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ジャックさんと遊ぼう!

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ジャックさんと遊ぼう!


 たまに背後が気になる時がある。
 強い雨の日や静寂が耳を叩く夜、そして――たった一人の夜。そんな時、彼らは背後にいるのだ。
 ――そう、それはまさに今、この時なのである。
「……って君か」
 毛布お化けだった。翅と触手があって六本足の黒いあいつじゃなくて良かったと心底思う。
 毛布お化け。私は便宜上こう呼んでいるが、他には布お化けだとか、簡単にお化けだとか、『ステレオタイプゴースト』でもいい。いわゆる真っ白な布を被ったお化けのことだ。あのやる気を感じないキュートなデザインのお化けのことである。
 彼の名はジャックだとか。ジャック・オー・ブランケット。ジャックの双璧に挑む夢多きジャックなのである自称している。
 ――因みにその双璧である二つのジャックがジャック・オー・ランタンとジャック・オー・フロストだという話だが、比較的話に訊くジャックさん御二方とは違いこっちのジャックさんは悲しいかな無名。そもそもこの毛布お化け、お化けの代表みたいな顔をしておきながら名前がないと来た。
 故、ジャック・オー・ブランケットとの名を周知させる為に日夜化けて出ているのだという。
「だったら君、こんなところ油売ってていいのかね?」
 まだ本気を出す時期じゃない。来月から本気出す。そうのたまって、ジャックさんは私の部屋をふよふよぷかぷかと遊泳する。……まるでダメな若者じゃないか。
「まあ、私には関係ない話だけどさ……」
 だからと言って、ジャックさんが私の部屋で日がな一日中テレビ見たりネットしたりだらだらするのはどうかと思わないでもない。電気代払え。
 ――ぼくは人間じゃないから人間の法には従わない、とジャックさん。
「ム、ムカつく……」
 何がムカつくってその割に人間生活の恩恵を受けまくりなところが腹立つ。
 まあ、猫みたいなものだと思えば我慢もできる。猫は昼の国会中継を眺めながら「こいつまた馬鹿なこと言ってるよきゃはは」なんて腹抱えて笑わないのけれども。
 最近どうもこーいうのに懐かれている気がする。多分気のせいではないのだろう。
 さて、では、そろそろ自己紹介をするとしよう。
 私はよーこ。霊感ならぬ妖感がある人間だ。
 ――自称、霊感持ちの人間は山ほどいる。本物もいれば、偽物もいる。どうあれ、彼らは幽霊を見ることができると言われている。
 私の持っている妖感は、幽霊だけではなく、妖しの類――要は妖怪も見ること、いや、認識することができる。
 普段妖怪や幽霊というのは、人が感じることができない存在だと言われている。見ることができない。よしんば見ることがあっても、それが妖怪だと気付かない。妖感を持っていない人間からすれば、そこにいないモノ、そこにいるが気にならないモノ、そこにいるが怪異として認識されないモノ、その他の何れかとして扱われるという。
 さて、自己紹介が終わったところで、今日の御話に入ろうとしよう。

 夜中、寝苦しさに目を覚ます。目を開けると、お腹の上に女の子が乗っていた。
 身体が動かない。金縛りだ。
 あー、うん。最近多いよ。疲れてるのもあるけど、我が家が幽霊・妖怪集会所と化しているのが大体の問題だろう。疲れているというか憑かれているというか。流石に心霊スポットとして我が家の写真がネットに上がっていた時はどうするべきかと思った。
「どいてくんない?」
 あ、嫌なのね。そこ、気に入ってるんだ。なんでそんなとこがお気に入りになるかなぁ。
「分かったこうしよう。プリンを買ってきてあげるから、どいてよ。目が冴えちゃってもう眠れないのよ」
 女の子の幽霊こと幽子ちゃん(仮名)はそう言うとどいてくれた。うん、素直なイイ子だ。
 幽子ちゃん(仮名)の他に、てけてけさん、メリーさん、首なしライダーのでゅら☆はんさん、そして我が家の厄介者こと居候のジャックさんがこの部屋にいる。
『――俺ね、ピアノ線張られちゃってたんだー。もー、首が跳ぶかと思ったよ』
 口がないので喋れないでゅら☆はんさん。心に直接語りかけるのは止めてくださるだろうか。
「あはは跳んでるっつーの。私なんてね、冬の鉄道ですぱっだよ、すぱっ。未だに下半身見つからないんだわー。メリーさんは?」
 足がないことを良いことにだらしなく寝っ転がってポテチを食べるてけてけさん。
「あたし? あたし最近壁の中に入っちゃったよー。いやぁ、マロール失敗した時の気分ってこんな感じなんだなぁって。他にも振り向いて貰えなくて延々後を追いまわす羽目になっちゃった」
 そして幽子ちゃん(仮名)に良いように弄ばれる呪いの人形メリーさん。
 ――和みそう。どれも血を見る感じの都市伝説なのになんで和まなあかんのだ。
 このままじゃ都市伝説系の怪談を純粋に楽しめそうになくなるのでさっさと家を出ることにする。
「やっぱ忍者は裸でしょ」
『忍者の正装だな』
「全裸でダンジョンを徘徊する忍者にシンパシー」
 いつの間にか会話がゲーム談議に変わっていた。刻一刻と会話が面白い方向に転がっている。すっげぇ混ざりたい。そして、メリーさんは何にシンパシーを感じちゃったのかな。
「ジャックさん、ついて来るんだ」
 幽霊だけに。今回はこんなネタばかりなのかよ。
 町は静まり返っていた。月も星も少なく、化けて出るには絶好の真っ暗な夜だ。
「……あいつら、自分の本分を忘れてるんじゃ」
 いや、それは御上りさんみたいにあっちこっちにせわしなく目線を向けるジャックさんも同じことか。
 だって散歩だし。毛布お化けが夜中に散歩してるだけだもん。コンビニに向けて散歩しているだけなんだもん。うらめしやもくそもあるか。
 それにしても人っ子一人いない。深夜とはいえ、まだ一時も回っていない。この時間ならまだ帰宅途中のリーマンぐらい居そうなものなのに、車一つ見かけない。かろうじて、疲れ気味の口裂け女がスーツ姿でのろのろと自転車を漕いでるところを見かけたぐらいだ。
 ジャックさんとあっちこっち寄り道する。小学校の二宮金次郎像、公園のトイレの花子さんに挨拶し、国道を爆走するターボばあちゃんに手を振る。
 まるで海の底みたいな静寂とお化けたちのサタデーナイトフィーバーが続く。
「ジャックさん。お化けって楽しい?」
 ジャックさんは頷く。
「学校も試験もないって……墓場で運動会でもなんでも開いてなよ」
 なんというかゲゲゲな気分だ。
 ジャックさんは楽しそうにふよふよと浮遊する。私はそれを目で追う。
 人間たちは生きるのに必死なのに、彼らは生きる必要がないので自由だ。多分、究極の自由を目に見える形にするならば、それは彼らのような姿なのだろう。
 生から解放され、全てのことをやる必要がなくなった彼らは、退屈紛れに人を驚かす道を選んだ。それがお化けなのだ。
 それが羨ましいのかそうでないのかは、よく分からない。まあ、どうせいつかはああなるのだ。精々生の呪縛を楽しむのもまた一興だろう。
 生きるのは苦痛だ。だけど、生き死は一方通行なのだ。もし転生論が本当であろうと、同じ肉体に戻ることはできない。だから、その苦痛すらも精いっぱい楽しむ。それが私の今できることなのだ。