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関西夫夫 フォアグラ

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たまに、俺かて早よ帰れる日もある。というか、〆を東川たちがしてくれる日を作ってくれた。そうでもしやんと、俺は毎日、十二時間勤務とかいう、とんでもなく過激な労働になるからや。まあ、一日ぐらいの〆なら翌日に精算できるし、資金も適当につくっこんでおけば、店舗も動く。別に、難しいことはない。

 以前、リフレッシュ休暇の時に、つくづくと思ったのだが、人が「おかえり。」 と、言うてくれるのは、大変嬉しいことやと俺が気付いた。というのも、終日、家で俺がダラダラして俺の亭主の帰りを毎日、出迎えたら、俺の亭主は毎日、ご機嫌がよかった。ついでに、俺の作る料理も褒め称えて食っていた。
 いつもは、まるっきり逆になるから、俺は気付かなかったが、俺の亭主は俺より早く帰るので、誰もいてへん家に帰って、家事をしている。しーんとした暗い家に帰っている。そう思ったら、たまには、俺が嫁らしいことのひとつでもしたろやないか、と、思うわけで、忙しくない日は、早めに定時上がりすることにした。

 もちろん、俺の料理の腕っていうのは、俺の亭主より、かなり劣る。亭主は、作ってもらう喜びがあっておいしい、というのだが、冷静に自分の作った料理を食ったら、亭主の味とは歴然の差がある。ということで、適当に惣菜も買って誤魔化す方向で用意はすることにした。

・・・・フォアグラ? なんかテレビで焼いてたな・・・・焼くだけやったら、味付け関係ないやんな・・・・


 会社から何駅かのデパートの地下へ行って、惣菜を探す。笑いモノとほんまに美味そうなとこ。関西人は笑いをとって、なんぼや、からおいしいだけではあかん。ちょうど、ザリガニの茹でたんがあったので、笑いモンは、それにした。次に、ほんまに美味いもんを物色してたら、それにぶち当たった。
「フランス直輸入です。・・・よかったら、味見してください。」
 と、店の人が爪楊枝に刺したフォアグラをくれた。食べたら、アンキモに近かった。

・・・・これやったら、さくっと焼いて大根オロシとポン酢でええんちゃうか・・・・

 美味いと思うので、それを買った。あとは、サラダとか合いの手になりそうなもんとかゲットしてデパ地下は脱出する。




 最近、俺の嫁が、早く帰って来る日がある。それで、「俺が帰るより前に帰ったら、シバく。ええか? 八時過ぎてから帰って来い。」
 と、おっしゃるので、その日は、適当に時間潰しをしてから家に帰る。なんせ、俺の帰宅時間は、定時上がりすると六時には家におるという速さなので、二時間ほど本屋行ったり、ぶらぶらしてくる。あの嫁の、「おかえり。」ちゅー言葉が、とても嬉しいもんで、ついつい、頬が緩む。なんぞ、デザートでも調達しとこうか、と、その手の店に足を進めた。とはいうても、ケーキなんか食わへんので、果物とか和菓子ぐらいになる。いや、俺はケーキも好きなんやけど、それは適当に食べてるから餓えてはない。俺の嫁の帰宅時間が、通常九時なんで、それまで空腹を抑えるのに、食べてるからや。俺の嫁は知らんやろうけどさ。

・・・・柿かりんごか・・・洋梨は、あんま食べへんなあ・・・

 果物売り場で、旬の果物を眺めて、柿を買う。ちょっと時期としては早いけど、もう美味いやろう。

・・・あと、一時間か・・・せやせや、香辛料の仕入れしとこかな・・・あと、嫁のパンツと靴下買わなあかんかった・・・・


 衣食住に、まったく興味のない俺の嫁は、どんだけ穴が開いてようと色褪せていようと、使える限りは、そのまんまという壊れた生き物なので、俺が適当に入れ替えている。こだわりがないので、どんなもんでも着やはるから、悩むこともないので有り難い。



 帰ったら、もう八時前で慌てた。ちょっとデパ地下で悩みすぎてもうた。とりあえず、買ってきたフォアグラを切り分けて、フライパンに火をいれる。あと、汁物は、豆腐の味噌汁やから、小鍋に水入れて、これも火にかける。ごはんはタイマーで炊けてるから、問題はない。ピチピチと油が鳴り出したら、フォアグラをフライパンに入れた。両面に焼き色つけて、弱火にする。それから、大根オロシをやる。二人分くらいの大根オロシやと、それほど時間はかからへん。フライパンの火を止めて、ぐらぐら言い出した小鍋にほんだしを投入して、豆腐も小さくして投げ入れた。後は、買ってきた惣菜を準備する。

・・・あかんがな、もう八時やんっっ。一分過ぎたら帰って来るっっ・・・ヤバイっっ・・・・

 まだ温めるもんがあるし、ごはんかき回してない。俺の亭主は八時といえば、八時一分に帰る生き物なので、もう帰って来る。もっと優雅にお迎えしてやりたいのに、どうも俺は要領が悪い。ワタワタしてたら、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
「ただいま、まいはにー。」
「おかえり、花月。すまん、まだできてない。」
「ええがな。・・・味噌汁か? こっちは、俺がするから、おまえ、他の事しい。」
 台所に入ってきて、ぐらぐらと煮えそうになっている小鍋を見て花月は、スーツとネクタイを外して、食卓の椅子にかけた。


 ・・・これ、なんよ? ・・・・

 あたふたとスーツとネクタイ姿で料理している俺の嫁は、どうも時間配分を間違えたらしい。小鍋で、小さくなった豆腐がグラグラ茹っている。そして、フライパンには得たいの知れへんもんが鎮座していた。なんかの内臓? というようなブツやった。
「水都、これ、何? 」
「フォアグラ。アンキモみたいやから、大根オロシとポン酢にしよと思ってん。」
「え? 」
 また、とんでもない食材にチャレンジしたらしい。まあ、ええのや。それはそれで、笑えるのでスルーしとく。とりあえず、小鍋も弱火にして味噌をとく。味噌汁になったら、冷蔵庫から小口切りして予め冷凍してるネギを取り出して、それをパラパラと振り撒く。
「・・・おまえ・・それ・・・」
「ザリガニ。食えるんやて。」
「さよか。それは、チンか? 」
「うん。」
「後は? 」
「サラダあるで? あと、かまぼこ。」
 和洋折衷にも、ほどがある。デパ地下で、物色しててわけわからんことになったらしい。
「ほな、風呂の用意してくるわ。あとはいけるやろ? 」
「おおきに。」
 風呂の準備をして、着替えたら、嫁の着替えも用意して戻ったら、食卓が出来上がっていた。嫁も着替えて、食卓につく。
「フォアグラを大根オロシとは思いつかへんかったな。」
「アンキモは同じやったから、いけるはずや。いただきます。」
「まあええけどな。いただきます。」
 手を合わせて、とりあえず、件のフォアグラに手を出した。嫁仕様なので、熱くはない。かなり脂っこいので、確かに大根オロシは合う。
「あ、いけるな。」
「せやろ? ・・・うん、まあまあやな。」
 ザリガニはバラして食うもんで、ふたりして、パキパキと分解した。手が汚れるから全部剥いて手を洗ってから食ったら、これもエビみたいなもんやった。たぶん、これは、ここから、さらに料理するもんやろうけど、あっさり食うには、これでええ。
「ほんなら、あれやな? もし、超絶貧乏になったら、池にザリガニを取りに行ったら、しばらくは食い繋げるわけや。」
作品名:関西夫夫 フォアグラ 作家名:篠義