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dutrucave of ×××× -Ⅱ

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キリクは歯噛みした。懐中電灯をライナーから奪ってくるのを忘れたからだ。
それに気付いたのが音楽室を出てからで、戻るより楽なため光源魔法を発動させる。
辺りが青く、淡く照らされる。
「───って、いつまで食ってんだお前は」
べし、と隣を歩くレイヴィのわき腹を叩く。
さしたるダメージもなかったようで、食べるのを止めることなく返事をした。
「あ………これおいしい。………キリク、ほしいの?」
話が噛み合っていない。
「いらん。食うのをやめられねえのかと聞いてるんだよ、オレは」
差し出された菓子を手を振って断る。レイヴィは少し残念そうな顔をして、それを口に放り込む。
「………食べるの、おいしいじゃん」
今更の返答。
この手の人が苦手なキリクは、顔をしかめながら歩き続けた。
「食」以外にほとんど無関心のレイヴィは、また無感動にものを口に放り込んで後を追う。
目指すは食堂である。規模としては校舎内で群を抜いているであろうそこは、一~六階まである階数を全てぶち抜いて作られてあり、階それぞれにカフェのようなかたちで机や椅子が無数に置かれている。
校舎の端っこにあるので音楽室からだと少し長いが、それでも10分かかるかくらいだ。
「───んぐっ」
いきなり後ろから奇怪な声が発せられる。振り向くと、レイヴィがのどを詰まらせたらしかった。
ため息をつく。
「何やってんだお前は………」
対処がよくわからないので取りあえず背中を叩く。
しばらくやっているとやっとのことで飲み込んだが、さすがに苦しかったのか涙目だった。

呼吸を元通りにし、レイヴィが調子を取り戻す。
すると、先ほどまで抱えていたお菓子類を廊下の隅に置いた。
「………?どうした?」
「…キリク。………ちょっと、急いで」
横目で見、足に付けている小さなナイフを数本引き抜く。キリクが唖然とする間に、空いた手で首根っこを掴まれた。
「え」
ぶおん。
周りの風景が通り過ぎた。レイヴィがその強靭な足で爆発的に加速したからである。
「うわあああああああッ?!」
歩いて十分以上はかかる道のりを、一分とかからずに疾走する。
やがてレイヴィが止まると、目的の食堂に着いていた。
「………っはぁ!なんなんだお前はいきなり!!」
息をついたキリクが、抗議の視線と非難を向ける。
そして同時に気づく。
レイヴィの纏う剣気───殺気と、食堂内に満ちる戦闘の気配。
「机の陰に………人が倒れてる………あっち、お願い」
言うなり、暗闇の中に突っ込んでいく。
あっち、と言われてもどこだか分からないのだが、と先程消えてしまった明かりを点けようと、集中する。
「明かりをつけるな!」


   ▲   ▽   ▲
レイヴィが気配を察知する数分前。
食堂に入ってくるのは、アヴァルタ、リアンの二人である。
「それにしても、なんでこんなだだっ広いとこで肝試しなんかしようと思ったのかしらね。やるなら旧校舎でしょ、雰囲気的にも」
「知らんが………やりたかったんじゃないのか、ここで」
リアンが示した疑問に、素っ気なく答える。
ここで探すのは"カギ"ということらしい。形状など全く聞いていないが、先のメダルのことを考えるとどうでもない場所に適当に置いてあるのだろう。
「ここを探すのかあ………面倒だし魔法使っちゃうけどいいね?」
リアンが本当に面倒くさそうに言う。面倒と言う割に楽しんでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「ああ、いいんじゃないか?」早くも探し始めようとしていたアヴァルタは、慌てて返事をする。
その返事を待つまでもなく、詠唱開始。
魔法を使ってしまうと本当に見つかる上、詠唱自体も長くないためあまり待つ必要はなかった。
やがて、探知魔法での探査が終了。「あっち」といって歩き出す。
数分後、戻ってきたリアンの手にはカギが握られていた。
「上の方にあった。よくもまあ疲れるとこに置くわね、誰が置いてるのかは知らないけど」
アヴァルタに投げて寄越し、手頃な椅子にどかりと座る。
渡されたカギを見ると、音楽室でのメダル同様、古ぼけて錆び付いたものだった。これも紋様が描かれているようだが、はっきりとは見えない。
「肝試しなんだから面倒な場所に置くのは普通なんじゃないのか?」
「そういうものなのかしら」
「さあな」
ポケットにしまう。
立ち上がろうと思ったが、リアンが動こうともしないため諦める。
「………疲れた」
「………帰るか?」
「んー………モカちゃん探すの面倒だし続ける」
「そうか」
特に会話がないまま時間が過ぎる。
ガチャン。
大部屋の隅の方から小さく聞こえた、ガラスが割れたような音。
同時に、アヴァルタが飛び起きた。
「おいリアン起きろ!」
「………んー?」
椅子の上で眠りこけていたリアンを起こす。
「あー………なにかあった?」
闇の奥、先程音がなった方向を睨みながら、
「何かいる」
懐中電灯をそちらに向ける。
光が途切れるぎりぎりの場所に、何かがいた。
真っ黒な丸い何か。
「あれって………"影"……………?」
リアンが呟く。
それは蠢いていて、光に気付いたのかこちらを向いた。といっても、のっぺりとして目の様な場所も前後が分かるような器官も存在しないので、そんな気がしただけにすぎないが。
轟音。
ものすごい音を立てて、黒いのが跳躍した。闇に紛れ軌道が見えなくなる。
拙いと思った時には、目の前に黒いのが落ちてきていた。
「………ッ!逃げろ!!」
一瞬で目の前が眩み右半身に衝撃。すぐ横の机や椅子に激突する。
「が………ッ」
肺の空気が押し出され、情けない声を出す。衝撃で朦朧とする頭を意地で動かし先程リアンが居た場所を見る。
アヴァルタが吹き飛ばされた後の一瞬で判断したのか、魔法を発動して対処しようとしていた。
だが、リアンは元々後方支援の魔法士である。故に攻撃魔法の知識は本職のそれに劣る。
「はああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
咄嗟に作り上げた魔法は、しかし黒いのを退けることはできなかった。
恐らくアヴァルタを吹き飛ばした時と同じ───それは腕のような、不格好なそれを振りかぶりリアンに叩きつける。
紙くずのように舞った。
敵対的な仕草を見せられたからか、黒いそれはリアンを追いかけ、地面に衝く寸前だった彼女にさらに激しい攻撃を仕掛ける。
やっと体が動き始めたのは黒いのが追撃を仕掛ける直前。何も考えずに掴み、投げた椅子の残骸が黒いのに当たり、再びこちらに標的が移る。
だが───あれが"影"ならば。
「く───っそが!」
点いたままだった懐中電灯を投げる。
果たして、黒いのは投げた懐中電灯を追っていった。
隙にアヴァルタはリアンのもとへ走り、あれから遠ざかろうと抱える。
どうやら殴られた瞬間には気を失っていたらしくぐったりとしていたが、注目すべきはそこではなかった。
鍛えていないため戦闘科よりももちろん弱い身体で、しかも女子である。追撃も受けたからか、傷は出血だけではない。
「手当てしきれない……!」
黒いのが居た場所と反対側、食堂入り口まで到達する。手近な場所に横たえできる限りの処置を施すが、手持ちの道具だけでは足りない。
そのとき、アヴァルタは食堂に飛び込んでくる二つを認識した。
作品名:dutrucave of ×××× -Ⅱ 作家名:湊穂