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記憶の冥き淵より

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全てを思い出した私は、母のノートを目の前にして、茫然と佇んだ。
このノートをどうするべきか。このまま捨てるか、それともデスクの抽斗の奥深くに仕舞い込んで、私が死んだら棺桶に入れてもらうか。
私は日が落ちて書斎の中が暗くなっているのも気付かずに悩み続けた。
暗くなった書斎のどこからか、兄の震えるか細い声が聴こえた気がした。
私はデスクに両肘をついて、両手で耳を塞いだ。
しかし、私には分かっていた。
その声は、私の頭の中から聴こえて来る声であることを。
私の記憶の中の一番冥いところで、ぼろぼろのシャツを着て膝を抱えて蹲った兄が、自分の運命を呪いながら発する消えそうな声であることを。
そして、既に私がその声に応える術を失っていることを。

作品名:記憶の冥き淵より 作家名:sirius2014