小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

食べ物による小話 #02「ラーメン」

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「らーめんは何料理なの?」
 僕の隣の女がそう言い出したのは、名古屋駅を歩いている時だった。
 皆もそう感じてると思うが、すでに秋も深まり、そろそろ半そでも厳しくなった。僕もまた、もう一枚上に羽織るか。いやいや長袖のシャツ一枚でもあればいいんじゃないか。などと自問自答し、なぜかこの女のショッピングに付き合う形で“もう一枚”を模索しに来たのである。
 ではなぜ名古屋駅なのかと問われると、少々恥ずかしい告白をせねばならない。本来、僕達のような二十代の、まだ若者といえる年代が服を求めるというならば、もうちょっと先へ行った中心街で見て回ることだろう。
 われわれは、裕福ではない。
 いや、素直に言おう。いつだって先を考えずに散財するため、貧乏なのだ。
 栄や大須などで服を買えるような、そんな裕福な懐は持ち合わせてないのだ。なぜなら、僕の場合はマンガ。彼女の場合はCDへと出資し、自らの労働を錬金術しているのだから。
 ……それが等価交換かは未だ持って不明だが。
「モノローグが長いわ。飽きられるわよ」
 相変わらず空気を読まない嫁である。結婚しているわけじゃないケド。
「……メタな発言も嫌われやすいぞ」
「バカね。最近はこういうのが流行ってるのよ。内輪ネタってやつね」
「そういう発言が嫌われるぞって言ってんだ」
「バカね。……いや違うわ。あんたばかぁ? かしら」
「それは内輪ネタですらねーし、何より内輪のネタがないだろうが。あのドイツ娘を内輪ネタ扱いしてるとしたら、本格的に三百六十度に頭を垂れるべきだ」
「あんたばかぁ? これはパロディよ」
「お前パロる相手を間違えるなよ? 先人に敬意を払え! 鉄球投げもそう言ってるだろ!」
「あんたもね」
「グゥ……」
 相変わらず口の減らない!
「で、らーめんは何料理なの?」
 話はそれたと思ったのに……。こいつ、やっぱり食い物に関しちゃ本当に譲らんな。
「中華料理だろう……常考……」
「常考とか言って人の頭ン中縛らないで。そういうのが想像力の欠落につながり、ゆとりとか言われちゃうのよ」
「物事を大きく言うのもゆとりとか言われちゃうよな」
「どちらかっちゃ中二でしょ」
「中二ね……。なんでもかんでも中二病中二病。おかげで怖くて小説も書けやしないぜ」
「そんなこと恐れてるヤツがまともな話なんか書けないわよ」
「それこそ想像力の欠落ってえやつじゃないの?」
「らーめんについて話をしましょう」
 なぜそこまでこだわるんだ。何がそこまでこいつを突き動かす。こいつという人間を理解することなど、所詮人類には難しいのかも知れない。
 まぁそんなことばっかり言っても居られない。僕はしぶしぶながら、話をあわせた。
「ほとんどが中華料理屋にあんだからよ。中華料理じゃねーのか?」
「でもらーめん単体で出してる店もある。むしろ今はそちらが主流よ」
「少し前に、だろ。今でもあるケド、ずいぶん流行らなくなっちゃったよな。残念だ」
「ちょっと流行るとすぐテレビとかで持てはやすじゃない。んで、視聴者が飽きちゃったら閑古鳥。なんだかむなしいわ」
「でも、本当のラーメン好きは安心してるんじゃないか?」
「逆よ。その波に流されて、お気に入りのお店がなくなってしまったファンも居ると思うわ。らーめんガイドブックもずいぶん見なくなって不便だし。そういえば、イオン熱田のラーメン哲人館も閉鎖しちゃったしね……」
「それはもうしょうがないことだ。人気のあるガンダムや仮面ライダーだって、いつまでも続けられないんだよ」
「ライダーとらーめんは違うわ。ガンダムは人気があれば生き残るケド」
 ん?
 ちょっとした違和感。
「今、なんつった?」
「仮面ライダーブラックRX?」
「お前のお気に入りライダーじゃねえよ」
「じゃあVガンダム?」
「……リピート・アフタ・ミー。ラーメン」
「らーめん」
「……ワンスモア。ラーメン」
「らーめん」
「らうめんじゃなくて?」
 日清さん。愛してます。
「美味しいよね。特にしょうゆ味。……じゃなくて、もういいでしょ? 日本料理よ。だからひらがなの方がマッチするわ」
 なんて無茶な。
「何言ってんだ。元は中国料理なんだから、カタカナで充分だろうが。かすていらだって今はカステラだろ」
「いつの話をしているの? 今は現代よ」
「かすていらの時代だって名づけた当初は現代だ。そして後に改善されてカステラになったんだ。別になんでもいいじゃねえか。中華料理でも日本料理でも」
「だめよ。私はらーめんには日本食であってほしいの。カレーと一緒に」
「なんで?」
「どちらも外来食には変わらないケド、独自の発展を日本で遂げたものよ。もはや日本食と言っても過言じゃないはずよ」
「過言じゃないだけで外来食には変わらんだろうが。外国からもらった種が、日本で花開きゃ日本産か? それに、そうなったらカレーじゃなくてかれーになるぞ」
「分かってないわね。このカマドウマ野郎」
 バッタ目・カマドウマ科に分類される昆虫の一種。俗称で便所コオロギとも呼ばれる。背中や横顔が馬に似ており、昔はカマドでよくみかけたための名前だそうだ。最近見かけないなぁ。
「……また不快害虫扱いかい」
 僕の言葉は秋の空に消したまま、彼女は話を(強引に)進める。
「日本で発展したものは日本のものよ。それぞれの母国料理とは別物として扱いたいの。発展させた料理に誇りを持つために、日本食としたいのよ」
「あんまお外のことをバカにしてっと、そのうち大目玉食うぞ。大して知りもしねえくせに」
「あんただって、日本のらーめん職人がどれだけ苦労して独自の味を開発したか知らないクセに」
「そんな努力はどんな職人もしてんだよ。鴨川会長が言ってたろうが。“努力した者が全て成功するとは限らないが、成功した者は全て努力している”ってよ」
「それに関しては納得いくわ」
「本家も分家も、それぞれ努力して今の味とか手に入れてんだ。あんま職人バカにすんなよ」
「そういえば」
「あ?」
 しまった。勢いにのって声を荒げてしまった。ちょっと反省。
「中国にラーメンってないの知ってた?」
「ああ、らしいな。ついでに言えばインド人には日本のカレーは辛すぎるらしい」
「へぇ。なんで?」
「知るかよ。ただ、インドのカレーは香りを楽しむ食べ物らしいぞ。辛さじゃなくてな。そういうのも関係あるかもな」
「ふーん……。じゃあラーメンもそういうものなのかしら」
「というと?」
「本来の楽しみ方とは違った食べ物に変貌しているのかも知れないわ。スープとか、麺とかさ」
「日本のスープと中国のスープは違うってのか? ありうるかもな」
「あら何よ。今回はずいぶん殊勝な口を利くじゃない」
「僕がなんでもお前に反抗するとでも思ってるのか? 僕はツンデレじゃないぞ」
「そういうのが好きなのかと思ってたのよ」
「お前は僕の何を見てたんだ……」
「そういうものよ。男女の仲って。ううん。男女だけじゃないかもね」
「お前、そういう思考癖あるよな。理屈っぽいっていうか、あれみたいだ」
「城戸熊太郎?」
「違う。お前、あんな極道者なのか?」
「じゃあDIO?」
「確かに色々と理屈こねてるケド……」
「えっと、阿良々木暦くん?」