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記憶の冥き淵より

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そんなふうにして、母が私を虐待し、兄がこっそり庇ってくれるという生活を、家族3人で続けていた。私にとっては、いつ果てるとも知れない地獄とも思える生活だった。兄だけが唯一の頼みの綱であり、生きる希望だった
けれど不思議なことに、いつの間にか兄がいなくなっていた。
いついなくなったのか、まったく覚えていない。小学校低学年の頃だったと思うけれど、本当に、気が付いたら、兄がいなくなっていた。
私にとって唯一の希望であったにも拘らず、自分自身の記憶の曖昧さがなんとも不思議ではあるのだが、当時の私は母の度重なる虐待のせいで、精神が壊れかけていたのかも知れない。
兄がいなくなったことに対して、母が何も言わないから、私も母に尋ねたりしなかった。それに、へたなことを言うと、また母に暴力を振るわれるから。
母の虐待から守ってくれる兄がいなくなり、私は怯えた。しかし、事態は私にとってむしろ良い方向に変わって行った。
その頃から、徐々に母の虐待が治まっていったのだ。
仲の良かった兄がいなくなり、母とたった二人きりの家族になってしまって、寂しかったけれど、母から虐待されなくなって、私は心底ほっとした。この生活を続けるためには、兄のことは忘れなきゃいけないんだと、思っていた。

作品名:記憶の冥き淵より 作家名:sirius2014