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僕達の関係

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実はさ……俺と月代は、その……婚約したんだ」
と、隆が若干気まずそうに言った。

「で、出来ちゃった結婚とかじゃ、ないんです!!」
と、隆に続いて月代さんが言った。

「ば、バカ!! 当たり前だ!! だ、誰も、そんなこと聞いてねえだろ!!
それに、結婚っていうか、婚約な!!」
そんな月代さんの言葉を、隆が慌てて訂正した。

「そうなんです……まだ婚約なんですよね。秋本先輩は、今、世界陸上の強化選手なので、
メダルを取った後で結婚するって言うんです。でも、それじゃあ、もしメダルを取れなかったら、
私と結婚してくれないってことになっちゃうじゃないですか。酷いですよね……」
と、隆の言葉を聞いて、月代さんが悲しそうに言った。すると、

「お、お前、違うっての。そ、そういうことじゃなくて、け、結婚はするに決まってんだろ!!」
そ、それに、メダルだって取るんだ。か、必ず取るんだよ!!」
隆があたふたしながら答えた。

 僕はそんな隆を見ていたら可笑しくなってきて、でも同時に嬉しくなって、

「おめでとう。良かったね、隆」
と、心から祝福をした。

「あ、ああ……ありがとう。悟」
隆も僕を見て、ちょっと照れくさそうに答えた。

 その瞬間、僕ら二人の間に高校時代の思い出が蘇って、
様々な思いが交錯し、若干の沈黙が流れてしまった。すると、

「皆、なんだか告白タイムみたいになってるんで、
私もこっそり言っちゃうけど、実はめーちゃんと私、付き合ってま……」

「ち、ちょっと、遥?! こ、こんなとこで、何言って……?!」

「ま……まじか。お前ら……」

「そそ、まじまじ。マスコミにバレないようにするのが、大変なのよね。
正直私としては、別にバレちゃっても構わないんだけど、
何故だか、めーちゃんの方がそういうことに神経質なのよぉ」

「あ、当たり前でしょ。もし、これがマスコミに知られたら大騒ぎになっちゃうじゃない。
万が一そんなことで、お店に取材にでも来られたりしたら、ホント、いい迷惑なんだから」
と、赤くなりながらめーちゃんが答えた。

 どうやら、いつのまにか気が付かないうちに、皆の状況が色々と変わってしまっていたようだ。
でも、きっとこれは、それぞれにとってベストな選択に違いないと僕は信じたかった。

                      *

 しばらく歓談した後、遥さんは写真展のスタッフとの打ち合わせが残っている為、
一足先に皆から離れることになった。

「秋本くんとツッキー、披露宴はめーちゃんのお店でやるようにね。
私も行くから。じゃあ皆、楽しんでいってね。バイバイー」
軽やかに手を振って、遥さんは小走りにその場を後にした。

「遥ったら、また勝手なこと言っちゃって、誰のお店だと思ってるのよ」
それを見ためーちゃんが、ぼやいた。

 その後、月代さんも用事がある為、帰ることになり、
それを見た冴木くんも、僕らに気を遣ったのか、同時に岐路に着いた。

「三人になっちゃったわね」

「そうだな」

「皆、忙しいんだね」

「てか、悟も桐野も、驚いたよ。特に桐野……まさか水谷と……」

「ごめん。実は高校卒業する前から……」

「え?! ま、まじかよ。全然気が付かなかったぞ!!」

「ちょっと、言い出しづらかったっていうか……」

「僕は、めーちゃんのその気持ち、ちょっと分かるかも……」

「お前らなあ……てか……まあ、俺も他人のこと言えないか。ははは」

「私ね、思ったんだ。自分に正直にならないとって。
きっと、それって、さとくんを見てたお蔭なんだと思う。
じゃなかったら、きっと周りを気にして、遥とこんな風になれなかったって思うから」

「僕は……お似合いだと思うな。めーちゃんと、遥さん。
初めて会った頃は、二人とも険悪だったけど、でも、それって二人が似てたからだと思う。
自分の気持ちに、真っ直ぐな所とか」

「そうね……っていうか、さとくんこそ、あんな人がいたなんて知らなかったよ。
かっこいい人じゃない。私は秋本よりも、さとくんにお似合いだと思うよ。冴木さんのが若いし」

「おい、待て桐野。そりゃ、どういう意味だ。
悟と同級生ってことは、俺とも同級生だろ。同い年じゃないか」

「あーあ。最後まで言わせるつもり?
まさか秋本、あんた未だに自覚が無いなんて言わないわよね?
月代さんみたいに、童顔で可愛い子が傍にいたら、余計に目立つんだから」

「う、うるせー。そ、それは、お前らが勝手に言ってるだけだろーが。
つ、月代だって、す……好きだって言ってるんだぞ。俺の顔……」

「あー、今度はのろけだした。はいはい、ごちそうさまです」

「き、桐野。お前なあ……言わせておけば……」

「ま、まあまあ。落ち着いてよ、二人とも。そういうところ、昔から全然変わらないんだから。
隆の顔のことは今に始まった訳じゃないじゃないか。僕は好きだよ、隆の顔。
きっと、月代さんは大人っぽい顔が好きなんだよ。僕らと同じ年みたいな顔は、嫌なだけなんだ」

「念の為に聞くが、悟。……それって……フォローしてくれてるのか……?」

「え……?」

「さとくん……何気に、私よりきついこと言ってるよ」

「え?? そ、そういうつもりじゃないよ。
な、なんていうか、その……隆は大人っぽいというか、ま、ませてるっていうか……あの……」

「おいおい、悟。俺らもう、24だぞ。それで、ませてるは無くないか?」

「さとくんこそ、昔から全然変わらないね。ふふふ」

「違いねえ。ぶははは」

「も、もう! からかわないでよ二人とも……あはは」

 二人にからかわれながら、いつの間にか僕も吹き出してしまい、
通行人に変な目で見られることも構わずに、僕達は三人一緒に笑いながら歩いた。

「私達って、ほんと、いつまでもこんな感じなんだね」

「ああ、そうだな。また、こうやって話そうや。悟、桐野」

「うん」

「秋本。さっき遥が言ってたけど、披露宴は本当にうちのレストランでやりなよ。
料金サービスしとくからさ」

「ああ。サンキュー、桐野」

「じゃあ。めーちゃん、隆。二人とも、またね」

 ――駅に着くと、僕達は手を振りながら、それぞれバラバラな方向に別れた。

 高校時代と違って、今は皆、自分達の居場所があり、それぞれの生活が待っている。
 それでも、僕らは変わらない。会えばいつだってあの時代に戻れる。
 それは、楽しいことも辛いことも一緒に過ごした時間があるから。
 一緒に乗り越えた気持ちがあるから。それが――僕達の関係。

 空を見上げると、雲一つ無いキャンバスのような青空がどこまでも広がっている。
 僕は、そこに一つ一つゆっくりと未来の姿を思い描いた。
 これからも続いていく未来の僕達の姿を――。

 fin
作品名:僕達の関係 作家名:maro