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世田谷東署おちこぼれ事件簿1-2

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「バイトは補助ですから荷物を運んだりする作業だけやらせてます。そうだろ」
 社長は社員の一人に確かめた。
「はい」
「それじゃバイトが棺の蓋を開けるなんて事はないですかね」
「えッ、えぇ・・・」
「どうかしましたか」
 山本刑事は社員が口ごもったのを見逃さなかった。
「一度だけ・・・火葬場への出棺時間が迫って時間がおしていたのでバイトの川合くんに棺に釘を打つ前に棺の中に余計な物が入ってないか確かめる様に指示しました。申し訳ありません」
「その時、何か入ってたとか」
「入っていたら取り出して報告する様に言いましたが、後で確かめたら何も入ってなかったと言いましたので」
 山本刑事は純平を見た。純平は山本刑事の目がキラッと光った様な気がした。
「川合清一の住まいは分かりますか」
 最後の最後に犯人が浮かび上がってきた。
 下北沢から川合清一のアパートのある宮の坂まで、大通りをさけて空いている裏道を使い急いだ。

「部屋にいるな」
 二人は世田谷線宮の坂駅近くにある川合清一のアパートに到着した。川合清一の部屋に灯りがついていて、テレビの音も漏れていた。山本刑事は川合清一はアパート二階の部屋にいると確信した。
「よし、お前は念のためアパートの裏に回れ。五分後に踏み込むからな待機していろ」
「はいわかりました」
 純平は静かにアパートの裏に移動して待った。

 山本刑事は川合清一の部屋のブザーを押した。
「川合さんピザの宅配でーす、川合さんー」
 山本刑事は部屋のドアをノックした。
「何だよ何も頼んでねーぞ」
 ドアの向こうから近づいて来る声がした。
「ピザなんか知らねーぞ」
 ドアが開いて川合清一が顔を出した。
「川合清一さんですね警察ですが、ちょっとお話をうかがいたいのですが」
「警察・・・何も知らねよ」
 川合清一はドアを閉めようとした。
「ドアを開けろ!」
 山本刑事は強引にドアを開けようとしたがチェーンが掛かったままだったので開けられない。山本刑事が手間取っている間に、川合清一は裏の窓から逃げようと部屋の奥に慌てて移動した。
「裏から逃げるぞ!」
 山本刑事は急いでアパートの裏に走った。
 アパートの部屋の窓が突然開いた。純平が見上げたその瞬間、待機していた純平のすぐ横に人が人が落ちてきた。
「川合清一だな!」
「捕まってたまるか」
 川合清一は飛び起きて純平に殴り掛かった。純平の顔面に衝撃が走った。
 純平は腰から崩れて尻餅をついた。
「馬鹿野郎!」
 川合清一が逃げようとしたが、起き上がった純平が川合清一の足にしがみついた。
「離しやがれ!」
 罵声と一緒に純平は足で踏みつけられたが必死で川合清一の足に食らい付いた。
「鬼平、離せ!」
 突然、山本刑事の声がした。純平は訳が分からず、抱きついた川合清一の足を離さなかった。
 次の瞬間純平の身体が浮いた。あっという間に純平は川合清一と一緒に投げ飛ばされていた。アパートの裏に駆けつけて来た山本刑事が川合清一の腕を持って一本背負いで投げ飛ばしたのだった。
「鬼平、ワッパだ!」「・・・」
 何が起きたか純平は状況がまだ飲み込めなかった。
 倒れ込んだ川合清一の腕を絞り上げながら山本刑事は再び叫んだ。
「公務執行妨害と傷害で現行犯逮捕だ。鬼平、手錠だ!」
「はい」

 棺から抜き取られた携帯電話は川合清一の自供通りに、アパートの近くにある豪徳寺に隠しと自供した。境内にある招福観音堂脇の奉納台に奉納されている招き猫の中で、一番大きな招き猫の下から出てきた。
 犯人の川合清一は、携帯電話を闇の市場で売りさばく目的で盗んだのだが、自分の携帯電話が料金不払いで使えない状態だった事もあり、ちょうど未使用のプリペードカードが一緒についていたので、売り飛ばすまでの間自分で使っていようと考えた。しかし、自分の携帯電話と勝手が違い操作を間違えて相談者の携帯電話に電話が掛かってしまった。
 川合清一はこのまま身近に携帯電話を置いて置くとまずいと考えて、売り飛ばすまで近所の豪徳寺に隠しておく事にしたのだった。

 数日後、山本刑事と純平は事件解決の報告に相談者の家を訪れた。その時、奥さんのお骨が相談者の実家の菩提寺に、葬儀の後納められたと聞かされた。
 偶然だろうが納骨したお寺が豪徳寺だったと言う事も分かった。

1-3に続く