世田谷東署おちこぼれ事件簿1-1
山本刑事は南田係長に捜査をしたいと話をしたが、刑事課では他の事件が入っていて課員は手一杯の状態だと捜査に難色を示した。それでも山本刑事は説得し、渋々だがなんとか三日間だけと言う期限付きでの捜査を許可された。
その日のうちに山本刑事と純平は捜査を始めた。
「焼き場に行くぞ」
「はい、でもどうして焼き場ですか」
「焼き場まで棺にケータイが残っていたかどうか確かめるのさ」
二人は棺を焼いた火葬場に向かった。
「こちらではご遺体を焼却し終えて骨を拾っていただく場所にお出しする前に、一緒に異物が焼かれて残っていた時には前もって排除してお出しています」
「この仏さんには何か金属の様な物は残ってましたか」
「たしか何も無かったです」
「実際に旦那がケータイを入れたのなら抜き取られたのは確かだ」
「盗難事件成立ですね」
「いやまだだ、行くぞ」
「今度は何処ですか」
「時間がないんだ、黙ってついてこい」
次の聞き込みは相談に来た旦那の裏を取る為に、旦那周辺の捜査に取り掛かった。
まずは旦那が奥さんの携帯電話と一緒に棺に入れたと言っていたプリペードカードを購入した販売店の聞き込みからスタートした。
今時プリペード式の携帯電話を使っている人は少なく、応対した店の店員も旦那の事を憶えていた。
「ええ、奥さんの為に購入するんだって言ってましたよ。確か一万円だったな、奥さんが遠くに旅をするからって。それにあわててましたね急いで帰りましたよ」
「旦那はどうしてそんなに急いでたんだ、ちょっと怪しいな」
「買いに来た時間からすると奥さんが亡くなった後ですね」
自宅の近所でも夫婦仲の聞き込みをしたが、いつも夫婦二人で仲良く旅行したりと、夫婦仲は良かったと何人もの人が証言した。
「どうやら旦那の虚偽の線はないな」
「そうですね、わざわざこんな嘘の為に一万円ものプリペードなんか買いませんよね」
「ああ、時間も無い事だし次だ」
取りあえず自宅で納棺を終えた後に、旦那が携帯電話を奥さんの遺体の入った棺に入れたと言う時間から翌日の葬儀場に出棺するまでの時間帯に出入りしていた人物を、当日手伝いに来ていた近所の主婦から聞き出し、犯行可能な全ての人物をリストアップした。
捜査開始が午後からのだったので、第一日目の捜査はここで終了した。
二日目はリストの中で単なる通夜客を除き、犯行の時間帯と考えられる時間に棺に近付いたり触れたりする事が可能な人間をチョイスする事にした。
昨日捜査に協力してくれた近所の主婦に、もう一度協力をお願いした。
「またなの」
主婦はまた来たのかと迷惑そうな顔をした。
「ご苦労さまでした。大変でしたでしょお手伝い。私たち何も知らない連中には、どうしていいか分からない時に本当に助かりますよ」
「そうなのよ今の人は何にも知らないから」
主婦はニッコリ嬉しそうに笑顔になった。
「ところで、納棺の後なんですが」
「納棺の後は・・・」
「ええ、どうでした」
「自宅で納棺を済ませてから、それに通夜と葬式をする北沢の葬祭場に移動しても、旦那さんはずーっと棺に付き添っていたわね」
「トイレとか、夜中は寝たんじゃないですか」
「それが朝まで一睡もせず、ずーっとだよ。朝私が行ったら、まだの棺の前に座ってた。身体に毒だからって少し寝かせたんだよ」
「それじゃ朝から後だな」
山本刑事はそうかと大きく頷いた。
「それからは棺の側には旦那さんは居なかったんですね」
「誰も座って居なかったよ」
「誰も居なかったんですね」
「でもさ、私がいってからは色々手伝いや訪問客がいっぱい来て棺の周りに、いつも複数の人がいたよ」
「おいおい、それじゃ誰にも見られずに棺から抜き取るのは難しいって事か」
山本刑事は頭を抱えた。
「・・・そうか、他人に見られても怪しまれない人物なら」
純平は、他人に見られても怪しまれない人物の犯行なら可能だと考え付いた。
「おおッ、そうだよ。堂々と棺を開けても怪しまれない奴なら棺からケータイを抜き取るのは可能だ」
「それが可能な奴は」
まず葬儀社の社員三人、それに親族の旦那の両親に奥さん側の両親と妹の五人。怪しまれずに犯行が可能な容疑者はこの八人。
「葬儀屋の社員なら棺を開けても仕事だと誰も怪しまないな」
「ええ、それに親族も別れがたいと棺を開けて遺体に触れても自然ですよね」
「どっちも犯行の可能性はあるな」
「そうですね」
「この二つの線で明日は聞き込みだ」
「はい」
山本刑事の担当している事件で動きがあり緊急会議に山本刑事が出席する事になり、二日目の捜査はここで終了となった。
1-2に続く
作品名:世田谷東署おちこぼれ事件簿1-1 作家名:力丸修大