小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

INDEX|24ページ/96ページ|

次のページ前のページ
 

「今調べてるんですけど、強烈なプロテクトがかかっていて時間がかかります。ただひとつ気になるところが。これを良く見て下さい」
 A-0888-[ADAM] 
「この番号の人だけが数字じゃないんですよ。何かこれにヒントがあるんじゃないですかね」
「うーん、意味深だな。ADAM……か。B‐ブロックに[EVE]って名前があれば分かりやすいんだけどな」
 冗談っぽく言ってみた。
「B‐ブロック、侵入します」
 B-0888-[EVE]
「ビンゴ! EVEは一人だけ存在しています。しかし、名前まではわかりません」
「0888……一緒だな」
 颯太はしばらく俺と見つめあってから、ブラウザを閉じた。
「そうか。引き続き感づかれないように調べてくれ。ところで、朝から熱っぽくてどうも風邪を引いたみたいだ。明日は休むかもしれないと、サラに伝えておいてくれ」
「わかりました。お大事に」
「颯太……。いや何でもない。おまえも体に気をつけてくれ」
 俺が今夜突然ここから居なくなったら、颯太は悲しむだろうか。それとも愚かな先輩だと笑うだろうか。
 自分の部屋に戻ると、準備しておいたリュックをとりだす。リュックの中には、『携帯型酸素マスク・ロープ・命綱・ヘッドライト・飲料水・チョコレート』などが入れてある。あとは人通りの少なくなる時間まで待つだけだ。

 四時間後、俺はリュックを背負うと部屋を抜け出した。手袋をはめ黒いキャップを目深に被ると、足早にボイラー室に向かう。監視カメラには捕えられているかもしれないが、幸い誰にも見られずにボイラー室までたどり着くことができた。
 ボイラー室は居住エリアの外にあり、そこだけで体育館ぐらいの大きさがある。パスカードでドアを開けると、電子ボイスがたちまち警告する。
『ここから先は危険なので、担当技術者の指示を受けてください』
 部屋の中は蒸気のせいで蒸し暑い。ところどころに蒸気の噴き出している配管があり、このままでは危険だ。
 火傷をさけるため厚手のジャンパーを着込み、マーカーと共に送られてきたWEB‐EYEをかける。ボイラー室の見取り図が一瞬で表示され、迷わずに目指すドアにたどり着く事ができた。ドアには船の舵ぐらいの大きさの丸いハンドルがついており、力いっぱい左に回し続けてみる。
「ガコンッ!」という音と共に重いドアが開き、むっとした土の匂いを含んだ暖かい空気に包まれた。目の前には銀色の梯子が、暗闇の中に鈍い光を放っていた。 
 ここで、ネットで調べたデータをポケットから取り出して確認する。
 ドバイの世界最高の高層ビル〈ブルジュ・ハリーファ〉が160階で、高さは828メートルであることを考えると、500メートルはだいたいビル100階程度だろうか。
 フリークライマーのアラン・ロベールの〈ブルジュ・ハリーファ〉外壁登頂記録は六時間となっているが、俺はプロではないから100階登るのにはいったい何時間かかるのか想像すらできない。
 ハシゴがあるとはいえ、暗闇の中500メートルの距離を登るのは頭がおかしいと思われても仕方ないだろう。
 手に汗を滲ませながら、データの書いてあるメモ張をそっと閉じる。そしてこれから数時間の間、俺の命を握っていると思われるハシゴをじっと見つめた。
 ここは幅が三メートルぐらいしかない円錐形の空間で、その中心をハシゴが縦に貫いている形だ。もう少ししたら、この空間は強化コンクリートで塞がれてしまうらしい。
(落下したら間違いなく即死だな)と考えながら闇に霞む頭上を見上げた。上の方では魔物たちが、俺を突き落とそうと手を広げて待ち構えているように感じる。
 ゆっくりとジャンパーを脱ぎ、後ろに投げ捨てた。ヘッドランプを頭に装着し、安全ベルトを確かめてから命綱を目の前のハシゴにかける。
「さあ、ショータイムだ!」
 頬をぱちんと叩いて、一人気合いを入れる。観客のいない孤独な挑戦が今から始まるのだ。
 そして記念すべき一段目にしっかりと右足をかけた。