夜、汽車に乗って
夜とも無く、昼とも無く、明るい様な、暗い様な、そんな曖昧さが照る。表面の荒い石造りの門構え。枝を張った松の下を潜り、子供の頃よく覗き込んだ小さな池のあるこじんまり庭を横目に、玄関の遣り戸口をカラカラと開ける。靴を脱いで少し高い敷居を登り、見知った廊下に立つ。つるつるとした床板、幹を丸ごと磨いた柱、斜めに架かった天井板。ぼくは祖父の家に居る。手前の引戸を開ければ昔から変わらないダイニングキッチンがある。右に入れば仏間が、左に廊下を進めば左手に居間が、奥には祖父母の床の間がある。
ぼくはハーモニカを手にしている。不慣れな手つきでそれを扱い、調子っぱずれの音を出す。少し練習しないといけない。しかし、奏でる曲は何が良いだろう。まだ何も思い当たらない。ただ、陽気で優しい曲が良い。