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スーパーカミオ患者様

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例のごとく人権派弁護士による集団訴訟が全国で同時多発的に起こったが、もともとこれは人権派弁護士が個人情報を過剰に保護しようとしたことに端を発したということもあり、「誰が誰だがわからず、税金や公共料金の踏み倒しが横行し、空き巣や強盗の被害にあうのは当たり前、凶悪犯罪者の検挙率もほとんどゼロ」という現実に危機感を覚えていた国民には、彼らの主張には受け入れられなかった。かつては過剰な個人情報保護の風潮をあおったサヨク系新聞各社は、自分たちの報道責任が追及されることを恐れてあまり声高に非難することもできず、結果的にこのIDチップ埋め込みは実現することになった。

ここまで国家に管理されるということには、私自身も違和感というか抵抗があったが、これによって社会が安全になったのも事実であった。たとえば、GPSを使って行方不明者や犯罪容疑者の捜索が容易になったり、ストーカー行為を監視しやすくなったり、テロ事件や放火事件の現場に居合わせた人物の特定が容易になるなど、犯罪捜査を中心に大きな成果を上げた。IDチップの分散からバラバラ殺人が発覚し、犯人が死体損壊の現行犯で逮捕されたケースもあった。

医療現場でもこのIDチップが利用され、カルテは全国で統一されることになった。IDチップ・指紋・声紋による認証と全国共通の電子カルテによって、医師は過去の検査データも含む患者のすべての医療情報を瞬時に把握できるようになったのだ。

かねてから医療費無駄遣いと問題視されていたドクターショッピングも、このシステムによって同じ病気でいくつもの医療機関を自由に受診している患者を厚労省が把握できるようになったため、減らすことに成功した。もっとも、厚労省のやり方は、ドクターショッピングを許した医療機関に対して罰則を与えるというものであり、医療機関が患者から恨まれることはあっても、自分たち官僚には国民の非難が及ばないという、いつも通りの狡猾な手口を用いたことは言うまでもない。

その一方で、個人情報がそこまで管理されることへの国民の不満と不信は日に日に強まっていった。民自党の大物幹部が、野党議員やサヨク系活動家の動きをGPSで追跡していた事実がマスコミに報道されると、その情報をリークした政務官は処刑されたが、結局これが命取りとなって民自党政権は崩壊した。平成38年のことだ。

代わりに政権を取ったのが、サヨク系の2大政党が合併してできた共民党政権だった。「国民皆平等」「個人識別法撤廃」を唱えて急速に支持を伸ばしつつあった共民党は、この騒動を契機に政権を握ったものの、通名の使用が国民の権利として定着してしまっている現状では、これを反故にすることはできず、結局は個人識別法に基づく本名制度とIDチップによる個人識別制度は維持された。そもそもマイナンバー制度にしても、共民党の前身が創設したものであった。

その対応への批判をかわすため、共民党は「国民皆平等社会」のための法案を次々と成立させていった。その中でも人権団体から絶賛されたのが、平成39年の「国民報酬平等法」だった。一般職の公務員のみならず、自治体病院の医師はもちろんのこと、独立行政法人・認可法人・社会医療法人など公益性の高い法人が運営する病院の医師なども含めて、公益性の高い職場で働くすべての人間に対して、医師・看護師・技師・事務職員などの区別なく、年齢や労働時間や業務内容に関係なく、その報酬をすべて生活保護と同額にするという法律である。

さらに報酬カットによる公務員の勤労意欲低下を食い止め、民間企業への優秀な人材の流出を防ぐという名目で、一般企業の法人税をこれまでの3倍に引き上げた。これにより、企業は従業員の給料を公務員並みに引き下げねばならなくなった。社会主義者たちの念願がついに実現したのだ。

これによって、不眠不休で働く医師も、夕方まで医局でテレビを見ているだけの医師も、過労死寸前の看護師も、おやつ休憩と井戸端会議ばかりの中年看護師も、自治体から天下りの事務職員も、引きこもりの若者も、寝たきりや認知症の高齢者も、かつては生活保護者と呼ばれた人々も、お犬様もおキャット様も、国民全員が毎月平等に18万円(注;この数年後に日本を襲ったハイパーインフレで50万円に増額)の報酬をもらえることになった。

共民党が総選挙で「なくす」と公約していた3つの「諸悪の根源」の1つである「格差」は、こうして公約通りに消滅した。一部の特権階級を除いては・・・。

残りの2つの「諸悪の根源」である「戦争」と「差別」に関して、共民党はこの2つの言葉の使用を禁止した。つまり、戦闘と差別という言葉はすべての辞書や書籍から削除され、ネット上でも会話上でも使用することが禁止された。こうして共民党が目指した「戦争と差別と格差のない社会」が実現したのだ。このサヨク的手法に対して、サヨクや左寄りのマスコミからは称賛の声が上がった。共民党の支持率は、一時期80%を超えるに至った。

とはいえ、このような手法は前政権の民自党政権の時代にも使われていた。「海外メディアに誤解を与え、海外からの観光客の誘致に致命的な打撃を与えている」という理由から、民自党政権は東日本大震災のすべての遺構を解体させた。同様の理由から原発事故の報道も規制された。こうして被災地からは一切の傷跡が消えた。

当時の民自党の矢部首相は、「みなさん、安心してください。日本の科学技術は世界一なんです」「あの頃とは違うんです。現代の日本において、あのような大惨事は決して起こりません」「私たち日本人は、地震や津波の脅威に勝ったのです」「原発の除染も完璧です。放射能や津波におびえることなく、安心して沿岸部で生活してください」「もう大丈夫です。何も心配はいりません」と派手なキャンペーンを繰り返した。福島原発の周辺や沿岸部で暮らすだけで、国からの莫大な補助金がもらえるようになった。生活保護費とその補助金を合わせると、一日中パチンコをしても困らない金額がもらえるからなのか、被災地はパチンコ屋が乱立する異様な光景となった。

さらには、世界中からニートや移民難民がフクシマに移住するようになった。今ではペルシャ語・アラビア語・トルコ語・ロシア語・韓国語などを話す人々がそれぞれにコロニーを形成し、公用語も宗教施設も母国のものに変更し、事実上の独立国家をなしている。あえて独立しないのは、日本からの補助金を得るためであろうと言われている。先住民族、すなわち沿岸部に残ったかつての被災者たちは、今では東北地方の少数民族として彼らから迫害を受けることさえある。

一方で、国会議員や官僚とその家族は、決してそのような地域に立ち寄ることはなくなった。震災後内陸部に移住した被災者たちは、ハシゴを外されて国から見捨てられた格好となり、今なお自殺するものが後を絶たないという。

さて、平成39年の「国民報酬平等法」施行後、共民党にとって「想定外」の事態が起こる。
作品名:スーパーカミオ患者様 作家名:真田信玄