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僕達の関係

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 僕はその眼鏡を引ったくるように奪い返すと、
今度は遥さんの腕を掴み、そのまま引きずるようにして全速力で逃走した。
 
 ――そこから、どれくらい走ったのかは記憶に無い。

 僕はとにかく遠くまで離れようと、呼吸の限界を超えても殆ど自動的と思えるような足取りで、
遥さんを引きずりながらヨタヨタ走り続けた。

「――くん……」

「はぁはぁ……」

「――間くん……」

「はぁはぁはぁ……」

「――宮間くん……」

「はぁはぁはぁはぁ……」

「――み、宮間くん!」

 遥さんが、走り続ける僕の動きを止めるように抱きついた瞬間、
 ようやく僕は我に返った。そして遥さんの方を見ると、

「ご……ごめんなさい……もう、大丈夫だから……」
と、遥さんが掠れるような声で言った。
 それでも僕は、すぐには返事が出来なかった。まだ少し体が震えている。

「……私のせいで……こんなことに。こんなつもりじゃなかったのに。
私、本当に最低。……あの二人の言う通りだよ……」
 遥さんは、目に涙を溜めつつ僕を見ながら言った。
 それを見た僕は、ふと手の中にある眼鏡のことを思い出し、そして、

「……あの……遥さん。これを……」
 遥さんの手を取り、眼鏡を渡した。
 すると遥さんの目から、堪らえ切れないかのように涙が溢れ出した。

                      *

 ――その後、公園の方へ引き返すことは出来ない為、
僕達は少し遠回りをしながら駅へと戻った。
 
 電車に揺られながら、僕は彼女に聞いてみた。

「あの……話したくなかったらいいんだけど……
もしかして眼鏡と……付き合っていた彼には関係が……?」

 すると、少し間を置いて彼女は話し始めた。

「――うん……これ、彼に貰ったの。誕生日のプレゼントに。
デート中、私が何気なく眼鏡掛けてみたいなって言ったら鵜呑みにしちゃって。単純だよね」

「そうだったんだ……ごめん。――さっき、コンタクトにしたほうがなんて言っちゃって……」

「ううん。いいの。本当は私だって似合わないと思うもん……」

「それで……その……彼と、今は……?」

「うん……あの二人の言ってたことは半分は本当。私、振られちゃったんだ。
それが理由で喧嘩になった所を、見られちゃってたみたいで……」

「そ、そうだったんだ……」

「彼ね……海外へ引っ越すことになってたの。
だから私とはもう付き合えないって言われて……。
でも、遠くの国でも電話とかメールは出来るし、私は遠距離だって全然構わなかった。
そんなことくらいで別れるなんて考えられなかったの……」

 遥さんの今にも泣き出しそうな表情に、僕は声を掛けることが出来なくなった。

「でも彼は、私が何を言っても納得してくれなくて、そのうち学校に来なくなっちゃった。
私は何度も彼の家に行ったけど、会いたくないって言われて帰されちゃうし。
……結局、誰にも何も告げないまま、彼は引越して行っちゃったの」

 その言葉を聞いて、僕の中でさっきの女子達が言っていたことに対する違和感が解けた。
 やっぱり、嫌がらせをしたせいで彼が学校へ来なくなったとか、そんなことではなかったんだ。

「でも……それからしばらくして郵便が届いたの……私の誕生日に……」

「……も、もしかして、それ……」

「うん。それがこの眼鏡。彼の手紙には、デートで一回だけ行ったお店のことが書いてあって、
そこで私が、可愛い眼鏡を見つけて掛けてみたいって言ったことを覚えていたんだって。
――でも実はね。その眼鏡ってブランド物で凄く高かったから、
彼は近所の安い眼鏡屋さんで似てると思う物を探したらしいのよ。
だから正直に言って、本当はあんまり似てないの。可笑しいでしょ?」

「い、いや、そんな……」

「でね。そこには彼の手紙の他に、もう一通手紙が入ってたの……彼のお母さんの手紙が。
それに引っ越した理由が書いてあって、彼は私には家の仕事の都合って説明していたけど、
本当は病気になってしまって……海外の病院へ入院することなったらしいの。
だから、家族も一緒に着いていくことになったんだって。
それで……もし自分が治らなかったら、眼鏡と手紙を私の誕生日に送って欲しいって家族に頼んでいたらしいの。
彼は、この眼鏡を掛けてる私の笑顔が見たかったんだって。
でもさ――それなら……もっと早く渡してくれてたらよかったのに。
……そしたら……笑顔なんていくらでも見せてあげられたのに。
……彼手紙の最後に、自分のことは早く忘れて、好きな人見つけてくれなんて書いてたんだよ。
私悲しくて……それに、どれだけ自分勝手なの? って思って……そしたら、凄く悔しくなった……」

「……そ、そんなことが……」

「だから私、その時に思ったの。じゃあ、彼の言う通りにしてやろうって。
この眼鏡掛けて、笑顔で好きな人も見つけてやろうじゃないってね。
それで、悲しくても無理矢理に笑おうって思ったら、前に彼が好きだったアイドルのことを思い出して、
その娘のことを彼が不思議ちゃんで面白いねって言ってたから、それの真似をし始めたの。
……今思えば、殆どヤケになってたんだけどね……」

 ――遥さんの奇抜な行動や話し方にそんな理由があったなんて、僕は想像もしていなかった。

                      *

「――あ、あの……だけど、遥さんは――どうして僕に彼氏のフリなんて? ……ま、まさか、本当に僕を……」

「……初めて宮間くんを見た時にね、ちょっと似てるって思ったんだ。……彼に。
だから、宮間くんに話しかけてみたかったの。――だけど、私は不思議ちゃんってことになってるし、
こんな感じで友達も居ないから、普通に話しかけづらくって……。
そんな時に宮間くんと秋本くんが抱き合ってるのを見掛けて、つい……」

「――そ、そうだったんだ。……け、けど、授業中によく撮影出来たね……」

「私、不思議ちゃんって思われてるから、それをいいことに気分が落ち込むと、
授業に出ないで外へ写真を撮りに行ってたんだ。
先生も生徒も、あいつは仕方ないみたいな感じで、大体スルーしてるし。
それに、写真を撮っていると、デートで彼の写真を写していた時のことを思い出せたから……」

「……そうだったんだ」

「……それとね。宮間くんのことが気になったのは、もう一つ理由があって……」

「も、もう一つ?」

「私はもう、彼に会えないから……好きな気持ちはどこにも届かないけど……でも――宮間くんなら、
私と立場は違うけど……もしかしたら、私の気持ちを分かってくれるような気がして……」

「……ぼ、僕の気持ちも……届くことがないから……かな……」

「……ご、ごめんね。……でも、それって……やっぱり勝手な思い込みだったよね。
私は結局寂しかっただけで……自分の寂しさの憂さ晴らしに、宮間くんを利用してたんだと……思う。
――だ、だけどね……宮間くんはきっと、私より希望はあると思うの。
だって……宮間くんの好きな人は生きているんだから」

「……う、うん」
作品名:僕達の関係 作家名:maro