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雪、降ったね。

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「寒っ」
寒さに窄めた肩に重いバッグの紐が食い込んだ。
此処でゆったりしているよりも 東門でバッグを下ろし待っているほうが ましに思い足を急がせた。

東門で待っていると 約束どおりの時間で美香子が現れた。
「おや、居る 居る」
「そういうときは『おまたせぇ』とか言うだろう」
「だって 二十分後って言ったもん。待たせてないでしょ。じゃあ、その本持ってあげる」
「いいって。っていうか何?」
「ん? 一緒に帰ろうってだけだよ」
よくわからないまま 僕は美香子と歩き始めた。ほとんどが正門から帰ったのか、時間がずれたのか 生徒は疎らにいるくらいだった。

「もうすぐ 雪降るよ」
「はぁ?」
「ゆぅき。ねえ本当に雪が降ってきたら クリスマスイブに会いたい」
僕は、バッグに詰めた言葉とは違ったけれど 同様な言葉にふっと笑った。
「はい。笑ったから OKってことね」
「何勝手に決めてるんだよ。降るったって いつ降るんだ?」
「十二分後。バス停でバスを待っているとき」
「外れたら ドーナツおごれ。オレジュー付き」
「いいよ。外れなくても 会ったときに食べようね」
僕は、美香子の自信に押され気味だった。どっから来るんだ…この自信はと。

そして、今日はクリスマス・イブ。
今 僕は駅前の電飾が付けられたクリスマスツリーの前で美香子を待っている。
あと… あと… あと二分。
僕は、駅前の時計とクリスマスツリーを交互に眺める。
カチカチカチ。長針が真上に上った。途端に まわりが色づくように明るくなった。
時間通りに クリスマスツリーが点灯した。
「はい」
僕の目の前に ストローが刺さった紙カップが差し出された。
「おう」
「おはよ、じゃないよ。メリークリスマス」
「は? おう、メリークリスマス」
美香子は、何だか分からないけど くすくすと笑った。それを見て僕も何だか笑えてきた。
「ドーナツ食べる? 普通でいいのに クリスマスツリーのピックが刺さってるの」
はい。と僕に渡した半分チョコレートが掛かっているドーナツ。
美香子は知っているのだろうか? 僕が気に入っているドーナツだということを……。
ただ 微笑んで僕の横に居る美香子に 何か声を掛けよう。いや、もしそれを言って「うそぉ」とでも笑われたらどうしよう。たぶん きっと 美香子ならそんなことないかな。

「おう、あのな…」

「いいよ。わかるもん」

美香子の瞳に見上げるクリスマスツリーが映っている。何となく僕はそれを見つめていた。
すると 僕と美香子の間に ちらりほらりと白い雪が降りてきた。
「お、雪」
何でも 何となくわかっている美香子の不思議さを 僕はもっと見ていたい気がした。
ただなんとなく……。 

「うん 私も。嬉しいよ」


     ― 了 ―
作品名:雪、降ったね。 作家名:甜茶