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G線上のアリア

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 数日ぶりに雨が降る。雨は地面を強く叩き、まるでドラムロールの大合唱のようだった。
 雨天が開けると、今までの蒸し暑さが嘘のような冷え込みを見せる。吐息は白く濁り、町にはマフラーと手袋が溢れた。
 朝の冷え込みは昼に続く。やがて一日中冷え込み続け、そして冬が来たことに、俺たちは気付くのだ。
 アリアは姿を消した。アレなのだから、冬には姿を消すのだ。
 付けっぱなしのデスクトップパソコンの駆動音以外に、この部屋に音はない。
 いなくなると寂しさを感じる、なんて情緒的な感情は何処かに押しやる。それは凄く悔しいことだからだ。
 アレはスカベンジャーという区分の生き物である。生き物には生産者、消費者、分解者に分類される。生産者は太陽光、水などのエネルギーを消費し、リソースを生み出す。消費者はそのリソースを食いつぶして廃棄物を生み出し、分解者はその廃棄物――分解者にとってのリソースをリサイクルして生産者のリソースを生み出す。
 世界は繋がっている。この世に役目のない生き物はいないのだ。なんの役にも立たないと思われる蚊であっても、その捕食者からしたら必要な存在である。
 アレが分解したモノが、何らかの形で俺たち人間の役に立つ。
 だったら人間はどうなのだろうか? 我々人間は、他の生き物を利用するだけ利用して、それを還元しようとしているのだろうか?
 ――考えても仕方がない。こればかりは、生き物というシステム自体に大きな疑問を呈する問題なのだから。
 例えば、一部の鯨は行き過ぎた保護の結果、大量の小魚を消費して生態系に打撃を与えているという。無論これは人間の業の結果だが、鯨たちには関係ない。鯨たちは『食べたい』、『生きたい』、『増えたい』というのは生き物の基本行動原理に従って生きているだけなのだ。これに触る問題など、『生きる』というプロセスを否定することに繋がりかねないのだ。
 だから、考えても仕方がない。結局、我々人間は尻についた火が全身に回るまでその大事なことに気付けないままなのだ。
「だからって、あいつらと共存するのはまっぴらごめんだけどな」
 いや、うん。どうあがいても受け入れられないモノもあるのです。

 そして平和な冬を越え、また春が来る。
 まだ肌寒いが、空気が緩み、桜が少しずつ花開いて行く。
 桜の花を目にしながら、俺は自宅へと一歩一歩進んでゆく。
 季節は巡る。世界は回る。そして我々生き物は生きる。色々なモノを消費し、生み出し、我々生き物はこれからも生きて行くのだ。
 俺は自宅のドアノブを握る。
 ――そう言えば、嫌な噂を聞いたのだ。
 ある日、デスクトップパソコンの調子が悪いと思ったユーザーが、パソコンのカバーを開けた。
 すると、そこは――アレのコロニーになっていたという。
 最近はその家電の廃熱を利用するものが現れ始めたとかなんとか。
「あ、家主さん。お久しぶりです」
「越冬してやがったぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
 そう、うちみたいに。
作品名:G線上のアリア 作家名:最中の中