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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『エターナル本部・記者会見会場』 十二月六日 午後七時


 会場は新聞社やテレビ関係のスタッフでほぼ満席であった。
 その中に東西新聞の三枝美香の顔も見える。何重ものセキュリティをくぐって会場に入った人たちの中には、海外のテレビ局のスタッフもいた。イージス艦が自衛隊から二隻も離脱するなど前代未聞の事件なので、海外諸国が注目したとしても無理はない。
 定時になり、檀上に太田がその姿をあらわす。
(やっぱりこの人、カリスマ性があるわね)と思いつつ、美香は席に着き太田の言葉を待った。
――ふと左の壁際に立っているテレビクルーを見ると、体格のいい外人カメラマンと助手がいた。大型のテレビカメラをものともせず、軽々と扱っている。美香の左には、ブロンドの髪を持った女性の外人記者が太田をまっすぐ凝視して座っていた。
「こんばんは、太田勝利です。さっそく本題に入りたいと思います。さて、みなさん既にご存知でしょうがこの度エターナルに心強い仲間が加わりました。『あきづき』と『ひゅうが』の艦長である大場喜成氏と、武本洋一氏であります」
 第一種礼装を纏った二人は、背筋をぴんと伸ばした姿勢で壇上の椅子に座ったまま頭を下げた。
「お二人には、エターナル南方の海上警備に当たって頂きます。現在、乗組員560名とその家族も正式にエターナル国民となり、快適かつ安全な生活を送っております」
 その時、妙な気配を隣から感じたのか、美香はメモをとっていた手を止めた。隣の外人記者にちらっと視線を走らせる。奇妙な事に、そのブロンドの女性はメモを取るわけでもなくどこか一点をじっと注視していた。
『太田を全く見ていない』のだ。
 彼女の視線の先を見ると、先ほどのテレビクルーに注がれている。
「……であります。そしてエターナルは」
 太田の演説は順調に続いていた。
 いつの間にか、テレビカメラがブロンドの女性のすぐ真横まで寄って来ていた。何かの合図だろうか、彼女は形のいい親指をぴっと立てた。それからはまるでスローモーションのような出来事だった。
 キャップを被った黒人カメラマンが、大型カメラの後ろのフタを開けて何かを取り出した。そのまま流れるような動作で、隣に立っている助手に銃のようなものを渡す。次に立ち上がったブロンド女性記者にもそれを素早く投げる。と、同時に!
「パパパパパパパパンッ!」
 爆竹のような乾いた炸裂音が会場じゅうに響き渡った! すぐに室内に硝煙の匂いが立ち込める。机の下に隠れた美香の近くにも薬きょうが雨のように降ってきて、カンカンと乾いた音をあげた。会場は一瞬でパニックになり、みんな机の下に隠れたり床にべったりと伏せたりしている。
「太田さああああん!!」と大きな声がしたのでそちらを見ると、身長の高い若いカップルが椅子を飛び越えながら太田に駆け寄ろうとしていた。
 とてつもない長い時間がたったように美香は感じた。そして机の下からゆっくりと襲撃者の様子を見ると……。
「オー マイ ゴッド!」
 ブロンドの女が『信じられない』という表情を浮かべたまま、拳銃を構えたままの姿勢で立ち尽くしていた。すぐに屈強な警備員たちが、部屋の全ての扉から飛び込んで来る。
 それを見て、仲間の外国人はあきらめたように首を振り銃を捨てた。きっともう反撃するだけの弾は無いのだろう。何よりも今起こった現象の事で、彼らは放心状態のようだ。
 先ほど叫んだ若いカップルが、もう少しでステージに着こうとしていた。美香もその姿を追ってステージを見ると……。
『信じられない光景』がそこにあった。
 太田は“元の体勢で檀上に立って”いた。よく見ると、口元に微笑みさえ浮かべているではないか。たださっきと違うのは、オレンジ色の光の幕がステージ全体を覆うように走っている。ちょうど開演前の薄手のカーテンのように。
 ステージの前方には、黒い弾丸が大量に飛び散っている。いったい何が起こったのだろうか。呆然とステージを見ている記者たちをよそに、武装した大勢の警備員が襲撃者たちに飛び掛かり、次々と拘束していく。
 急に力が抜けたように、美香はその場にへなへなと座り込んでしまった。
「みなさん、ご覧いただけたでしょうか。これがL・D・Fの力です。これは小型化に成功したものですが、効果は見ての通りです」
 何事もなかったかのように落ち着き払って、太田は演説を再開した。ステージに駆け寄ろうとした先ほどのカップルを頬を緩めながら手で制し、そのまま続ける。
「エターナルの国防は完璧になりつつあります。どうか戦争という最悪のカードを切りませんようにと、各方面にお伝え下さい。では時間になりましたので、これで記者会見を終わります」
 会場に一礼すると、まだ目を丸くしている艦長たちをひきつれて部屋を出て行った。

「ふう。びっくりしたよ。死ぬかと思った!」
 あっけらかんと笑いながら、太田さんは両手を大きく広げた。
 控え室には、俺と愛里、那智博士が集まっていた。
「太田さん! 俺本気で撃たれたと思いましたよ。あんな仕掛けがあるなら先に言ってくれてもよかったのに」
「そうよ! 一瞬頭が真っ白になったわよ。気づいた時は海人と一緒に駈け出してたわ」ぷうーっと頬を膨らませ、愛里は下唇を突き出している。
「驚かせてすまん。実はな、あの小型L・D・Fは試作機なんだ。まさか、す、すぐ使う事になるとは思わなかった」
 愛里のふくれっ面を見て、噴き出しそうになるのを堪えているのか肩を震わせながら彼は頭を下げた。
「太田くん。小型タイプはまだ不安定な部分もあって心配してたんじゃが、実戦でちゃんと動いて良かったよ。ほっほっほ」
 博士は朗らかに笑っている。
(この人たちは、どこかぶっ壊れているんじゃないだろうか)と思いながら俺は愛里を見た。彼女は本当に心配したのだろう。目がまだ真っ赤で鼻をグスグスとすすりあげている。
「すまん、危機感が足りなかった。危険な日常を過ごしてると、少しずつ感覚がマヒしてくるんだ。ところで、今日の襲撃事件は結果的にだが日本国に対してのいいパフォーマンスになったんじゃないかな。これでエターナルへの侵攻を、少しでも考え直してくれたらいいんだが」
 太田は胸ポケットからハンカチを取り出すと、そっと彼女に渡した。
「さてさて、わしはまた研究室に戻るから、何かあったら呼んでくれ」
 白衣をひるがえして部屋を出ようとする。
「博士、ちょっと待って下さい。できたらで構わないのですが、L・D・Fの起動リモコンの反応をもう少し速くしていただけたら助かります。さっきは本当にギリギリでしたので」
「うーん、分かった。すぐに取りかかろう」
 片手を振りながら、那智博士は部屋を出て行った。
「太田さん。これからもこんな風に狙われたら、命がいくらあっても足りませんよ。くれぐれも気をつけて下さい」
「そうよ。太田さんはもう本部から一生出ちゃダメよ!」
 愛里は子供のような事を言った。
「ありがとう。だが、俺はまだまだやることが沢山あるからな。実はさっき愛里のお父さんのから、新たな資金援助の確約がとれた。L・D・Fは改良されもっと良いものができるだろう」
「そっか、パパが来たのはそのためだったのね」