小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕達の関係

INDEX|1ページ/44ページ|

次のページ
 
 僕は『私立芙彈(ふだん)高校』へ通う高校二年生。名前は『宮間悟』(みやまさとる)

 学校の女の子達には、何故だか人気があるみたいで、
これまで、何度も告白をされたことがあるけれど、その度に、丁寧にお断りしている。

 僕個人は、これといって特徴もない地味な高校生だと、自分ではそう思っている。
 ――但し、一つのことを除いては。

「さとくん、おはよー」

 振り向くとそこに、幼馴染の女の子『桐野彩芽』(きりのあやめ)がいた。

「めーちゃん、おはよ」
 彼女は僕のことを、悟(さとる)の『さ』から『さとくん』と呼ぶ。
 僕も同じように彩芽(あやめ)の『め』から『めーちゃん』と呼んでいる。

「聞いたよ。また下駄箱にラブレター入ってたんだって?
本当に昔からモテるよね。さとくんは」

「モテるって言われても、ピンと来ないよ。
好きな人以外には、恋愛感情なんて湧かないんだから」

「ということは、さとくん好きな人いるんだ?
 さとくんなら、その子に告白したらOKしてもらえるんじゃない?」

「そ、そんな簡単じゃないよ。だって……」

「だって、何? アタシなら話聞くけど?
 幼稚園からの仲じゃない。遠慮しないで相談してよ」

「い、いや、いいよ別に。そんなに悩んでいるってことじゃないから……」

「ふうん。つまんないの」

 こういう時のめーちゃんは苦手だ。
 付き合いが長いから、僕のちょっとした態度や表情だけで、
心が読まれてしまいそうな気がして、緊張する。

「おう、悟! 今日も桐野と二人一緒か? お熱いねえ、まったく!」

「あ、隆……おはよう……」
 突然、真後ろから大きな声がしたので、驚いてビクッと震えながらも、
声の主が誰なのか分かったので、僕はぎこちなく挨拶を返した。

「うるさいわねー。声がデカいのよ、秋本は!
 あんたと違って、さとくんは繊細なんだから、朝っぱらから大声で呼ばないでよ」

「言っとくけどな、桐野。俺はお前達を応援してるんだぜ?
幼馴染同士ってのは、意識しすぎて素直になれないもんだろうからな」

「何決めつけてるの? 余計なお世話よ。誰も頼んでないでしょ!」

「なんだよ。悟だって、キッカケが欲しいに決まってるんだよ。なぁ、悟??」

「え……あ、僕はその……えっと」

 彼の名前は『秋本隆』(あきもとたかし)
中学からの同級生で、同じクラスの男子。
 めーちゃんとは、いつも馬が合わなくて、毎朝のやり取りはお約束だ。

「はっきりしねえなあ。そんなんじゃ、また勘違いされて、
好きでもねえ女子に告白されちまうぜ?」

「ちょっと、もういいでしょ! さとくん困ってるじゃん! さっさと行きなさいよ!」

「おー、怖っ! 悟、行こうぜ!」
 不意に隆が僕の手を握った。

「あっ……!」
 そのまま昇降口まで、引きずられるように引っ張られていく。

「ち、ちょっと、行くのはアンタだけでしょ! なんで、さとくんを巻き添えにするのよ!」

「はっはっは、悔しかったら奪い返してみろ!
お前の愛しの王子様をな! 勇ましいお姫様!」

「こ、このー! 待ちなさい!」

 二人のいつものやり取りに巻き込まれ、下駄箱の前まで来た僕は、上履きに履き替えようとする。
 だけど今日は、上履きを持つ手が微かに震えてしまう。
 ――強く握られたから……。

「ん? どうした悟? なんか顔が真っ赤だぜ?
 俺、ちょっと強く引っ張り過ぎたかな?」

「え!? いや、な、なんでもないよ。大丈夫だから……」

 僕は誤魔化すように、さっさと上履きに履き替えると、急いで教室へ向かって歩いた。

                      *

 ”さとくん”の幼馴染”めーちゃん”こと――私『桐野彩芽』は、
最近のさとくんの挙動に、妙な違和感というか、何かを隠しているような気配を感じている。

 さとくんと私の出会いは、幼稚園の時だった。
同じ”さくら組”にいた”さとくん”は、大人しくて、でもとても綺麗な顔立ちをしていて、
今と同じように、女の子にモテモテだった。

 だけどそのことが、同じ組の男の子達には面白くなかったようで、
何かにつけて、さとくんをからかったり、ちょっかいを出すようになっていった。

 ある日さとくんが、クレヨンでお絵描きをしていると、
例のごとく、同じ組の男の子が、ちょっかいを出し始めた。

「さとるー、何描いてるんだよ。それ女の子の絵だろ?」

「え……? ちがうよ。これは……あの……」

「おーい、みんな、さとるが女の子の絵描いてるぞー」

 その掛け声を聞いて、他の男の子達も集まってきた。

「ほんとだ。好きな子の絵だろー。おまえ誰が好きなんだよー」

「す、好きな子じゃないよ……」

「おまえモテるから、調子のってるんだろー?」

「ちがう……っあ!」

 さとくんの絵を、男の子が横から掻っさらった。

「か、返して……」

「やーい。みんな見ろよ。これがさとるの好きな子なんだってー」

 それを聞いた女の子達は、その絵が自分の顔だと主張し始めた。

「さとるくんが好きなのは、私なんだよー。だからそれは私の顔ー」

「違うよー。私のが、先にさとるくんに告白したもん。私の顔だもん」

 これをきっかけにして、部屋中の園児が入り乱れ、大騒ぎになってしまっている。
 その中で、さとくんは何も言えなくなってしまい、俯いたまま泣くのを必死で堪えていた。

「さとるー、はっきりしろよー。誰が好きなんだよー。おまえのせいだぞー」

 絵を奪った男の子が、それを頭上に高く掲げて大声で叫んだ。

「誰だか言えよー。言わないと、これ破いちゃうぞ」
 男の子はそう言いながら、絵の両端を持って引っ張り始めた。

「……っあ、や、やめて……!」
 さとくんが涙混じりの、掠れた声を上げる。

「言わないから、破いちゃおー」
 そう言って、男の子が手に力を込めた時だった。

「パシッ」

 男の子は、一瞬自分に何が起きたのか分からなかったが、次の瞬間、
「う……うえ……うえええ、うえええええん……うえええええん!!」
火がついたように泣き始めた。

 見ると、男の子の左の頬が少し赤くなっていて、目の前に一人の女の子がいる。
その女の子は、泣き始めた男の子の手から絵を強引に奪い取ると、
「あんたたち、いい加減にしなさいよ!」
大声で言うと同時に、さとくんのいる場所まで進み、
「これ、お母さんの絵なんだよね? はい」
と、優しく返してあげた。

「あ、ありがとう」
 さとくんは、涙目になりながらも、嬉しそうに笑顔でお礼を言った。

「べ、別にいいよ。だって悪いのは絵を取った方だもん……」
 彼の綺麗な笑顔を見た女の子は、ちょっとドギマギしながら答えた。

「私は”あやめ”っていうの。友達は”めーちゃん”って呼ぶんだ。
あの……さとるくんのこと、今日から”さとくん”って呼んでもいい?」
 なんだか分からないが、とにかく仲良くなりたくて、女の子はそんなことを言った。

「うん。よろしくね。”めーちゃん”」
 さとくんは素直に頷いて、女の子のあだ名を呼んだ。

 そう。その女の子とは、私のことなのだ。
作品名:僕達の関係 作家名:maro