学校外恋愛。
「え…」
後ろを向くと、少し息を切らしている男子生徒が私に手を伸ばしている。
その手には、私の鞄に付いているはずの大好きなアニメのキャラクターのストラップが握られていた。
「あ…すみません、ありがとうございます」
ストラップが鞄から落ちた事にも気付けなかったくらいボーッとしていたのか、と自分にうんざりしつつ、ストラップを受け取った。
「渡せて良かった、落ちたのに気付かずに歩いて行っちゃうから、慌てて追い掛けたんですよ」
にっこりと微笑む彼に、私の心臓の鼓動が少しだけ跳ねた。
「本当に…ありがとうございました」
小さく頭を下げて、小声でお礼を言うと、彼はさらに笑顔になって、
「それじゃあ」
と、私を追い越し、改札へと消えて行った。
それから私は、親からの電話が掛かってくるまでの数分間、その場に立ち尽くしていた。
結局、タクシーに乗って帰ることになったけど、家に着くまで車内で星を眺めながら、彼のあの笑顔を頭にずっと思い浮かべていたのだった。
「それ絶対恋だよ、恋!」
「いやいや…そんなすぐ恋に落ちたりしないでしょ」
「陽夏さーん、この世には一目惚れって言葉があるんですよ?」
「でも…顔はっきり覚えてないよ」
「何それ!?何で!?」
「あの時の私は、絶望の淵に立たされてたから」
「顔が分からないのはマイナスだなぁ…また会った時にお礼言えないよ?」
「うーん…どうしよ舞由…」
「それは自分で考えるっ!絶望の淵だったって事は、その彼にちゃんとお礼言えてないんでしょ!?」
翌日。登校してから、あの出来事を舞由に話すと、朝礼開始のチャイムが鳴るまで質問攻めにされた私。
そのせいか、朝礼の間も私の脳内は彼の事で一杯だった。