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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 7

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「よろしい。・・・まあ、アレクのそういう気が回らなくて不器用なところは嫌いじゃないけど、今考えていたのはそういうことじゃないんだ。・・・10年前リシエールっていう国を追われて、落ち延びて、アンの所にヘクトールと一緒に保護してもらって、アレクと再会して、たくさん仲間ができて。・・・今日、アレクと結婚した。」
「うん。」
「今、私はすごく幸せなんだ。だからこの後、どうしたらこの幸せは続くんだろうと思って。そのことを考えてた。」
 そう言ってエドは再び窓の外に視線を移す。
「・・・シャノンに聞いたんだ。人は死んだ後にどこにいくのか、皆シャノン達の所に行くのかって。そうしたら、シャノンはそうじゃないって言うんだよ。シャノン達の所に行くのは、生きている間に償いきれなかった罪を残している人間だけなんだって。」
 そう言って、エドは再び手を月にかざす。
「その他の、罪を償った人や罪のない人は、月よりも、太陽よりももっと高い世界に登っていくんだって。そう言っていた。」
「昔から、そう言われているね。」
「だとしたら、アレクのお父さんはなんで冥界への扉を開こうとしたんだろう。アレクのお母さんは咎人じゃないよね。クロエに聞いても、アリスに聞いても、レオに聞いても、すごく優しくて良い人だったんだろうなって思う。そりゃあ、少しいたずら好きだったっていう話は聞いたけど。それって、冥界に落ちる程の罪じゃないし・・・おかしいよね?」
「・・・・・・狂人の考えていることは僕には解らないよ。」
「これ。」
 エドは短く言って月にかざしていた手をアレクシスのほうへ差し出す。
「・・・今日、アレクを探している時に、道に迷っていたおじさんを案内してあげたら、そのおじさんがお礼にって言って私にくれたんだ。」
「この指輪は・・・。」
 その指輪はアレクシスにとって忘れられない、やさしかった母の指にいつも輝いていた指輪だった。
「・・・おじさんは、この指輪を息子さんの恋人に渡すつもりだったんだって。」
「会ったのか・・・?」
「私が偶然会ったのは、ただ息子さんと娘さんのことが大好きなおじさんだよ。・・・最初は、そのおじさんを試してやろうと思っていたんだ。どうせ、このおじさんは悪い人だって。そうしたら、全然そんな人じゃなかったんだよ・・・アリスやクロエが話してくれた、やさしいお父さんだったんだ・・・10年前のあの日は、あんなに恐ろしい目をしていたのに、今日はまるで別人で、あんな恐ろしい目をする人には見えなくて・・・。油断させて殺してやろう。そんなことを考えていた自分が大嫌いになるくらい、優しい目をした人だったよ・・・。」
「エド・・・」
 ポロポロと涙をこぼして泣きだしたエドをアレクシスは力いっぱい抱きしめた。
「私、もうわからないよ・・・やだよ。なんであの人がみんなの仇なの?お父様とお母様の仇なの?私・・・あの人を殺したくなんかないよ・・・。」
「・・・君は騙されているんだ。」
「そんなことない・・・あの時、あの人は、私を連れ去ることだってできたんだ。でも、そんなこと考えてもいない目で、息子と娘たちを頼むって・・・私にそう言ったんだ。あんな目でそんなことを言える人が悪い人だと思えない。」
「・・・・・・。」
「ねえ。私達はなんのために戦っているの?あの人を殺すため?・・・私は、もうあの人を殺すためになんて、戦いたくない!アレクとリュリュとジゼルと、アリスとクロエのお父さんを殺すためになんて戦いたくないよ!」
 エドの心の叫びを聞いたアレクシスはしばらく無言のままでいたが、やがて一粒の涙と一緒に、ぽつりと言葉をもらした。
「もし・・・もし、本当に父上が正気に戻っているのなら。君が父上を許してくれるというのなら。殺さずにすませることができるかもしれない。・・・君とユリウスが許してくれるなら・・・・・・僕だって本当は・・・。」
 そう言ってエドの身体を強く抱きしめるアレクシスの声には先程まであったバルタザールへの怒りや憎しみという感情が消えていた。
「・・あは・・・やっとアレクの本音が聞けた気がするよ。」
 エドはそう言ってアレクシスの背中に手を回して彼を抱きしめる。
「あの人の話になると、いつも辛そうな顔をしていたから。・・・ねえ、アレク。私はアレクの事嫌いになんてならないから、もう本当の気持ちを隠して辛い思いをするのはやめて?アレクが本当の気持ちを話してくれたら、私もクロエもアレクと一緒に、みんなにとって一番いい方法を探すから。」
「エド・・・ありがとう。これじゃ、どっちが夫なのかわからないな。」
「どっちだっていいんだよ。夫婦ってきっとお互いに助けあって、支えあっていくものなんだと思うから。」
 そう言って、エドがもう一度アレクシスを抱きしめた時、部屋のドアをノックする音が聞こえ、続いてクロエの声が聞こえた。
「・・・エド。入ってもいい?」
「あ、うん。入ってきて。」
「え?ちょっと待てクロエ。エド、ちょっと、離してくれ。」
 アレクシスはクロエが来たと知って慌ててエドの腕から抜けようとするが、エドはアレクシスの背中でガッチリと手を組んでおり、なかなか抜け出すことができない。
 そんなことをしているうちにドアを開けてクロエが入ってきた。
「・・・・・・。」
「これは、その・・・クロエ。聞いてくれ。違わないけど、違うんだ。」
「・・・別に浮気しているわけじゃないんですから。そんなに取り乱さないでください。」
 慌てて申し開きをしようとするアレクシスを見て、クロエが苦笑を浮かべる。
「これがアリスだったりしたら怒りますけど、エドは正室ですから。」
 そう言って歩いてくるクロエの手には枕が握られていた。
「それに、こういう話をすればアレクが本音を聞かせてくれるだろうって、エドに言ったのは私ですし。」
 そう言って笑うクロエの顔には幾筋かの涙のあとが残っていて、目も少し充血していた。
「クロエの作戦、大成功だね。」
「うん。私もアレクの本音が聞けて満足だわ。」
「・・・さっきのはお芝居だったってことか?」
「お芝居だけど、嘘偽りのない私の本音。それとクロエの本音も。」
 そう言ってエドはアレクシスから離れて彼の隣に座り直す。
「実はアレクに話をする前に、陛下のことで、私とエドで話をしたんです。」
 クロエも、持ってきた枕を傍らに置いて、エドとは反対側の隣に腰を下ろす。
「それでアレクはどうなんだろうっていう話になって、エドがああいうお芝居を。」
「ああっ、それだと私だけがお芝居してまでアレクの本音を聞きたかったみたいでしょ。違うからねアレク。クロエが一番聞きたがっていたんだから。」
「じゃあ、エドは僕の本音なんて聞きたくなかった?」
「・・・なんでそういう意地悪言うかな。私だって聞きたかったに決まっているでしょ。私はアレクの本音も、クロエの本音も聞きたいの。それに私の本音も知っておいてほしい。」
そう言って、エドはアレクシスの腕に抱きつくようにして身体を寄せ彼の方に頭を預けた。
「私もエドと同じ思いです。アレクはどうですか?」
 クロエもエドに倣ってアレクの方に頭を乗せた。
「・・・僕も同じだよ。」