓国南西の海上から二発のRIM‐161スタンダード・ミサイル(弾道弾迎撃ミサイル)が発射された。韓国に着弾予定だったムスダン?ミサイルは、弾頭切り離し前の地上450Kmの地点で破壊、粉砕された。
 弾頭の種類は不明だがこの後大気中の成分分析が行われる。もし核弾頭だったとしても、この高度ならまだ被害は少ないだろう。だが通常弾頭だった場合でも、ミサイルに使用される液体燃料は毒性が非常に強い。液体燃料がもし体に付着すると皮膚が焼け、大やけどのような状態になる。0・1ミリグラム吸い込んだだけで致死量に達する場合もある。
 一方、大気圏を突破して宇宙空間飛行に入った三発のムスダン?ミサイルは、大気圏再突入に向かって高速飛行していた。この段階の撃墜は日本海に展開するイージス艦(日本艦二隻+アメリカ艦一隻)に委ねられた。
「アメリカ空軍より入電! 着弾予想地点は、関東、関西、そして沖縄と思われます!」
「関東だと……東京を狙っているのか」
 防衛大臣はつぶやき、額に汗の玉を浮かべて総理の方を振り返った。
「日本艦、続いてアメリカ艦よりSM‐3発射しました!」
 オペレーターが大声で報告する。
 日本海の海上からそれぞれの飛翔体に各一発ずつ、同時に沖縄寄りに布陣していたアメリカ艦から二発のRIM‐161ミサイルが発射された。同時に沖縄の近海に布陣していた『あきづき』、『ひゅうが』からも発射されたと報告が入る。しかし宇宙空間に出てしまったミサイル弾頭を撃墜するのは、残念ながら現在の技術を持っても確実ではない。
 DSP衛星は高度約35000キロメートルの宇宙空間から、海上から発射された七つの光源を補足していた。迎撃ミサイル七つの光源は、音速の約六倍で宇宙空間を飛ぶ三つの飛翔体に向かって、ゆるやかな弧を描いて飛んでいく。
 宇宙空間からの視点で見てみると、映像は現実的では無くまるでテレビゲームのようだ。
「沖縄方面の飛翔体に命中! レーダーから消えました!」
 その報告を聞いた瞬間、部屋の中はほっとした空気に一瞬包まれる。
 しかし、あと二つ残っている。その一分後、二つの弾頭は大気圏に再突入を始めた。この時の速度は音速の約十倍を超える。
「ダメです! 関東方面と関西方面に向かった二発は、撃墜失敗との報告。弾頭はまだ加速しています!」
「PAC‐3の発射準備を急げ!」
 部下からの報告を聞いて、防衛大臣は声を限りに叫んだ。
 彼は緊張とストレスからか、声がかすれ始めていた。この段階で撃墜できなければ、関東と関西に直撃である。
「着弾地点が判明しました。東京都内と……エターナルです」
「エターナルだと? バカな。東京方面は発射準備完了したか?」
 この報告に総理はしまったという風に顔をしかめた。
「市ヶ谷、朝霞、習志野のPAC‐3は準備完了です。上空四十キロメートル地点到達と同時に一斉発射します」
 統合任務部隊指揮官は無線で答えた。
「福岡と三重から入電! 福岡の芦屋基地と、三重の白山分駐屯地のPAC‐3は射程距離外です。飛翔体補足不可能との事です。ミサイルはちょうど二点の中間の〈無警戒地帯〉を飛行しているため撃墜不能! 繰り返します! エターナルに向かうミサイルは撃墜不能! このコースでは島根県の上空を通り、エターナル中心部に着弾!」
 オペレーターの声が部屋に響き渡る。
「……残念だが、今は首都と、天皇陛下のおられる松代を守るのが先決だ。しかし着弾に備えるようにエターナル周辺の県に非常警報を出せ」
 防衛大臣が総理と目配せしたあと命令した。
「だが、もう間に合わないだろうな」
 総理は誰にも聞こえない様につぶやく。
 PAC‐3の防衛ラインを沖縄寄りに敷いたことが政府の失態であった。沖縄への着弾は防げたが、予想もしていなかったエターナルへの攻撃には対応できない。
「東京上空到達まであと八十秒! エターナル到達まであと四十五秒です!」
 大気圏から落下する弾頭部分は摩擦熱により発光し、地上から見るとまるで流れ星のように輝いていた。
「関東各基地よりPAC‐3全弾一斉発射したと報告がありました!」
 モニターには、光点に向かって飛ぶパトリオットミサイルが表示されている。
「エターナル上空3000メートルで弾頭が複数に分かれました! これは……信じられん。MIRVミサイルです! 弾頭速度それぞれマッハ十二以上! 高度2000……1000……発光確認! 複数弾頭は全てエターナルに到達後、爆発したと思われます!」
 十五秒ほど遅れてモニターにノイズが走る。少しして軽い振動が部屋を揺らす。
「報告! 芦屋基地より発光を確認! さらに白山分駐屯地からも確認されました。エターナルに着弾した弾頭は、91・5%の確率で『核弾頭』とのことです」
 総理は目を閉じ、ゆっくりと首を振った。
「総理! アメリカ合衆国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したという情報が届きました! 報復攻撃とみられます。この座標は――北朝鮮です!」
 別の担当官から報告が入るが、今はまずやることがある。絶対に、東京上空の弾頭を撃墜しなければならない。
 皆が息をのんで見つめる中、モニター上の光点が飛翔体と接触した。
「弾頭と接触! 一……二……三秒……発光確認! しかし、分裂した弾頭と思われる一発の進路変わりません。予想着弾地点は……東京湾上空!」
 これは仕方が無かった。PAC‐3の超高速物体への撃墜率は、実は国民に知らされているよりもずっと低いのである。
「撃ち漏らしたか。全員衝撃に備えろ!」
 総理は声を限りに叫んだ。
「再び発光を確認! 東京湾上空で炸裂、爆発しました!」
 オペレーターは悲鳴に近い声を上げる。