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篠原 チキンライス

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「いや、ちょっと腹に溜めてから飲まないと、すぐに酔うから。おまえ、これ、アルコール度数が半端じゃないぞ? 甘口だが、危ない代物だ。」
「そんなの知りませんよ。瓶がキレイだったって言ったでしょ? 」
「あ、これ、泡盛の古酒じゃないか。若旦那、こんなの、どうしたんだ? 」
「お母さんと買い物に行って見つけたから買ってきた。雪乃には甘いって不評だったんだ。」
「確かに甘口だけどさ。それより内臓が焼けそうな感じだぞ、りん。
度数四十だ。」
 さっさとチキンライスを片付けた江河も、橘の飲みかけを口にして、おーと叫ぶ。アルコール度数四十ということは、ウイスキーなんかと同じくらいだ。それから、いそいそと荷物から惣菜を取り出した。
「これのアテなら、これだ。鴨の臓物煮込み。」
「いいなあ、りん。さすが、いいとこを選んでくる。」
「篠原、おまえも食え。」
「やだっっ。そんなの苦いだろっっ。」
「クスリだと思って食え。」
「いらないっっ。・・・・冷蔵庫に入れるものは? 」
「整理してくれ。細野、メシ終わったなら、こっちに付き合えよ。強かったら水で割るか氷で薄めればいい。・・・・どうせ、これから三時間は火の番なんだからさ。」
 普段は無口な上司だが、こういう時は喋る。ほらほら、と、飲みのほうに参加しろ、と、細野にも酒が注がれる。三時間くつくつと煮える鍋のアク取りをしながらの酒宴になるらしい。

 ちょっと、それに巻き込まれていたら、篠原の姿が台所から消えていた。あれ? と、細野が居間のほうに出ると、誰かと話している声がする。
「・・・・ダックライスなんだって・・・え? キープ? 残るかなあ・・・・うん・・・わかった・・・うん、付き合わないで寝るよ・・・うん・・・・」
 相手は件の氷の女王様だろう。それなら、そっとしておくほうがいい。戻ったら、橘と江河が、ニヤリと笑った。
「おやすみコールだろ? ほんと、どこまでもイチャコラと・・・」
「若旦那に自覚がないのが笑えるけどな。・・・だいたい、今日だって何日も前に通達が来てたからなあ。」
 どうしても、週末にいられない場合、氷の女王様は通達を出す。主に橘とりんだ。この日は留守をするから、お守りをしてくれ、という内容のものがメールされてくるのだ。だから、予め、りんも予定を入れないし、橘のほうも身体を空けてある。さすがに、チキンライスをご所望だったので、準備に時間がかかったが、身体は空けてあったのだ。そのうち、細野にも届くだろう、と、言う。
「細野、これから三時間、飲み会だ。」
「了解です。じゃあ、途中で、しのさんは休んでもらったらいいんですね? 」
「適当に風呂に浸けて寝かせろ。りん、おまえ、酒持って来なかったのか? 」
「読書タイムのつもりだったから、酒はありません。」
「ちっっ、用意しろよ。こうなるんだからさ。」
 すちゃりとカバンから論文を取り出した江河さんは、そのまんま橘さんも無視して、コンロの前に椅子を移動させて本気で読書タイムだ。各自勝手にしているのは、いつものことなので、僕も気にしない。とりあえず、客間に布団を準備しておこうか、と、歩き出す。
「細野、俺の布団はいらない。篠原の部屋で寝る。だから、篠原は雪乃の部屋に押し込めろ。」
「いいんですか? 」
「今更だろ? 何が悪い、何が。」
 まあ、いいっちゃーいいのだ。正式に結婚していないものの、しのさんと雪乃さんが一緒に寝ているのは、僕でも知っている。それに、江河さんは、集団で寝るのは嫌いなので、いつも、そうなる。
「俺、コンビニまで行ってくるが、何かいるか? 」
 さすがにアルコール度数四十度の酒は厳しいから、橘が買出しに出ると宣言した。
「アイス。もちろん、高級なヤツのバニラをお願いします。」
「わかった。細野、おまえは? 」
「僕はありません。」
 そのまま財布を手にして、橘さんは出て行った。そして、居間に入り、電話中のしのさんを強引に連行して行った。ああいうことをするから、雪乃に報復されるって気付かないのかなーと、のんびり江河さんが感想を漏らしていたが、止めるつもりも忠告するつもりもないだろう。
「じゃあ、布団の準備してきます。」
「おう。」
 週末ごとではないものの、結構な頻度で僕も、この宴会に参加している。寂しい週末にならないので、僕も、この宴会は楽しみだ。何より、上司たちが、寛いだ時間を過ごしているところに参加させてもらうのは嬉しい。



 翌日の午後、合鴨の出汁で炊かれたタイ米の上に、適当にぶつ切りにされた合鴨が載せられ、周囲に野菜も彩に飾られたワンプレートが完成された。ここまでなら、誰でもできるのだが、これにかけるタレはりん特製だ。
「おまえ、パクチョイとかは? 細野。」
「大丈夫です。」
「そりゃよかった。若旦那は香辛料がからっきしでな。はい、篠原。」
 篠原のタレは、基本、ニョクマムという魚醤を出汁で割っただけのものだ。他のものは、これに青い唐辛子や他の香辛料、さらにパクチョイという香菜が入る。この匂いが、まさにアジアな感じだ。昼間だというのに、りんと橘は、東南アジアのビールを用意している。ほかほかと湯気が立っているごはんを一口、篠原は食べて、にこっと微笑んでいる。
「あーやっぱり、りんさんのダックライスはおいしい。あんまり変わらないね? 」
「どっちも鳥だからな。・・・・・まあ、いいよ。好きなだけ食え。」
 細野も手を出したが、確かに、あっさりしている米とタレは絶妙に合っている。ぴりっと青唐辛子がきいていて、茹でてあっさりした合鴨の味付けとしてもいい。
「これもチキンライスなんですねー。」
「いや、ダックだって、細野。」
「ああ、そうなんですけど。同じ名前でも、随分、違うんで驚きです。」
「どっちのチキンライスもおいしいよ。普段、作るなら細野のは簡単でおいしい。」
「お子ちゃまには、細野ののほうがいいんじゃねぇーか? 篠原。」
「うるさいなあ。僕は、どっちもおいしいですよ。なんなら、ビール付き合いましょうか? 橘さん。」
「いらん。ジュース飲んでろ。おまえに、このビールは百年早い。」
「まあねぇ。俺も、この料理だとオリオンかタイガーですよ。」
 たわいもない話をしつつ、ブランチは続く。休日に、だらだらと食事するには、この家は広くてゆったりしている。残念ながら、細野は午後から予定があるので帰るのだが、まあ、残りの上司たちは居座るだろうから、直属の上司のことは心配しなくても済みそうだ。
作品名:篠原 チキンライス 作家名:篠義