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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『市内マンション』 十二月七日 早朝

 
 俺は愛里のマンションのベッドで目が覚めた。
 カーテンの隙間から朝日が差し込み、窓からスズメの声が聞こえる。ふと横を見ると、くまのぬいぐるみと目が合った。一瞬ここがどこだか思い出せなかったので、昨夜のことを順番に思い出してみた。
 エターナル本部を出た後に、脱走祝いと入国祝いを兼ねて愛里と飲みに行った。太田さんが無事だったこと手伝って、ついつい飲みすぎてしまったらしい。
 何軒目かで俺が先にツブれてしまい、愛里のマンションのベッドに倒れ込んだ所で記憶は途切れていた。
「いつまでくまと見つめあってる気? 朝ごはんできたわよん」
 鍋をおたまでカンカン叩きながら、エプロンをした愛里が部屋に飛び込んできた。
「ドラマのかーちゃんか!」とツッコミたかったが、頭を振りゆっくりと起き上った。少しだけ頭痛がしたが、食欲はある。
 ベーコンと卵焼き、それに味噌汁にごはんと言うスタンダードな朝食だ。
「味噌汁美味しいよ! 味噌変えたね!」
 地下施設で食べる朝メシよりも百倍も美味しく、つい軽口が出る。
「海人に初めて作ったんだから、もとの味噌汁の味知らないくせに」
 ふわっと笑いながら答えた。地下施設にあのまま居たら、こんな幸せな朝のひとときは味わえなかったに違いない。
 昔の話に花が咲き、あっという間に時間が経ってしまった。愛里がマーカーを装着しないとならないリミットが近づいて来る。
「そろそろマーカーを装着しないと。少しチクっとするけど、最初だけだから心配するな」愛里は封筒からマーカーを取り出し、こわごわと装着する。痛みからか、一瞬びくんと身体をこわばらせた。
「吉永愛里、認識されました。ただちにWEB‐EYEを装着してください」
 しばらくしてWEB‐EYEにメールが届き、松山空港に二時間後に集合となった。

 二時間後、松山空港の指定された場所に俺たちは着いた。背の高い女性と、もう一人、あれは……美奈だ。
 彼女は俺たちが一緒にいるのを知っているような素振りだった。
「吉永愛里さんですね。お待ちしていました。これから施設へご案内致します。早速ですが『WEB‐EYE』を預からせていただきます。ここからは、外部との通信等はできませんので」
 背の高い女性が早口で説明を始める。
「それから統括本部長からの命令で、今回“手違いで施設から出てしまった”東条海人さんもご同行願います」 
 他人行儀な口調で、美奈が後を引き継いだ。
「手違い? 本当に本部長はそう言っていたのか?」
 意外な処理に、少し驚いて聞きなおした。
「ええ、そう聞きました。東条さんは吉永さんと一緒に本部長室に来てほしいと。本部長の特別命令が出ています」
「分かった。俺も彼女に聞きたいことがある」
 黒塗りの車の後部座席に乗り込んだ。この道を通るのは二回目だ。
 前の二人に気付かれないように、手を伸ばして愛里の小さな手をそっと握った。これからは別々に行動しなければならない。
 見慣れたうどん屋に到着後、早速サラに会うことになった。統括本部室に通され、しばらく待っているとフローラルの香りと共にサラが入ってくる。
「ようこそ、吉永愛里さん。社長の娘さんですって? あなたも選ばれたのね、おめでとう!」
 例の美しい微笑みを浮かべながら、椅子を二人に勧める。
「はい。昨日これが届きました。ところで、これから私はどうなるんですか?」
マーカーに目を落としながら、少し不安そうに質問した。
「あなたはB‐ブロックに収容されます。もう聞いているかもしれませんが、そこには女性しかいません。そこにいる東条君とはしばらくお別れね」
サラは意地悪そうな眼をしている。しかしその眼は他の感情も秘めていた。
「あの、私もMICの社員なので、何かお手伝いできることがあると思いますが」
「いいえ、大丈夫よ。あなたは何も心配せずに、後でB‐ブロックに向かって下さい」
「本部長! 俺はこの施設から脱走した身です。本来ならもうここに戻れないはずじゃないんですか?」
 思っていた質問を素直にぶつけてみた。
「東条さん。あなたの勇気は見上げたものだったわ。まさかあんな方法で地上に出るなんて」
 髪の毛の中に細い指を入れると、それをふわっと持ち上げた。
「やっぱり脱走はすぐにバレていたんですね。そういえば、非常口にロックがかかっていたんです。非常の際にあれでは役に立たないと思いますが」
 感情を押し殺した瞳でサラの眼を見る。ロックする権限があるのは、彼女かその上の者だけなのだ。
「おかしいわねえ。非常口に鍵なんて誰がかけたのかしら。何かのミスかもしれないから、後で調べておくわね」
 目を逸らしながら答えた。俺は直感で(この女だ)と思ったが、いまは気づかないふりをした。
「ところで、先ほどの質問にまだ答えてもらっていませんが」
「脱走したとは言え、あなたにしかできない仕事がまだ残っていると立花颯太から聞いています。今回の件はアクシデントとして処理しましたので、あなたを収容する日まではしっかりと仕事の続きをしてもらいます」
「分かりました。ひとつだけお願いがあるのですが」
「何ですか。私にできることなら、聞きますよ」
サラは白く艶めかしい足をゆっくりと組み替えた。
「愛里と颯太は幼馴染なんです。最後に少しでいいですから、俺を含め三人で話す時間をいただけませんか」
「分かったわ。では一時間だけ与えます。それが終わったら、各自決められた場所に行くように」
「ありがとうございます」

 俺達は颯太が作業している部屋へ向かった。前と違うところは、俺達の後ろに警備員が二人ついていることだ。マーカーをかざしてドアを開けると、颯太がいる部屋に入った。警備員はドアの外で待機している。
「先輩、サラから聞きましたよ。まさかここを脱出するとはって、愛里ちゃんもいるじゃん。久しぶり! 元気にしてた?」
 颯太は凄く嬉しそうだ。
「うん! 颯太も元気そうね。色々話したいことがあるけど、時間が限られちゃってるの」白い手首に嵌った、金色に光るマーカーを颯太に見せた。
「良かった! ちゃんと届い……。あ、そう言えばお母さんの件はどうなったの?」
 颯太はしまったという顔をしながら、あわてて誤魔化した。
「ちょっとまて……颯太」
 俺はこの時、ある予感が確信に変わった。
「こないだの態度がヘンだと思っていたが、そういえばおまえにマーカーが届くのが遅すぎやしないか」
 颯太はぐっと黙り込んだ。
「ひょっとしてサラと颯太じゃなくて、サラと愛里に書き換えたんじゃないのか」
「……すいません」
 そう言って肩を落とした姿は、いつもより一回り小さく見えた。
「ちょっと! 書き換えたって何よ。まさか……。このマーカーってもともとは誰かの物なの?」
 愛里の顔はこわばり、俺と颯太を交互に見ている。
「颯太。確かおまえは、“生きるか死ぬかの選択の時には、結局自分を選んじゃうんですよ”って言ってたな」
 俺は愛里に書き換えのいきさつを話した。
「マーカーを元の人に返すのー!」